インドの家庭料理を楽しむ風景

インド流、アヒムサ(非暴力)で丁寧な食事の摂り方

ヨガの八支則のヤマの中に、アヒムサ(非暴力)という教えがあります。

インドではアヒムサの考え方はヨガを行っていない人にとっても馴染みの深い教えです。特に仏教と同時期に栄えたジャイナ教にとっては最も重要だと考えられ、日常生活の細かい習慣の中でもアヒムサに気を付けています。

今回はジャイナ教の考え方を参考にしながら、アヒムサな食事とは何かについて提案します。

アヒムサ(非暴力)の大切さ

アヒムサの実践をもっとも厳格に行っているのは、ジャイナ教と呼ばれるインド発祥の宗教だといわれています。仏教やヨガと同じ時代に栄え、お互いに影響を与え合ったと考えられています。

ジャイナ教徒は人口的には多くありませんが、とても道徳的で誠実な人が多く現在のインドでも信頼されています。どのような考えで実践を行っているのかご紹介します。

ジャイナ教の人は5つの戒律を厳格に守ります。

  • アヒムサ(非暴力)
  • サティヤ(正直)
  • アステイヤ(不盗)
  • ブラフマチャリヤ(禁欲)
  • アパリグラハ(無所有)

この5つはヨガ・スートラのヤマに影響を与えたと考えられています。そして、5つの戒律の中で最も厳格に守られているのはアヒムサです。

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あらゆるものへの生命を大切にするアヒムサ

ジャイナ教の大きな特徴は、人間や動物以外の植物や微生物の中にも存在するジーヴァ(霊性)を大切にすることです。

また、地・水・火・風といった自然の中にも霊性があると考えます。自然の中に霊性を感じるアニミズム(精霊信仰)的な感覚は、日本の神道的な感覚にも近いのかもしれません。

ジャイナ教ではジーヴァを純粋な状態に保って自己を高めることを求めます。どうしてアヒムサが大切かというと、暴力や殺傷を行うことで生まれる苦痛は被害者だけでなく加害者にも返ってくるものなので、自己のジーヴァを汚す行為だと考えられるからです。

自身のジーヴァを純粋で清い状態に保つために戒律を守るという考え方は、ヨガにとても類似していますが、ジャイナ教では動物だけでなく植物の中にも生命を感じているため、より厳格な食事のルールがあります。

インド流のアヒムサな食事のルール

インド料理が並ぶテーブル
食事は自己の生命を維持するための行為ですが、そのために他者の命を奪うことは良くないとインドでは多くの人が考えています。そのため現在でも多くのインド人がベジタリアン(菜食主義者)です。

インドのベジタリアンは健康のためではなく、殺傷を避けるために行われます。殺戮の必要な肉や魚は食べませんが、ミルクやバターなどの乳製品を食べるのが一般的です。また、家庭ごとにルールが違い、肉はダメでも卵は食する方もいます。

植物も殺さないジャイナ教の食事

ジャイナ教ではさらに植物の生命についても深く考えるので、食べられるものがさらに限られます。具体的に見ていきましょう。

主に使われる食材は穀物類、葉物野菜、豆類、フルーツ、ナッツなどです。玉ねぎ、にんにく、にんじんなどの根菜類は、その部分を取ってしまうと生命を奪ってしまうため禁止されています。玉ねぎなどを土の中から収穫するときに、周囲の小さな生物の命を奪う可能性があることも懸念されています。

また、ハチミツも手に入れるために蜂の殺生が行われる可能性があるため避けられます。アルコール類も、作る工程で微生物を利用するため避けられます。

同じジャイナ教徒の中でも、食材のルールは宗派や家庭によって異なります。

例えば、ブロッコリーは隙間に虫が入り込んでいることが多く殺してしまう可能性が高いので避ける家庭もあれば、ミルクを得るために牛に与える苦痛を考えて乳製品を避ける家庭もあります。

トマトも色が血の色に似ていたり、生命の元になる種子を多く含んでいるからと避ける家庭もあります。それぞれの家庭でルールが違うため、ほとんどのジャイナ教徒は外食をあまりしないで家庭ごとに料理する場合が多いです。

調理方法にも気を付ける

食べ物を調理している時に行ってしまう殺生にも細心の注意を払います。

特に火を使った調理には慎重です。日が沈んだ後に料理をすると、照明の光に寄って来た小さな虫を殺してしまう可能性があるため、暗い時間には料理はしませんし、食事も日暮れ後には基本行いません。

インド料理の調理風景

これだけ書くと、とても窮屈に感じてしまうかもしれません。しかし実際にジャイナ教のレストランを訪れると、とても美味しい食事が提供されています。唐辛子、にんにく、玉ねぎなどの刺激性の食材を使わないジャイナ教の食事は、とても優しい味付けで、日本人にとっては食べやすいと思います。

断食が最高のアヒムサ

ジャイナ教は厳しい苦行を行うことでも知られています。その中でも有名なのは断食です。たとえ気を付けて食材を選んでいても、必ず植物から生命の一部を頂かなくてはいけません。

そのため、高尚なジャイナ教の聖職者たちは、断食を行い死に至ることがあります。ジャイナ教の開祖と言われているマハーヴィーラも断食死をむかえたといわれています。

しかし、断食死は一般のジャイナ教徒には許されておらず、修行の結果、自身の肉体への執着が完全に手放すことができた聖者のみが実践できます。

日常の何気ない暴力に気を付ける

食事以外でもジャイナ教の方々が気にしているアヒムサの実践をいくつかご紹介します。

ジャイナ教の人は箒(ほうき)を持って歩く姿で知られていますが、座ったり横になる時には必ず地面を箒で掃くことで、地面にいた虫などを殺さないように気を付けています。

白衣派と呼ばれる流派の人たちが白い衣服しか着ないのも、虫などが止まっていた時に気が付けるようにです。また、白衣派の僧侶たちは白いマスクをしていますが、マスクをするのも空気中の虫を誤って吸い込んで殺さないためです。

水を飲むときには、必ず布でろ過してから飲みます。このように、自分の生活のあらゆる行為が、無意識の暴力や殺生になっていないかを常に考えて行動します。

同じように実践するのは難しくても、日常での無意識の殺生を避けるという意味では、参考にできる考え方ではないでしょうか。

自分の食事への意識を高めてみよう

ジャイナ教の食事のルールは、アヒムサをとことん追求したものであり、ここまで厳格に守ると日本ではいっさい外食ができなくなってしまいますね。

しかし他宗教の食生活を知ることは、自身の食生活を見直すのにとても良いきっかけを与えてくれると思います。

ジャイナ教徒の人たちは、基本的に農業を行うことができません。それは、野菜を栽培するときに多くの生命を奪ってしまうからです。しかし、自分が直接殺していないからと、農業で人間が自然から奪ってしまう生命を見ないふりして良いわけではありません。

日本のスーパーでは、売り切れがないように常に潤沢な食材が並べられて、それにより食品廃棄がされています。私たちの便利さのために、どれだけの資源を人間が奪っているかを考えると心が痛みます。

ほかにも、安いからと輸入の食材ばかり買うことは、結果的に運搬に使う地球資源の浪費を招いてしまうかもしれません。それであれば、土地のものを美味しく頂くのが正しいと考えられるかもしれません。

正解を探すのは難しいですが、考えることはとても大切です。

食事のスタイルは人によって考え方が全く違うため、ベジタリアン(菜食主義)やヴィーガンが一概に正解だと言い切ることはできません。しかし、毎日行う習慣であるからこそ、自身の食生活に意識を向けることは大切ですし、日常でできるヨガの実践といえるのではないでしょうか。

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