水色の背景に人の頭が二つ、笑っている顔とむすっとしてるかお。外してみよう「色眼鏡」の文字

# 4: ~外してみよう「色眼鏡」~ヨガスートラが教えるネガティブバイアスの外し方とは?

ヨガスートラが語る「プラティパクシャ・バーヴァナム」とは?

開かれた本に光が降り注いでいる
ヨガの教典「ヨガスートラ」にかかれている「プラティパクシャ・バーヴァナム」

突然ですが、皆さんは『ヨガスートラ』の中にある“プラティパクシャ・バーヴァナム(pratipakṣa-bhāvanam)”という言葉を耳にしたことがありますか?一言でいうなら “発想の転換”。より広義的に考えれば “全体を見る” とも解釈できるとても大切な概念です。

プラティパクシャ(pratipakṣa)は“反対の”、バーヴァナム(bhāvanam)は“育む”という意味。スートラでは

後ろ向きな思考に苛まれたときは、その反対のことを考えなさい
(Sutra 2.33: vitarka-bādhane pratipakṣa-bhāvanam)

という一文で登場しています。

ネガティブ思考の罠にはまっていませんか?

肘をついて、組んだ手に顔を乗せる女性
ネガティブ思考に陥っていませんか?

もちろん性格の違いはあれ、誰にでもネガティブ思考の罠にはまってしまった経験があるのではないでしょうか。もう過ぎてしまったことを「ああすればよかった…。こうすればよかった…」と憂いてみたり、まだ起きていないことを「こうなったらどうしよう…。ああなったらどうしよう…」と思い悩んでみたり。わたしたちのマインドは、そうやって過去と未来の間を行ったり来たり。

人の知性を司り、“考える”という重要な役割を担ってくれているマインド。そうした思考が浮かぶのはごく当たり前ですが、その数は平均およそ一日7万2千、小説一冊分になるとも言われています。そのほとんどが同じ思考のくり返し、さらには大半が後ろ向きな考えであることも、昨今の調査研究で明らかになっているのです。

つまりは、ぐるぐると思考のループに囚われてしまうのも人として決して珍しいことではありませんが、そもそもなぜわたしたちは、そうした“後ろ向きな思考”に苛まれてしまうのでしょう。それは、以前の記事でも少し触れた“ネガティブ(ネガティビティ)・バイアス” という“色眼鏡”を、誰もが無意識にかけてしまっているがゆえ。

今のわたしたちがあるのは、「ネガティブ・バイアス」のおかげ!

tiveの文字と、posi, negaをひっくり返そうとしている指
ネガティブ思考があったから今の私たちがいる!

ネガティブ・バイアスは、前向きな情報より後ろ向きな情報を重視する傾向を示す心理学用語です。人は、嬉しい、楽しいといったプラスの出来事より、辛い、恥ずかしい、嫌だといったマイナスの出来事の影響を受けやすく、その記憶がより強く残りやすいとされています。例えば、たくさんの人から称賛を受けても、たった一人から批判されたその言葉ばかり反芻してみたり。過去の失敗がなかなか頭から離れなかったり。挑戦してみたい気持ちはあっても、何かよくないことが起きるのではないかと不安が先に立ってしまったり…。

そうしたネガティブ・バイアスは、裏を返せば防衛本能でもあり、わたしたちの祖先が人類としての進化を遂げる過程で身につけてきた能力の一つと言われています。一度落ちた橋をまた渡って命を危険にさらさないですむように、自ずとまずは「石橋を叩いている」ようなものですが、必要以上に叩き過ぎて、橋の手前で立ち往生してしまっていることもあるかもしれません。

マイナスもプラスも必要なこと。「全体像」に気付く

分からなかった人が、気づいて分かる様子が黒板に書かれている。
ネガティブな思考も、ポジティブな思考も、両方必要!

発想の転換とも言えるプラティパクシャ・バーヴァナムは、マイナスの思考が浮かんだら、プラスのことを考える、すべてを前向きな思考に置き換えていくという“ポジティブ・シンキング”とも少し違い、どんな出来事も完全にマイナス(100%ネガティブ)ではないという“全体像”に気づくこと。いわば、より大きな視点から起きていることを俯瞰して、その本質を見抜くことでもあります。

影がなければ光が存在しないように、すべてのもの(プラクリティ)は、対極の関係性にあるものが融合して成り立っています。マイナスを押しのけず、プラスにしがみつかず、そのどちらも同じように見守っているとき、わたしたちはそれが二つに分かれる前の大元、真髄(プルシャ)としての無限の自分に戻っていることになるのです。

“Rather than being your thoughts and emotions, be the awareness behind them.

「思考や感情に飲み込まれず、その背後にある意識そのものでありましょう」
(~ Eckhart Tolle エックハルト・トール/和訳: 川原朋子)

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