アスリートヨガの効果と限界!ヨガをすすめたいスポーツはどれ?

アスリートヨガの効果と限界!ヨガをすすめたいスポーツはどれ?

オリンピック選手にヨガを勧める国がある!?

2020年7月24日に東京オリンピックが開幕します。世界のトップアスリートが東京に集結する4年に1度の祭典を今から楽しみにしている方も多いのではないでしょうか?この東京オリンピックにむけて、選手が最高のパフォーマンスを出せるよう、各国で様々な研究が行われています。その調査報告書の一部に「yoga」をという記載を見つけたので、その内容をご紹介します。

「yoga」に関して記載があるのは、ニュージーランドの「Sports Performance Research Institute(スポーツパフォーマンス調査協会)」がまとめた「東京オリンピックに向けたアスリートの健康管理に関する戦略」と題した報告書1)。この報告書はその名の通り、アスリートの健康管理やパフォーマンスへの影響に関してまとめられています。

そもそも、アスリートがオリンピックに向けて気をつけなければならない最も一般的な病気は何だと思いますか?それは、「感冒」つまりは「風邪」なんです!

ただの「風邪!?」と拍子抜けしてしまいそうですが、今までのオリンピックやパラリンピックで最も多くの選手が訴えており、パフォーマンスに直接影響を及ぼす重要な問題です。

先の報告書では、風邪を予防する戦略の一つとしてマインドフルネスが取り上げられており、その中の一つに「yoga」が出てきます。ですが残念ながら、

マインドフルネスがアスリートの風邪予防にどれだけ効果があるのか不明である

と記載されています。一方で、下記2点の研究結果を踏まえ、マインドフルネスはアスリートにとって有益かもしれない、と勧められています。

  1. 8週間のマインドフルネス瞑想を行うと、風邪の発症率が減少することが一般の人々で示されていること。
  2. 4~6週間のマインドフルネストレーニングによって、アスリートのメンタル状態が改善されたこと。

ただしあくまでも、有益であることを示すには、更なる調査が必要であり、取り入れようと検討しているアスリートには、オフシーズン中に自身が取り組むスポーツに合わせて最適化することが求められています。

ヨガはどの程度アスリートのパフォーマンス向上に効果があるのか?

先の報告書の性格上、どの競技でも当てはまるような風邪の予防・メンタルについてのみ、記載されていました。では、ヨガをやることでスポーツ選手のパフォーマンスに、具体的に良い影響を与えた結果はあるのか?答えは「YES!」良い影響があった試験結果があります。

今回は、大学生のバスケットボール選手を対象に行われた試験2)について注目してみましょう。9ヶ月にわたって週4日、1日2時間の使い方を下記のように分け、9ヶ月前後の体力テストやシュート成功率について比較しました。

  • 通常の練習を行う選手12名
  • ヨガを取り入れた練習を行う選手13名

早速結果を見ていきましょう。まずは体力テストの結果です。

 9ヶ月前と後の体力テストの差
 9ヶ月前と後の体力テストの差

このグラフは試験を行う前と後の“差”を示しています。ですので、シャトルランや長座前屈、バランステストなど下記3つの基礎体力については、練習にヨガを取り入れることで効率的に強化できる可能性が示されました。

  1. 持久力
  2. 柔軟性
  3. バランス力

※20mスプリントや俊敏性テストは速いほど良い項目になりますので、グラフが下に下がる程良い結果が示されています。9ヶ月の練習後、「結果が悪くなった」というグラフではありません。

続いて、バスケットボールの要でもあるシュート成功率について見ていきましょう。

9ヶ月前と後のバスケットボールシュート成功率の差
9ヶ月前と後のバスケットボールシュート成功率の差

こちらも9ヶ月の練習前後の“差”を表しています。ヨガを取り入れた練習を行った選手らは3ポイントシュートの成功率が特にUPしていることがわかります。具体的には、9ヶ月間の練習でシュートの成功率が56%から76%に改善しました。一方、通常の練習を行った選手らの3ポイントシュート成功率は60%から68%への改善に留まりました。

ヨガをお勧めしたいスポーツはこんなスポーツ

これまで紹介してきたバスケットボール選手での実験結果を踏まえて、ヨガをお勧めしたいスポーツについて考えていきましょう。

バスケットボール選手を対象にした試験で特徴的だったのは、3ポイントシュートの成功率はヨガを取り入れた練習をした選手らが優れ、動きながらのシュートは通常練習をした選手らの方が優れた結果が出たことです。このことから、

より正確性の求められるシチュエーションに、ヨガが効果的なのではないか!?

という仮説が立てられます。

これを裏付けるデータがあります。ヨガに限らず、マインドフルネス実践が各スポーツのパフォーマンスに対してどのような効果があるのか調べた実験3)では、射撃とダーツにおいて特に良い結果が示されています。

マインドフルネス実践が射撃とダーツにおいて、特に良いパフォーマンスができるという実験結果がある
マインドフルネス実践が射撃とダーツにおいて、特に良いパフォーマンスができるという実験結果がある

この実験では、陸上競技、自転車競技、ダーツ、ハードル、ホッケー、柔道、ラグビーの選手などの290人のアスリートが対象になっています。どの選手でもメンタル状態の改善は見られたものの、スポーツのパフォーマンスに明らかに影響があったのは、射撃とダーツだったというのです。

これらのことから、ヨガがオススメできるのは、プレッシャーのかかる中、高い正確性を要するスポーツだと言えるのではないでしょうか?

また、一口にアスリートと言っても一人一人悩みは異なると思います。これまでの結果から、「メンタルを強くしたい」「柔軟性をつけたい」「バランス力をつけたい」という方にもヨガがオススメできそうですね。

これからのアスリートヨガの研究に期待

「スポーツ×ヨガ」というテーマでヨガのエビデンスを紹介してきましたが、正直にお伝えすると、この分野のエビデンスはまだまだ蓄積途上と言わざるを得ません。そもそも、限られた練習時間の中で、アスリートがあえて”ヨガ”に取り組む意味があるのか、真剣に考える必要があります。

一方で、サッカーの長友佑都選手のように、ヨガに取り組んだことでココロとカラダに良い変化があったと実感しているアスリートが実際にいるのは見逃せません。

今後、アスリートヨガの研究がさらに進み、「どのようなヨガが有効なのか?」「シーズンのどのタイミングに、どれくらいヨガを取り入れるのが良いのか?」などの疑問が解決することが期待されます。

また、一般的に「柔軟性がつくと怪我が減る」と言われています。ヨガを行うことで柔軟性が強化できることは分かっていますので、実際に「アスリートの怪我予防にヨガが効果的かどうか?」などのデータも蓄積されるとアスリートがヨガに取り組むきっかけになるのではないでしょうか?これからの研究に期待です。

参考資料

  1. Keaney LC, et al, frontiers in physiology, 2019
  2. Brinzak S.S., et al, Padagonics psychology, 10, pp.3-6, 2013
  3. Bühlmayer L, et al, Sports Medicine, 47(11):2309-2321, 2017