看護師が伝える!ヨガ哲学と生理学から考える「シャンティの哲学」

看護師が伝える!ヨガ哲学と生理学から考える「シャンティの哲学」

Shanti(シャンティ)という言葉を聞いたことはありますか?
Shantiとは、「平穏」「静けさ」「調和」などと訳されるサンスクリット語で、ヨガ哲学の中でもとても大切な概念です。

たくさんのストレス(刺激)の中で暮らしている私たちは、日々、頑張りすぎています。そして、イライラする気持ちや不安感、睡眠の質の低下やホルモンバランスの乱れといった様々な悪影響が心身に及んでいます。
そんな今だからこそ必要なのが、Shanti(平穏)を内側に見出すというヨガ哲学です。これは、ただ単に感情を手放した「空っぽの状態」ではなく、内側の動揺が止み、意識が一点に定まった状態を指します。起こっていることを無視するのではなく、起こっていることの中にいても揺れない心の土台を作っていくことで、ストレスの感じ方を変えていく一つの手がかりになり得ます。

ヨガ哲学の視点

ヨガの教典「ヨーガ・スートラ」
ヨガの教典「ヨーガ・スートラ」

『ヨーガ・スートラ』第1章2節には、こう記されています。

ヨーガとは、考えの動きを静かに収めることです。

向井田みお. 『やさしく学ぶYOGA哲学 ヨガスートラ』第1章2節. アンダーザライト ヨガスクール YOGA BOOKS . 2023年11月20日 第5版第1刷. p.22

ここで言う“動き”とは、私たちの中で起き続けている思考、感情、判断、記憶といったすべての動きです。その内的な騒がしさが止み、純粋な意識だけが残る状態がShantiであるとも言えるでしょう。つまり、Shantiとは単なる「リラックス」ではなく、感情に飲み込まれない明晰な心の状態であり、意識の集中と落ち着きが同時に存在している状態なのです。

生理学の視点

交感神経と副交感神経
交感神経と副交感神経

では、このShantiという状態を身体の側から説明するとどうなるのでしょうか?
自律神経の観点からみてみましょう。

ヨガによって得られる「落ち着いた状態」は、副交感神経の活性化とよく関連づけられます。たしかに、ゆったりとした呼吸や静かな時間は、交感神経(緊張・興奮)から副交感神経(回復・休息)へと切り替えるスイッチになります。しかし、副交感神経が優位になりすぎると、眠くなったり、無気力になったりすることもあります。それでは「瞑想的集中」や「観察的な意識」は保てません。ここでポイントとなるのは、Shantiとは「単に脱力する状態」ではなく「覚醒しながら安定している状態」だということです。

つまり、Shantiという状態は、

  • 筋肉の緊張は最小限。
  • 内臓機能や呼吸は落ち着いている。
  • でも、脳は明晰で意識はクリア。

という “緊張と弛緩のバランスが絶妙に取れた状態” が必要なのです。

迷走神経

ここで注目したいのが、迷走神経です。迷走神経は、副交感神経の主成分で、脳と内臓をつなぎ、心拍・呼吸・消化などを調整しています。特に、腹式呼吸や声の振動(マントラ・詠唱など)は迷走神経に働きかけ、“安全である”という感覚を脳に伝える働きがあります。この「安心してよい」という感覚が心の緊張をゆるめ、Shantiへとつながっていくのです。

Shantiを導くヨガクラスをつくるには

シークエンスを組む時は、「ゆるめる」「止まる」だけでなく「集中と気付き」を保てる構成がポイントになります。

たとえば、

  • 前鋸筋や横隔膜を活性化させる“胸が広がるようなポーズ”で、呼吸の自由度を確保する
  • 中枢神経を安定させるような“軽い逆転のポーズ”で、意識の集中を促す
  • 長めのシャヴァーサナやマントラの響きで、迷走神経に働きかける

こうした構成をとることで、身体・神経・意識のすべてが協調し、「ただリラックスした」だけではないShantiの質感を生み出せるのです。

いかがだったでしょうか?
Shantiとは、ただのリラックスではなく「揺れない静けさ」です。自律神経の視点からは、副交感神経優位でありながらも集中した覚醒状態が理想的です。この状態を作るために、ヨガでは、呼吸・声・ポーズの組み合わせで迷走神経を刺激し、「安全で安心な状態」を身体からつくることが大切になってきます。
ストレス社会を生き抜く知恵として、「Shantiの哲学」を取り入れてみてはいかがでしょうか?

参考文献

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