元気な老後を過ごそう!~瞑想で保つ心の健康~

元気な老後を過ごそう!~瞑想で保つ心の健康~

健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。

文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2023年3月末までで7,500件を超える報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。

今回は高齢者の心の健康に対する瞑想の効果について、2018年のフランスからの研究報告を紹介します。

研究の背景:高齢化が進む社会で求められる健康寿命

健康な高齢者
健康な高齢者

近年、人口に占める60歳以上の年齢層の割合が増加しており、健康寿命の延伸は重要課題として注目されています。

なかでも65歳以上の高齢者のうち、50%が睡眠障害を抱え、10~15%に不安症、10%に痴呆があるとの報告もありました。

痴呆症の治療法はほとんどないものの、生活習慣因子(食事、認知的行動、身体的活動など)が影響を与えることが分かってきています。

さらにはアルツハイマー病患者の3分の1は、喫煙や高血圧症などの改善可能なリスク因子によって引き起こされているようです。

これらのようなリスク因子は、何等かの潜在的な心の状態が関係しているとも考えられており、不安は痴呆症のリスクを約20%引き上げるとも言われています。

またストレスは記憶と関係する脳の海馬に影響を及ぼし、神経質な状態や不安が積み重なることでより痴呆症を引き起こす可能性へとなり得るでしょう。

これらの症状はしばしば睡眠障害、アルツハイマー病に関連した精神障害を伴うことがあります。

うつ、不安症、不眠症だけでなく、無症候性のストレスや心配、認知能力の衰退、健康状態や精神状態の悪化は、脳の構造や機能に対しても負の影響を与え、痴呆症のリスクを高めることにつながります。

メンタル・トレーニングはストレスを軽減し、注意力や感情のコントロール力を高めることが分かっていますが、瞑想練習を通じて認知能力の衰えやそれに関連する精神的な影響因子を減らすことができるとの報告がされています。

このことから、瞑想やメンタル・トレーニングによって、痴呆症のリスクを減らすことができ、また高齢者の QOL を向上し、健康寿命を高めることにつながることが考えられます。

これまでに報告されている高齢者への瞑想の効果

高齢者が瞑想をする様子
高齢者が瞑想をする様子

これまでの研究結果から、主な高齢者に対する瞑想の効果は以下の通りです。

  • ストレスの低下
  • 不安症の減少
  • うつ病の減少
  • 不眠症の減少
  • 孤独感や社会からの疎外感の低下
  • 心臓血管障害のリスク因子の低下

瞑想練習によって、特に注意力や記憶力といった認知能力に関する機能が高まることが報告されています。また、細胞の健康長寿と関係する血中のテロメラーゼ酵素の量が上昇したとの報告も見られました。

脳と瞑想の関係においては、指令や判断と関係する前頭部や、情報の識別や運動の指令と関係する大脳の構造と機能を維持することも報告されました。

ある研究では、24~77歳の瞑想実践者の脳を測定したところ、瞑想をしない人のグループと比較して、灰白質(脳の神経細胞体が存在する部位)の体積が大きいことが分かりました。

このことは、瞑想によって、加齢に伴う灰白質の減少を抑える可能性を示唆します。

アルツハイマー病や痴呆症は、加齢とともに起こる脳の構造や機能の衰退による可能性も指摘されています。

脳機能と瞑想の研究はまだ初期段階にあるものの、このような発見は疾病のコントロールや予防に将来役立つかもしれません。

ヨーロッパでの取り組み「Medit-Aging Project」

ヨーロッパの地図
ヨーロッパでの取り組み「Medit-Aging Project」

高齢者を対象とした瞑想の効果の検証として、長期間にわたるコホート研究(ある要因の有無によって疾病の発症率を比較)の取り組みがされています。

今後も高齢者に対する効果のメカニズムの詳細な理解が求められており、アルツハイマー病はそのキーワードの1つに挙げられます。

欧州委員会は「Medit-Aging」と呼ばれるプロジェクトに出資をしました。

6つの欧州国の10の団体と手を組み、統計的手法による2つの大規模なランダム化比較試験が実施されています。

160名の認知能力に不安のある患者に対する瞑想の効果や、126名の一般的な認知能力を有する高齢者に対する瞑想の効果の研究を行っています。

リスク低減には予防が大切!

痴呆症のリスクを減らすためには、予防的アクションが第一優先であることがこれまでの研究から分かって来ました。

薬などに頼らず、生活習慣を見直すことの促進が、筆者らが最も望む方法です。

痴呆は、ストレス、不安、うつ、神経症などの精神的な影響が原因となりえますが、これまでに行われてきた一次的な研究から、瞑想練習によってストレスを減らし、感情や注意能力を高めることによって脳の健康を保ち、症状を緩和する助けとなりそうです。

人生100年時代と言われる今、医療の発展のみならず、病気を未然に防ぎ、健康寿命を維持・向上することが世界でも注目されています。

生活習慣を見直すことや、それぞれの心身の状態に合わせて運動強度や内容を選択することができるヨガや瞑想もまた、健康長寿に役立ちそうです。