薄暗がりで灯る1本のロウソク

サットヴァ・ラジャス・タマス、世界には3つの性質が全て大切

ヨガの哲学ではトリグナ(3つの属性)という概念があります。

ヨガを行う人は、心の中をより清浄で汚れない状態にすることが大切です。

しかし、極端になると3つの性質の中で純粋さを表すサットヴァ性(純質)のみが正しくて、ラジャスやタマスは良くないものだと思われることがあります。

そしてその結果、自分のラジャスやタマスな部分が許せなくなってしまうこともあるようです。

何かを否定せず、3つの性質全てが大切だということを認識できるといいですね。

世界を作るトリグナ(3つの属性)

トリグナの性質を表す3人の人のイラスト
まずはトリグナ(3つの属性)とは何かを簡単に見ていきましょう。

トリグナはサーンキャ哲学の基本的な概念であり、私たちが生活している物質世界は、全て3つのグナの組み合わせでできていると考えられています。

  • サットヴァ(純質):純粋、汚れがない、明るい、軽い、幸福と結びつく、正知
  • ラジャス(激質):動きを司る。激しさ、激情、怒り、欲望、渇愛
  • タマス(暗質):鈍い、重い、暗い、怠慢、睡眠、苦悩と結びつく、無知

3つの性質については、他の記事でも詳しく書いているのでご参照ください。

世界を作り出す3つのグナ:サットバ・ラジャス・タマスを知ろう

3つのグナ全てが合わさって世界ができている

この3つの性質は、物質世界には全て存在し、組み合わせによって様々なものを作り出します。

そして、通常はどれか1つだけの性質が100%ということはなく、全てが混ざり合って存在します。

例えば、キャンドルで考えてみましょう。

キャンドルの光は世界を照らすとてもサトヴィック(純粋)なものです。しかし、キャンドルはサットヴァ性だけでできているわけではありません。

まず物質としてのキャンドル、ロウの部分は不透明で濁っていて重たいです。それはタマス(暗質)の性質によって作られています。その物質が存在するから、火が燃えることができます。

燃えている火は熱くて触ると痛いです。それはラジャス(激質)の状態です。火が燃えているから、その周りにサットヴァ性の光が生まれます。

このように、物質世界では1つのものを見ても全てのグナ(属性)が含まれています。どれか1つだけが独立して存在していることはないと理解しましょう。

ヨガではできるだけサットヴァ(純質)を高める

ヨガを行っている人は、できるだけサトヴィック(純粋さが高い)状態を目指します。それは、ヨガを志す人は自分自身や世界の真実を知ろうとするからです。

また、サットヴァ性が高まることで、幸せを感じやすくなります。

では、ラジャスが強まっているとどうなるのでしょうか。

ラジャスは人を掻き立てるような激しい感情です。

例えば怒りなどの激しい感情は、「自分を馬鹿にした誰かを見返してやるぞ!」という思いが原動力になり、人を行動に導きます。時にはそれが良い原動力になり、人一倍努力をし、成功を招くこともあるでしょう。

しかし、怒りが高まっている状態は決して快適とは言えません。誰かを「憎い」「陥れたい」といったネガティブな感情が高まっている間は、心が休まることがありませんね。

そして、タマスは心の中が曇って真実が分からず迷妄している状態です。

脚本家や小説家であれば、真実でない妄想が大きなファンタジーを生むことがあるかもしれません。しかし、多くの場合はネガティブな迷想により人は苦しみを生み出します。

ヨガではタマスな心の状態を暗闇に例えます。暗い夜道を歩いている時には、常に不安や恐怖心が強くなっています。その結果、道端にロープが落ちているだけでも蛇だと勘違いをして恐れてしまいます。

このように、タマスな状態では、本当は存在しない不安や恐怖を感じる原動力になります。

グナは働きを弱めるだけで消滅はしない

赤黄青とそれぞれの色で光る3つの信号機
ヨガでは、不純性(タマス)を燃やすというような表現をすることがあるので、ラジャス(激質)やタマス(暗質)を完全に消滅させるべきだと思っている人もいるようです。

しかし、これも間違っています。

3つのグナ(属性)は3つそろって1つのプラクリティ(物質の根本原理)として存在しています。3つはそれぞれ最初から存在し、消滅することがありません。

サットヴァを優勢にするというのは、サットヴァ・グナの働きを活発にするだけで、新しくサットヴァを生み出したり、他のグナを消し去ったりすることではありません。

それは、信号機に似ているかもしれません。

信号機は3つの色が最初から用意されています。しかし、その時々、1つだけの色を光らせたり、点滅させたりします。

例えば、青信号の時に赤や黄色が失われたのではなく、そこには存在しているけど働かない状態になっただけです。

ヨガを実践するためにはラジャスやタマスも必要

私たちは純粋な幸福を求めてヨガを練習します。

ヨガの実践には必ずラジャス(激質)とタマス(暗質)が必要です。

ヨガを始めた時、「腰痛や肩こりを改善したい」「しなやかな身体になりたい」「柔軟性を高めたい」「心を穏やかにしたい」と、様々な願いがあったと思います。

あらゆる願望はラジャス(激質)の性質です。もちろん、願望の中にもサットヴァ性の高い願いと、エゴの強いタマス性の願望があります。

つまり、願望というラジャス性は、サットヴァとタマス、どちらを高めるのにも必要なものです。

また、アーサナ(ヨガのポーズ)を行うようなハタヨガでは、必ず身体を使い、身体の純粋さを高めることによって心の純粋さも高めようとアプローチをします。

実は、身体はすでにタマス性です。物質である身体は不透明であり、重量があります。

どれだけヨガを実践して身体をメンテナンスしても、身体は完全に自由にはなりません。

『ヨガ・スートラ』では、シャウチャ(清浄)の実践の結果、自分の身体に対して嫌悪感を抱いてしまうと書かれています。

出家して瞑想し、精神世界に完全に浸って生きる修行僧ならば、身体を放棄してしまうこともできるでしょうが、社会の中で生きていく私たちは、タマス(暗質)の性質がある身体を受け入れて愛することが大切です。

タマスである睡眠も大切

身体をもって生きている人間には必ず睡眠が必要です。

ヨガ・スートラの中で、睡眠は心の働きの1つだと書かれています。この睡眠とは、完全なる暗闇であるタマス性(暗質)に心が結びついている状態です。

聖者ヴィヤーサの解説によると、睡眠はタマスの性質だけど、さらにどのグナを伴うかで睡眠の質が違うようです。

  • 「快適な睡眠で頭がすっきりした」という睡眠は、サットヴァ性を伴う睡眠。
  • 「寝たけど怠さが取れなくて無気力になった」という時の睡眠はラジャス性を伴う睡眠。
  • 「四肢が重たくてメンタルが落ち込んで怠い」と感じる睡眠はタマスの性を伴う睡眠。

睡眠そのものはタマスの性質ですが、1つのグナ(属性)だけで睡眠が行われるのではなく、どの属性を伴っているのかによって睡眠の質が変わるのですね。

自分の内側の全てを受け入れる

人は単純なものではありません。心の状態も常に揺れ動いていて、身体も必ず清浄な部分と汚れを持っています。

大切なことは、自分自身に与えられた全てを受け入れて、できる限り快適な状態に整えることです。

ラジャス(激質)やタマス(暗質)も必要なもので、それがあるから人として生きることができるのですね。

できる限りサットヴァ性を優勢にしつつも、自分の心と体に現れる全てを楽しめるようになるといいですね。

参考文献:Yoga Darsana: Sutras of Patanjali with Bhasya of Vyasa、 Ganganath Jha著、2011年

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