ハタヨガ教典に書かれた10個のヤマ

ハタヨガ教典に書かれた10個のヤマ

ヤマ・ニヤマといえば、『ヨガ・スートラ』で説かれている八支則の中の2つとして有名です。

ハタヨガの教典『ハタヨガ・プラディーピカ』においては、10個のヤマと10個のニヤマが書かれています。

同様に『ヴァルハ・ウパニシャッド』などにも記され、『ヨガ・スートラ』よりも古い時代から存在していたことが分かります。内容は『ヨガ・スートラ』のヤマ・ニヤマと共通点が多いところも興味深い点です。

ハタヨガではヤマとニヤマが10個ずつある

『ハタヨガ・プラディーピカ』の第1章の中にヤマとニヤマについての記述があります。

非暴力、誠実、不盗、禁欲、忍耐、堅固、思いやり、素直さ、節食、浄潔は10のヤマである。

苦行、知足、神霊信仰、布施、自在神への祭祀、教典の聴聞、賢明、慚愧、マントラの念誦、祭祀は10のニヤマである。(『ハタヨガ・プラディーピカ』1章16節補説)

この文章は、本文ではなくて補説という形で書かれています。

そのため、ハタヨガではヤマとニヤマはそれほど重要視されていないという説もあります。心のコントロールを中心とする『ヨガ・スートラ』の八支則と比べると、ハタヨガは身体的なアプローチを中心にしているからかもしれません。

しかし、内容はヨガを志す人にとって大切なものばかりです。

ひとつずつ着実に、日常に取り入れて

『ハタヨガ・プラディーピカ』に登場する10のヤマ(1-5)
『ハタヨガ・プラディーピカ』に登場する10のヤマ(1-5)

さっそく10個のヤマの内容を見ていきましょう。

非暴力(アヒムサ)

アヒムサは否定を意味する「ア」と、暴力を表す「ヒンサー」を組み合わせた単語です。一番最初にアヒムサが来るのは『ヨガ・スートラ』と同じですね。

非暴力は、ヨガに限定されず、あらゆるインドの宗教の土台として扱われています。その中でも、特に厳しくアヒムサを実践するのがジャイナ教です。

ジャイナ教によると、食物の命を奪わないためには根菜を食べてはならず、できるだけ豆や葉物野菜を最低限に頂きます。また、夜に火を使うと虫が寄って来て死んでしまうため、調理は夜に行ってはいけません。歩くときには蟻などを殺さないように、ほうきで床を掃きながら歩きます。

なお、一般的にアヒムサは次の3つに分けられます。

  1. 身体的な暴力
  2. 言葉の暴力
  3. 意の暴力

また、他人に対する暴力だけではなく、自分自身に対してのアヒムサも大切です。

誠実(サティヤ)

サティヤは嘘をつかないことや、真実を語ることを意味します。

真実を語ることはとても重要なことですが、ほとんどの人は社会生活を送る中で微妙な方法で嘘を重ねています。また、真実を語ることは大切ですが、その結果、アヒムサ(非暴力)を犠牲にしてはいけません。

自分自身の信念や価値観に対しても誠実である必要があるからです。自分自身に対しても誠実な生き方を模索するのは、とても大きな課題ですが、人生の心地よさに繋がっていきます。

不盗(アステーヤ)

資本主義の世の中では、名声や財産、贅沢に価値を置いていますが、それら俗世的な欲求は際限なく、常に人の心を惑わします。こうした社会的価値は、人が人を羨む流れを生み、やがて多くの人のなかに、他人の財産や地位を妬む心を生み出します。

この感情に取り憑かれると、手段を選ばずに手に入れようとするものも出てきます。ヨガにおいては、この不盗の原因となる妬みも好ましくないもと考えます。

なお、奪うものは物質だけではありません。人の時間や平和も奪うことがあってはいけません。

禁欲(ブラフマチャリヤ)

一般的にブラフマチャリヤは、禁欲として認識されています。性欲を抑えることを中心に考えられますが、ブラフマチャリヤの本質は、自分のエネルギーを節約することです。

心も体も、無駄にエネルギーを使わないことが大切です。例えば、アーサナの練習中に内側への意識が向いていると、練習によってエネルギーが高まりますが、意識の向け方が間違っていると、練習の後に大きな疲労感を感じてしまいます。

ブラフマチャリヤの語源は「ブラフマンを探求する行為」です。他者によって強制的に行われる禁欲ではなく、自分自身の心の中の欲望を根本的にコントロールするための実践であるべきです。ブラフマチャリヤの実践によって、感覚器官を制御することにも繋がります。

忍耐(クシャマー)

クシャマーは、『ヨガ・スートラ』では出てこないので聞きなれない言葉ですね。クシャマーには、「忍耐」のほかに「寛大」といった意味があります。

現代はあらゆるものがスピーディーに効率的に行われるようになりました。例えば、時間がないときであってもファーストフード店に行けば、すぐに食事が提供されます。便利になった一方で、人々は心の余裕を失いました。私たちの心はいつも時間に追われ、焦りなどの感情に支配されています。

ヨガは、どれだけシステム化が進んでも1夜で成功するものではありません。寛容な心で、その時々の現状を受け入れる心がとても大切です。また、他者に対しても批判せず、受け入れる心を養うことで、自分自身のヨガが磨かれていきます。

『ハタヨガ・プラディーピカ』に登場する10のヤマ(6-10)
『ハタヨガ・プラディーピカ』に登場する10のヤマ(6-10)

堅固(ドゥリティ)

ドゥリティは「剛健・堅固・堅忍」を意味します。優柔不断な心の弱さに打ち勝つための強い心です。

例えば、ヨガ業界で考えてみると、常にトレンドがあり、先生によって教えが違うこともあります。しかし、自分自身の信じたヨガを貫く堅固な心があれば、こうした外側の情報に迷うことなく打ち込むことが可能です。

ヨガを長く実践していると、必ず心の障害が訪れます。金銭や時間などの物質的なものかもしれませんし、そもそもヨガをする意義が見いだせなくなることもあります。そのような心の中から現れる障害に打ち勝つことはとても難しいことです。

しかし、「常修と離欲」(長期間にわたった、ひたむきで無欲な実践)によって障害となる心は弱まり、堅固さが養われます。

思いやり・同情(ダヤー)

他者に対する共感の心は、とても大切なダヤーです。

また、ヨガの指導者である場合には、生徒に対する共感の心もとても大切ですが、マットの上での状態だけでなく、その人の背景となる家庭や社会での生活を含めて、全て生徒のアーサナの土台となっていることを理解しないといけない場面もあるでしょう。

共感の心は、自分にとって好ましい相手だけではなく、嫌いな相手や、見知らぬ人にも向けられるのが理想です。他者に対して親切にすることは、全ての人の中に宿る神への行為と同等の意味があります。

素直さ(アールジャワ)

アールジャワは謙虚・正直・素直で誠実なことを意味します。

人が得ることのできる知識には限りがあります。自分の知識におごることなく、謙虚で素直な状態でいることがアールジャワです。自分自身が思い上がっていないかと見直すことはとても大切なことです。

ヨガを実践して様々なことを学んだとしても、「自分は他の人たちよりも知っている」といったエゴを抱かないようにしましょう。

節食(ミターハーラ)

ハタヨガでは、力強くて軽い身体を作るために牛乳、穀物、果物、野菜、豆類などを中心に摂取するようにすすめます。(教典によって食べ物は若干違います)

それぞれの人の体質や、国、風土によって適切な食べ物は違いますが、節度を持った食事はヨガ実践者にとってとても大切です。

食べすぎや、消化に良くない食べ物は、怠慢さや重たさを生んでしまいます。特に身体を使うハタヨガでは、消化器官が正常に働いていることもとても大切です。

浄潔(シャウチャ)

『ヨガ・スートラ』ではニヤマに含まれているシャウチャが、ハタヨガではヤマに含まれるのは面白いですね。身体を清浄に保つこと、心の中が混乱していない状態はヨガにおいてとても重要です。

ハタ・ヨガでは、シャットカルマ(6つの浄化法)によって体内のクレンジングを行います。また、アーサナやプラーナヤーマも体内の毒素を除くための浄化の方法です。

自分自身の身体だけでなく、ヨガをするときの環境にも意識を向けましょう。環境を整えることでも、受け取るエネルギーの純粋さが上がります。

少しずつの気遣いでヤマを実践しましょう

デスクで瞑想をする女性
少しずつのヤマを実践する

今回は、『ハタヨガ・プラディーピカ』に記された10個のヤマについてご紹介しました。『ヨガ・スートラ』には書かれていない言葉もあるので、一気に10個を暗記しようとするのは難しいかもしれません。

どのヤマも、日常生活の中で実践しやすいものばかりです。まずは、ピンときたものから取り入れることによって、ヨガの実践は進んでいきます。

次回はハタヨガのニヤマについてご紹介します。

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