ヨガ哲学において「眠り」とは?

ヨガ哲学において「眠り」とは?

深い瞑想状態と、眠っている状態は何が違うのでしょうか?また、ヨガ哲学において夢と心の関係はどのように考えられているのでしょうか?

そのヒントが古典教典には散りばめられています。

マンドゥキャ・ウパニシャッドに書かれたオームの音と眠りの関係

『マンドゥキャ・ウパニシャッド』は、マンドゥカという名前の聖者によって書かれた、「オーム」という聖音について書かれた教典です。この教典では、オームの音は眠りの段階に例えられています。

4つの状態で説明されるオーム

4つの状態で説明されるオーム
4つの状態で説明されるオーム

現在オームはOMという2つのアルファベットで書かれることが一般的ですが、マンドゥキャ・ウパニシャッドによるとAUMとその後の「静」の4つの音の組み合わせで構成されているとされています。

  1. A
  2. 起きている領域をあらわします。意識は自分の外側に向けられ、心は外側の対象に愉しみを感じている状態です。物質世界の全てを含む音。

  3. U
  4. 夢を見ている眠りの領域をあらわします。意識は内側に向けられ、微細な対象に愉しみを感じている状態です。思考の流れ、ブラフマンの無知から現れる音。

  5. M
  6. 何の願望もなく夢さえ見ていない深い眠りの領域をあらわします。意識されることのない意識の状態です。至高からなり、至福の音。

  7. 無音
  8. 実体がなく、見られることもない、限定されない領域をあらわします。完全なる寂静、平和、至福、アートマンの状態です。

4つ全てを含むオームはアートマンである

オームの音に含まれる4つの状態は、コーシャの考え方にも似ています。

5つのコーシャを理解し、自分のより深い内面へと意識を向ける

『マンドゥキャ・ウパニシャッド』によると……

  • アートマンに近い至高の状態は、睡眠の中でも夢を見ない深い眠りの状態としています。
  • 対して、深い瞑想状態は夢を見ない深い眠りよりもさらに深い意識状態としています。

オームの音は、心を沈めるためにもとても有効

ヨーガ業者は、この聖音(オーム)を反復復唱し、そしてこの音が表示する自在神を念想するがよい。(『ヨガスート』ラ1章27節)

徐々に深い眠りの段階へと向かうことのできる音なので、睡眠導入時に唱えることで、睡眠の質を格段に上げることもできます。

瞑想状態と深い眠りの状態の違い

眠りと瞑想は頻繁に比較されます。どちらも思考が止まっている状態なのでとても似ているように考えられますが、いくつかの大きな違いがあります。

  1. 意識の覚醒状態
    • 深い眠り:完全に意識がなくなっている状態です
    • 瞑想状態:自分自身の意識を働かせたまま、心の働きを死滅させていきます。つまり、深い瞑想では意識があるので「真の知識」であるアートマンを認知することが可能です。
  2. 潜在記憶の有無
    • 深い眠り:一時的に心の動きが止まっているだけなので潜在的な記憶は残っている状態です。潜在的な記憶とは、過去の記憶であったり、言葉や、身体の使い方など、起きている状態の時に必要な記憶や概念です。それらの潜在的な記憶はプラクリティによって作り出されています。
    • 瞑想状態:潜在記憶も働きを止めます。

夢とは神が楽しむために見るもの

眠ることや夢とは何か?については、『プラシュナ・ウパニシャッド』という教典の中で説かれています。プラシュナ・ウパニシャッドは、複数の質問その答えが書かれた教典で、眠りについての質問は第4章の中で書かれています。

太陽が沈み地平線に消え、日の出で球体となって現れるまでの間、心が全ての神となる。その間、その人は聞こえず、見えず、味もせず、感じない、話さず、楽しまず、逃げず、動かない、そして周りの人は“彼は寝ている”という。(『プラシュナ・ウパニシャッド』4章2節)

寝ている状態は、心が支配者となっている状態 プラシュナ・ウパニシャッド』4章2節
寝ている状態は、心が支配者となっている状態

『プラシュナ・ウパニシャッド』では寝ている状態を、心が支配者となっている状態と表現しています。そのため、外からの刺激を受け取る感覚器官や、行動器官は働かなくなります。外から見ると、眠っている状態ではあるけれど、心は働いているのです。

また、夢とは、支配者(神)となった心が作り出すものだと考えられています。

神(心)は夢の中で自らの力を楽しむ。夢の中で見られるものは、以前に見られたもの、聞いたことがあるもの、他の場所で楽しまれたものである。すでに見たことがあるものも、無いものも、聞いたことがあるものも、ないものも、理解できるものも、できないものも、真実も真実でないものも現れる。(『プラシュナ・ウパニシャッド』4章5節)

ウパニシャッドの考え方では夢は、心が楽しみとして作り出すものです。もちろん夢の種類には、現実に起こったことも、現実とは違うものもあり、幸せな夢も悪夢もあります。それらも全て、自分自身の心が作り出したものです。

インドでは聖者は夢を見ないと言われます。いっぽうで、自身にとって好ましい夢を見ることによってヨガの修業に活かす人たちもいます。

夢をコントロールして瞑想に活かす

ヨガスートラの中では、荒い心の働きを穏やかにするために夢を利用する方法を説いています。

あるいは、夢や熟睡のなかで得た体験を対象とする念想も、心の不動な状態をもたらす。(『ヨガ・スートラ』1章37節)

この場合の夢というのは、神々や聖者など神聖な存在を対象とする夢です。トレーニングすることによって、ヨガの心の状態を作りだすために適切な夢を見ることができるようになります。

特にチベット仏教には、Lucid dreamingヨガ(明晰夢ヨガ)と呼ばれるテクニックがあり、自分自身の眠りの中で見る夢を自身で決めることができます。入眠の時間、夢を見る時間、夢の内容を寝る前に決めてコントロールします。

彼らによると、人生の中の約25年間に相当する時間は眠っている状態です。その時間を無駄にせず、自身の意識を研ぎ澄ませる時間として使います。

また、夢も見ない深い眠りの状態をイメージすることでも心の働きを抑えることができます。朝起きた時に感じる、安らかな心地いい感覚をイメージすることができれば、それは心を穏やかにして瞑想の障害を消し去ってくれます。

ヨガニードラは起きている状態と深い眠りの間

リラックス効果の高さでポピュラーなヨガニードラ(眠りのヨガ)ですが、深い眠りと、覚醒している状態の中間の状態を自ら作り出すヨガの練習です。

ヨガニードラは、癒しの効果だけではなく。瞑想の準備としてもとても高い効果を期待できます。ヨガニードラでは、身体の各部位に意識を向けて、その感覚を味わいます。その時に行っているのはプラティヤハーラの実践にもなります。

プラティヤハーラは外側に向いた感覚器官を内側に向けていくことです。感覚器官をコントロールするためには、まずは感覚を感じ、それを受け入れることによって感覚に心が惑わされなくなります。

また、身体の各部位に意識を向けていくことは次の段階のダーラナにも繋がります。ダーラナは集中と訳しますが、あまり集中しようとすると、心に緊張感がありリラックスすることができず、瞑想が深まりません。

ヨガニードラのボディスキャンで行うように、一点に意識を向けながら、深く考えない状態を行うと、自然と瞑想状態が深まり、ディヤーナへと入りやすくなります。
 

眠りの質に意識を向けることで自身のヨガも深まる

睡眠は、自身の身体や精神を整えるためにとても大切な時間です。そのため、自身の眠りの質を常に整えることは生きていく中でとても大切なことです。

また、眠りの状態を観察することでも、瞑想の導入状態を体感することができます。自分自身の眠りの間の状態に意識を向けましょう。目が覚めた時に、その時の感覚を覚えておくことでも、自身の心の静かな状態を記憶することができます。

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