最高の幸せへと導く、サントーシャ

ヨガの教えの中でも、ダイレクトに幸せを手に入れることのできるサントーシャ(知足)という教えをご存じでしょうか。

ヨガスートラでは練習の段階を8つのステップに分けて八支則と呼んでいます。そのなかの最初の2つにあたるヤマとニヤマでは、日常生活の意識を変えることでヨガの実践を行うための心の準備を行います。ニヤマの中のひとつであるサントーシャは、日本語で「知足」と訳します。「足りるを知ること」、つまり「満足すること」です。

今回はサントーシャの教えについて紐解いてみます。

サントーシャ(知足)とは?

八支則の2つ目に当たるニヤマには、5つの心得が書かれています。ニヤマでは、自分に向けた内省により、瞑想の修業を行うための心の準備を行います。ヨガ修行者の心得のようなものです。

  1. シャウチャ(清浄):自身を清潔に保つこと。
  2. サントーシャ(知足):自身に与えられたものに満足すること。
  3. タパス(苦行・熱業):困難をやり遂げること。
  4. スヴァディアーヤ(読誦):聖典を読むこと。
  5. イシュワラ・プラニダーナ(祈念):神への信仰。

サントーシャは、「生きることに必要な最低限のものがあれば、それに満足すべき」という教え。似たような教えは、世界中のあらゆる宗教でもみられる教えです。

満足することはサットバ(純質)な心の状態

サントーシャとは、今与えられているものに満足して、それ以外の欲望を抱かない心の状態。自分自身や、その他に不満の心がある人は、高次の精神状態に到達することはできません。

「満足」とは、「心の輝きの状態」であり、そこに位置すると、その人の顔も輝きを帯びて、穏やかな雰囲気に包まれます。

満足できない人は、心がさ迷っている状態。不満足は、心の落ち着くべき場所を失っているタマス(暗質)の状態です。その状態では心を集中することができず、瞑想にとっては障害となります。

「今の状態」に満足できる心は、平穏で限りなく清らか(サットバ)な状態です。無いものに意識を向けるのではなくて、あるものに満足できるように思考を変えましょう。

サントーシャで得られる無常の幸福

満足することで「幸福」を失うことはない
満足することで「幸福」を失うことはない

「満足」することによって得られるものは大きな幸福感です。

サントーシャを守ることで、無常の幸福が訪れる。(ヨガスートラ2章42節)

要求を満たすことによって得られる喜びは、すべて条件付きの喜びです。

  • ダイエットに成功したから幸せ。
  • 欲しかったものが買えて幸せ。
  • 誰かに愛されて幸せ。

これらの喜びは、ある状況に到達したことで嬉しいと感じる限定される喜び。ダイエットに成功して痩せる前のあなたは不充分だったのでしょうか?物質を所有することが本当の幸せなのでしょうか?他人に愛されないと、あなたは自分自身を認められないのでしょうか?

このような条件付きの幸せは一時的なものであり、それを失うことで終わりが来てしまう恐怖を含みます。

何かを得ること、成し遂げることは本当に素晴らしことですが、そこに到達する前の自分自身も十分に幸せでなくてはいけません。

なにも足さなくても、今の自分は素晴らしい。それを認めることができると、どのような状態にあっても「幸福」を失うことがありません。サントーシャとは、終わりのない幸せです。

今の自分に満足するための方法

とは言っても、現状の自分を愛することは簡単ではありませんよね。「今」に対して満足できないのは、「過去」や「未来」に意識を向け過ぎて、「今」が見えていないからではないでしょうか?「今」、そして「自分自身」が見えていると、心は迷うことがなくなります。

今に意識を向けるマインドフルな考え方

「今」この瞬間に、しっかりと意識を向けることをマインドフルな状態と言います。例えば、食事を頂いている時には、「味」「香り」「触覚」をしっかりと意識します。未来のことを考えながら食事をしていると、本来味わうことのできる喜びを逃してしまっています。

常に、その瞬間に取り込んでいることに目を向ける習慣を身につけましょう。

人の要求には終わりがありません。ヨガを始めたばかりの時には肩こりがひどくて、少しでも改善したいと思っていたとします。しかし、肩こりが少し改善してきたら今度は、もっと柔軟性が欲しいと願い、さらに便秘が改善していないことが気になり、次から次に課題が表れてしまいます。

その結果、願いが叶っていたとしても、その喜びを忘れて、ネガティブなことに意識が向いてしまっているかもしれません。

「今」を意識して生きるためには、マインドフル瞑想を実践することも効果が大きいです。

最高のサントーシャ

ヨガの最も高次の目的である「プルシャの独立」が叶うと、あらゆる苦痛から切り離されて最高の幸福が訪れます。

私たちの内側に宿るプルシャは、それ自体が最高の状態です。

プルシャの特徴

真実/永遠と続く/限りなく純粋/至福の状態/不変・不滅/見られざる・実体のないもの・定義されない/限定されない/平穏/安全なる寂静

プルシャは存在しているだけで幸福です。その状態を感じるためには、瞑想などで物質世界と自身の意識を切り離す必要があります。

ヨガ本来の目的を知り、終わりなき幸福へ

ヨガ哲学では、本当の自分自身である霊魂をプルシャ、物質世界を作り出す根本をプラクリティと呼びます。プラクリティによって作られた物質には不変のものがありません。必ず失うものへの執着は、すべて苦の根源となります。

世界で唯一、永遠に変わらないものはプルシャです。存在自体が純粋で美しいプルシャそのものを体験すると、それ以外の物質的な欲望は消滅していきます。

プルシャへの自覚は、瞑想によって叶います。ヨガで到達することのできる最高のサントーシャとは、自身に満足して、それ以上の執着や欲望をすべて手放すことができる状態です。

人間関係をスムーズにするサントーシャ

人間関係などの悩みにも応用できる
人間関係などの悩みにも応用できる

サントーシャの考え方は、物欲だけではなくて、多くの人が抱く人間関係などのあらゆる悩みに応用ができます。

人は親しい人にほど執着しやすいものです。たとえば子どもに対しての態度。生まれてきた時には「健康に生まれてきてくれただけで何より幸せ」と感じていたはずなのに、成長するにつれ、子どもが自分の望みと違う行動をとるたびに、そこにばかり目がいき、つい怒ってしまうようになります。

他人に対しての執着を帯びた愛はラーガ(貪愛)と呼ばれ、煩悩のひとつです。

親が子どもをしつけるのは義務でもあります。しかし、感情的になり過ぎると、大きな悩みとなって大きな苦しみになります。

「いてくれるだけで幸せ」ということを忘れないようにして、その上で必要な注意をする。そうすると、感情的になりがちな近い人との人間関係も、冷静さを失わずに心が軽くなります。

必要なことは言葉にして言わなくてはいけませんが、一緒に食事を頂いている時には食事を楽しむなど、前提に愛がある関係であることを認識すると関係性が変わってきます。

もっとも大切な自分との関係

他人に対して上手くいかない時、本当の原因は自分自身との関係性である場合があります。自分自身に満足できている時には、周りの人に対しても優しい気持ちになれます。

人間関係の究極のものは自分との関係です。

自ら自己を克服したものにとって、自分自身が自分の友である。しかし自己を制していない人にとっては、自分こそが敵となる。(バガヴァット・ギーター6章6節)

自己を制した人とは、自分自身を完全に認識できた人でもあります。

本来の自分自身が美しくて幸せであることを知っていると、自分自身に優しく接することができます。たとえプラクリティ(物質原理)によって働く思考が、願わない働きをしたとしても、愛をもって冷静に対峙することができます。

自分自身との人間関係に向き合う時間こそがヨガです。ヨガでは、外部の世界を遮断して、自分自身の本質と向き合うことによって、愛すべき自己を知ります。自分自身を愛することは、サントーシャの最高の状態です。

現状を見直すことで何も変えなくて幸せになれる

サントーシャ(足知)は、「人生は何も足さなくてもすでに幸せ」という素晴らしい教えです。すべてのヨガの実践は、サントーシャを実感するための鍛錬ではないでしょうか。

頭で理解していても上手く心がコントロールできない時には、アーサナをはじめとした練習で自分自身と向き合ってください。

「幸せの定義」が変わってくると、生きることがとても楽しく変化します。

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