本当の意味で“公平なヨガコミュニティ”を広めるには

本当の意味で“公平なヨガコミュニティ”を広めるには

前回はダイバーシティとALLYについてお話させていただきました。

ヨガの実践を通じて実感する、多様性の重要性 〜ALLY表明の背景〜

2020年に施行される全米ヨガアライアンスの改正においてもダイバーシティを始めとしたインクルージョンの講義の受講が担当講師に義務付けられ、RYTのカリキュラムにも組み込む必要があることが発表されています。

もちろん全米ヨガアライアンスによって日本のヨガのすべてが規定されているわけではありませ。ただ、今回発表されているヨガアライアンスのビジョンに共感したので、今回のコラムで取り上げることにしました。

ヨガアライアンスの、新しいビジョン

ヨガアライアンス財団」副代表のクエンティン・ヴェニー氏(※画像は「ヨガアライアンス財団」ホームページよりお借りしました)

「ヨガアライアンス財団」副代表のクエンティン・ヴェニーが今回の改正について声明を出しています1)。クエンティンは黒人男性で、自身の肌の色のため、自分がヨガコミュニティで排除され、過小な評価をくだされてきたと振り返ります。そのためヨガコミュニティ内外の公平性とヨガへの接しやすさを高めることに注力したいと考えました。

そして、クエンティンはヨギーがヨガを通じて、次の3つが解決されることを希望に掲げたのです。

  1. 我々が直面するトラウマに対処すること
  2. メンタル関係の疾患のスティグマを終わらせること
  3. ヨガが裕福で特権的な人たちのものであるという誤解を解く

真のエクイティ(公平)にはヨガにおいてのダイバーシティ(多様性)、インクルージョン(包括)、アクセシビリティ(利便性)が含まれます。クエンティンは、こうした新しいヨガにおける「エクイティ」についての講義をオンラインで提供すると発表。これらを通じ、RYTがヨガという領域はもちろんヨガを超えた、より深い気付きと教育の機会を創出することを強調したのです。

ヨガはその昔、インドの修行僧のための限られたものでした。一方、現在はより多くの人に広まっているものの、対象は「富裕層の女性」といった、限られた人に限定されてしまっているという反省があるといいます。

ヨガはもともとインドの修行僧のための限られたものだったが、果たして現代の日本では?
ヨガはもともとインドの修行僧のための限られたものだったが、果たして現代の日本では?

さて、日本はどうでしょうか?ヨガが、いわゆる「意識高い系」といわれる一部の層に限られたものになっていないでしょうか?クエンティンの声明を受け、ヨガにかかわる人間として現状を振り返ってみると、このままでいいのかと疑問をいだく部分もあります。

だからこそ、RYTがヨガにおいての公平性を担保するばかりではなく、ヨガを通じて社会貢献を目指しているという大きなビジョンをもっていることを知った瞬間、うれしい驚きとともに、深い共感を覚えました。ヨガには、そのパワーがあるのですから!

DAIEが導く、社会貢献にも通じるヨガの可能性

今回改正の基準を作成するにあたって、全米のヨガの専門家に調査を実施し、約9万の回答を得たそうです。それをもとに8つの論文を各ワーキンググループが発表しています。その8つの論文の一つに「インクルージョン」をテーマにしたものがあり、そこでも次の4つの概念が取り上げられています。

  1. ダイバーシティ(Diversity):人の多様性を認めることをいいます。
  2. アクセシビリティ(Accessibility):利用のしやすさ、近づきやすさをさします。
  3. インクルージョン(Inclusion):包括・包含を意味し、ヨガが体型や人種や年齢など異なる様々な人に対し、個々人に合ったものを提供するという文脈で使われています。
  4. エクイティ(Equity):公平を意味します。

上記4つの頭文字をとって「DAIE」といいます。

全米ヨガアライアンスは、RYTのカリキュラムをとおして、これらの概念を習得した上で、ダイバーシティやインクルージョンをヨガクラスで実現するための知識を学び、ヨガにおいてインクルージョンが欠けている現状にどのようなチャレンジができるかを検討するとしています。

そして、多くの人にヨガを届けることのみならず、個々人の違いを認め、個々人に合ったヨガを提供する必要性があることを、強調。

専門的な知識で、多くの人に安心を提供

精神科医として驚いたのは、RYTのカリキュラムの提言の中に「トラウマとヨガのモデュール」が入っていたことです。

トラウマとは心的外傷のことを指しますが、近年の研究によりトラウマは脳のみならず体にも蓄積されている事がわかってきています。だから、ヨガがトラウマに対して有効なツールとして注目を集めるようになったのでしょう。ヨガを臨床に応用している動きもあるほどです。

RYTの提言ではさらに踏み込んでトラウマの神経生理学、ポリヴェーガル理論、そしてトラウマのサインなどをカリキュラムに取り入れるとしており、内容はかなり専門的です。

なぜこのような流れになったのか。その理由は、DAIEの流れからみるとよく分かると思いますが、トラウマを抱えた多くの方々が、安心してクラスに参加できるようになるためだと考えられます。そのためには、ヨガの先生が緊急事態に対応できるよう知識を深め、誰もが安心できるクラスをリードする必要があります。
 
この論文を読んで、ヨガクラスにトラウマを抱えた方がいらしたことを思い出しました。

スタジオに入り呼吸法をしていたときです。赤いブランケットがその方の前においてあったのですが、気分不快を訴え、過呼吸様の呼吸となり、別の色のブランケットに交換してほしいと訴えられました。

赤いブランケットが過呼吸のトリガーになったのです。ゆっくり吐く息を中心にしていただき、少しお休みしていただくことで回復されました。レッスン後に、ゆっくりお話しを伺ったところ、過去に大量出血する事故に遭われていたことがわかりました。

通常、レッスン開始前にトラウマについて生徒さんから話すことはまず無いでしょう。話すこと自体が恐怖であったり、意識すらしていないこともあります。

ですから、トラウマを抱えた方がレッスンにいらっしゃることも念頭におくことが大切です。RYT改正の提言は、ヨガの真のインクルージョンにおいて、不可欠な重要なメッセージであると思われました。ヨガには人を結び、幸せにする力があります。正しい知識を得て、多くの人にヨガを提供する。このようなヨガアライアンス財団の提言は、今こそ求められているものなのかもしれません。

参考資料

  1. A Letter From Our VP of Yoga Alliance Foundation
  2. WORKING GROUP PAPER Inclusion
  3. こころとからだのケア(トラウマについてわかりやすく解説しています)