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みなさんはヨガの練習をするときにマントラを唱えますか?
マントラというと、少し宗教的で壁があると感じてしまう方もいらっしゃるかと思いますが、ヨガの練習を深めるためにはとても効果的です。
特に、ヨガの練習を行う前にマントラを唱えることで、日常の喧騒とヨガの時間を切り分けることができます。今回は、自分自身を見つめるためにおすすめのシャンティ・マントラのひとつである「プールナマダ」を紹介します。
自分の本質を教えてくれるマントラ「プールナマダ」

まずは、「プールナマダ」のマントラと日本語訳を紹介します。
pūrṇamadaḥ pūrṇamidaṃ pūrṇātpūrṇamudacyate |
pūrṇasya pūrṇamādāya pūrṇamevāvaśiṣyate ||
om śāntiḥ śāntiḥ śāntiḥ ||
オーム・プールナマダ・プールナミダム
プールナートゥ・プールナムダッチャテー
プールナッシャ・プールナマーダーヤ
プールナメーヴァーヴァシッシャテー
オーム・シャーンティ・シャーンティ・シャーンティヒ
[日本語] それ(ブラフマン)は完全なものである。 これ(アートマン)は完全なものである。 完全なものに何かを足しても完全である。 完全なものから何かを引いても完全なものが残る。
「プールナマダ」は、イーシャー・ウパニシャッドの冒頭のマントラです。
インドではシャンティ・マントラとして知られ、ヨガのクラスでも頻繁に唱えられています。ヨガの教えにはサントーシャ(知足)というものがありますが、「プールナマダ」のマントラは、まさに自分自身がすでに満たされた状態であることを教えてくれます。
プールナは満月のように満ち足りた状態

インドで生活をしていると、プールニマ(Pūrṇimā:満月)という言葉を頻繁に耳にします。例えば、4月から5月の満月の日はブッダ・プールニマ(仏陀の生誕祭)として祝います。また、プールニマは女性の名前としても耳にします。インドのカレンダーは今でも太陰暦を採用しているため、人々は月の満ち欠けに敏感です。空を見上げて「今日は美しいプールニマだね」という会話を耳にすることも多いです。
プールニマ(満月)の語源にあたるのが、マントラに出てくる言葉プールマです。プールニマ(満月)という言葉を紐解くと、
「Pūrṇa」= 満ちた、完全な
「-imā」= 女性名詞を作る接尾辞
となります。
サンスクリット語で月を意味するチャーンドは男性名詞であるのに対し、満月の日のエネルギーであるプールニマは女性的であると感じられたことは興味深いですね。
満月は、完全に満ちていて欠けていない存在です。
そんな完全で美しい存在である満月のように、私たちはすでに満ちています。「完全なものから何かを引いても完全なものが残る。」と、マントラは説きます。例えば、不景気で収入が落ちた、歳を重ねて若々しさが無くなった、そんな時であっても、私たちは自分の本質の輝きを見失うべきではありません。満月の後には月は少しずつ欠けていき三日月となり、次第に新月で見えなくなってしまいます。しかし、月自体が失われたわけではありません。私たちが不完全であると感じている状態の時でも、見えなくなっているだけであり、何も欠けていないのですね。
サントーシャ(知足)が教えてくれる自分の本質

「プールナマダ」のマントラは、ヨガの本質を教えてくれます。
ヨガとは“より良い自分になるため”の教えではなく、“本来の満ちた自分を思い出す”ための道です。
ヨガの教えにサントーシャ(知足・満足)があります。サントーシャは、「すでに足りていることを知る」という教えです。私たち人間の意識は、常に無いものねだりをしがちです。それは、人間が現代まで進化をし続け、より裕福にと経済成長をし続けるために必要な本能でした。しかし、食べるものが充分にあり、安全な住処があったとしても、人々はさらなる豊かさを求め続けます。
食料が充分になかった時代には、どんな野菜であっても無駄にせず、あるもので美味しく食べる工夫をしていたはずです。しかし、供給量が満たされた現代では、より完璧さを求めるあまり、形がちょっと不揃いの野菜は容赦なく廃棄されてしまいます。
少しの不完全さも許せなくなると、「こうでないといけない」と思い込んでしまい、すでに豊かであっても気がつけなくなってしまいますね。
参考記事
最高の幸せへと導く、サントーシャ
https://www.yoga-gene.com/post-33068/
サントーシャとは、形が悪くても美味しい野菜に気付く作業です。
全ての野菜が全く同じ形で同じ大きさである必要はありません。美しい円形でないトマトでも美味しく、形の違いを個性だと気付くことができれば、自分自身の個性を活かした人生を歩むことができるはずです。
自分の内側にある本質は完全なるもの

通常私たちは、自分の表面的な部分しか見えていません。しかしヨガの道では、まずは自分の本質を探します。それは、私が着ている服でもなく、私の体でもありません。体や心は常に変化し続けていて不確実なものです。どんな時でもどんな場所でも変わらない本質的な自分は、ヨガでより自分の深い部分に向き合うことで出会うことができます。それが、アートマンと呼ばれる本当の自分の本質です。
「プールナマダ」のマントラが教えてくれるのは、自分の本質に出会うことです。マントラの「それは完全なものである」という「それ」は、宇宙全体の根本原理であるブラフマンを意味し、「これは完全なものである」の「これ」は、自己の根本原理であるアートマンを意味しています。
アートマンは、どんな時でも揺るぎません。たとえ、体や思考が忙しい時であっても、内側の本質は惑わされずに平穏で輝き続けています。そんな自分自身に出会いたいですね。
参考記事
ブラフマンとアートマン:ヨガを理解するためのインド思想の基本
https://www.yoga-gene.com/post-27429/
ヨガの練習でシャンティ・マントラを唱える効果

「プールナマダ」は、シャンティ・マントラと呼ばれるもののひとつです。シャンティとは平和を意味する言葉で、このマントラは、自分自身や周囲の人、世界全体の平和を祈って唱えることが多いです。
ヨガの練習でシャンティ・マントラを唱えることで、自分の内側の平穏さや、静けさに出会うことができます。まずは、マントラを唱えながら、自分自身の発するマントラの音に意識を集中させていきましょう。この意識を集中させるプロセスが、ヨガでは最も大切です。
日常生活では、常に意識が外の刺激に翻弄されています。溢れる情報の波の中で、次から次に新しい対象に対して意識が働き、私たちは自分自身に向き合う時間がありません。視覚や聴覚、嗅覚などから得られる情報を得た私たちの思考は、それをジャッジし、対処しなくてはいけないと働き続けます。心が常に忙しい状態では、すでに幸せが与えられていても気がつくことができません。
ヨガで唱えるマントラは、サンスクリット語(梵語)です。サンスクリット語は神々の言語と呼ばれており、音の振動自体がとても純粋なエネルギーに満ち溢れています。
自分自身でマントラを唱え、音の振動を自分の体で感じることが、ヨガの状態へ切り替えるスイッチになります。なんとなく突然アーサナ(ポーズ)の練習を始めるのではなく、日常との切り替えをすることで、ヨガの時間が特別なものになるはずです。
マントラを日常に取り入れてみよう
今回は、自分に向き合うシャンティ・マントラの「プールナマダ」を紹介しました。
マントラはヨガの練習の前後に唱えることが多いのですが、朝起きて思考がクリアな時、夜寝る前、または、思考が混乱しているときにも自分自身を落ち着けるためにとても効果的です。
メロディーに合わせてマントラを歌っているミュージシャンも多いので、鼻歌として口ずさむのもいいですね。
なんとなく世界の喧騒で心が落ちるかないとき、不安感が襲ってくる時などには、マントラの音の静けさが心を落ち着けてくれるはずです。
音は経験して感じるものなので、自分自身にとって心地いいマントラを見つけてみてください。
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