みなさんは修行と聞くと、どんなイメージを抱きますか。
長い期間、山に篭って瞑想をするのも修行でしょうし、アーサナの練習を毎朝行うことも修行かもしれません。しかし、ヨガの修行は身体的なものだけではありません。
私たちが無意識に話している言葉や考え方の癖さえも修行として捉えることで、より深いヨガの道へと進むことができるでしょう。
今回は、教典『バガヴァッド・ギーター』に説かれた3種類のタパスについて紹介します。
こんなことも修行になる?3種類のタパス
ヨガの教典として知られる『バガヴァッド・ギーター』では、タパス(修行・苦行)は3種類あると説いています。
身体的なタパス

このタパスは身体的なものですが、私たちが一般的に想像する修行とは少し違います。
- 神々、バラモン(司祭)、師匠、知者への尊敬
- 清浄であること(シャウチャ)
- 正直であること(廉直)
- 禁欲(ブラフマチャリア)
- 不殺生(アヒムサー)
アーサナ(ポーズ)の練習や断食をするような分かりやすい修行よりも、自分自身の行いが社会にどのように調和して、汚れを生み出さないかを大切にしていることが分かります。
まずは、自分をヨガの道に導いてくれる師(グル)への尊敬です。私たちは、尊敬できる相手に心を委ねることによってエゴを生み出しにくくなります。そのため、神々や師への尊敬を高めることで疑心を取り除き、自分の道を歩む意思を高めることができます。
また、日常的に純粋さを意識することがとても大切です。正直で素朴な人であること、常に身の回りを清潔に保つこともヨガの修行です。ヨガのリトリートなどでは、掃除の時間があるかもしれません。これは、場所を整えることで、自身の心の純潔さを高めることを学ぶことができます。
言語的なタパス

私たちが発する言葉には、エネルギーがあります。そんな言語を修行とすることも重要なヨガの実践です。
- 不安を起こさせない、真実で、好ましい言葉選び
- ヴェーダ(聖典)の常修
まずは、日常で発する言葉を意識しましょう。
人に不安を与えるような言葉は、避けるべきです。私たちの発した言葉は力を持っており、それが周囲に影響を与えることを忘れないようにしたいですね。感情的に強い言葉を発しそうになった時には、一呼吸置く癖を身につけましょう。
自分にとっても、他者にとっても、心地いい言葉を使えるようになるといいですね!
また、聖典を音読することも効果的です。『バガヴァッド・ギーター』はサンスクリット語で読むと、全ての説が同じ文字数で書かれており、歌うように読むことができます。しかし、聖典の音読はむずかしいことですので、短いマントラを覚えて唱えるといいですね。
心的なタパス

最後は心のタパスで、最も難しいものです。
- 心の平安、温和
- 沈黙
- 自己抑制
- 心の清浄
自身の心をコントロールすることは、自分自身をコントロールすることです。心が常に穏やかで平和な状態で在れるように心がけましょう。インターネットなどでネガティブな情報を取りすぎないようにしたり、何もしない静かな時間を設けたりするなどの様々な工夫ができるといいですね。
また、沈黙(マウナ)も心の修行に含まれます。
インドでは、何年も全く話をしない沈黙の修行を行なっている人がいます。実は、私たちの心は言語により生み出されており、誰かに話したり説明したりするために思考を生み出していることが多いのです。そもそも話さない前提であれば、分別くさく誰かを言い負かそうとする思想も生まれて来ず、よりシンプルに真実を見る目を養うことができます。
つい人に文句ばかり言ってしまう人は、沈黙の練習をするといいかもしれませんね。
タパス(加熱すること)によって不純さを取り除く

ここで、3つのタパスに共通する考え方を紹介します。
そもそもタパス(修行・苦行)が何かというと、タパ「熱」を使って行う修行です。
インドで神聖な油として知られるギー(精製バター)は、神々への儀式、食事、アーユルヴェーダの治療などのあらゆる場面で使われます。
ギーは、バターを鍋でコトコト煮込んで作ります。一般的なバターには不純物が多く含まれていますが、加熱することで不純物が燃やされ、焦げて浮いてきます。その不純物を丁寧に取り除いて作ったものがギーで、とてもピュアな油だとされます。
私たちの心も、多くのネガティブな感情や不純性が含まれていますが、自分自身の努力によって燃やすことで、純粋さを高めることができます。
タパスの実践例を考えてみよう

『バガヴァッド・ギーター』のタパスは、「この経典を音読しなさい」「このアーサナを行いなさい」といった具体的な指示がないので、どのように実践すべきか分かりにくいですね。
日常でもっと実践しやすいように、考えてみましょう。
身体的なタパスの実践例
- 太陽礼拝で大きな太陽のエネルギーに感謝しながら、自分の内側に満ちていく感覚を意識する。
- 自分の親や先生、上司など、自分の成長をサポートしてくれる人への尊敬と感謝を忘れない。
- 毎朝起きたらベッドを整える。洗い物を後回しにせず、汚れた状態を放置しない。
- 小さいことでも嘘をつかず、正直に話す。
- 食事を無駄にしない。感謝していただく。
- 他人に対しても、丁寧に接する。
- 人を傷つける言葉を使わない。
特にアヒムサー(非暴力)の実践や、祈りの時間を設けることは取り入れやすいのではないでしょうか。また、シャウチャ(清浄)を心がけて、身の回りを整えることをヨガとして行うのもいいですね。
言語的なタパスの実践例
- 不安を起こさせない、真実で、好ましい言葉選び
- ヴェーダ(聖典)の常修
身体的なタパスと比べると、言語的タパスや心的なタパスは難しいものですが、言語的なタパスは自分自身から生まれてくる言葉なので、心的なタパスよりは意識しやすいかもしれません。
自分自身の日常会話に意識を向けていると、自分の言葉には無意識の癖があることに気が付きます。例えば、「〜しなくてはいけない」という言葉が多ければ、常に義務に追われている感覚になるでしょう。ほかにも、人と話しているときに「でも」という否定系から入る癖がある人もいるでしょう。
自分の言葉に意識を向けて、心地いい言葉を選べるようになるといいですね。
心的なタパスの実践例
- 毎朝10分の瞑想から始めてみる。
- イライラを感じたら深呼吸を5回する。
- 人の不幸を願う心が生まれたら、立ち止まって深呼吸する。
自分自身の心をコントロールすることは、とても難しいものです。しかし、私たちが日々行なっている行動が心から生まれていると思うと、心の習慣を変えることが自分の人生を変えてくれる最も確実な道だと分かります。
自分自身を見つめるためには、短い時間でも瞑想の習慣を作ることが一番のおすすめです。自分の心に余白を作ることができれば、何か思いがけないことが起きた時でも冷静さを取り戻す助けになります。
自分が習慣化できるタパスを取り入れよう
タパスの実践で最も大切なことは、習慣になるまで長い期間継続することです。
例えば、滝行のような分かりやすい修行であっても、たった1回の実践で人生が180度変わることはありません。もちろん、自分が変わるきっかけを作るために、短期や1回限りの厳しい修行に挑戦することは悪いことではありませんが、大切なのはその後の自分が変われたかどうかです。
3種類のタパスのうち、最も継続しやすいものは身体的なタパスです。例えば、アヒムサー(非暴力)の実践として、肉食をやめるなどの実践をすれば、最初は物足りなさを感じるかもしれませんが、慣れてくると生きていた動物を口にすることへの抵抗が強くなり、ベジタリアンでいることが幸せだと感じる人が多いです。
習慣が変わると、自分自身の心も変わります。すると、徐々に言語的なタパスや心的なタパスも実践しやすくなります。最初は難しく感じますが、自分を変えたいという人にはとても確かな教えです。自分でできるタパスを考えて、小さなことからでも実践してみましょう。