おじいちゃんとおばあちゃんがヨガをしているイラスト

対応できる?超高齢社会により意図せずシニアヨガ【医師の助言】

ヨガインストラクターのみなさんにお伺いします。皆さんは普段、誰を相手に指導していますか? そして誰に指導したいですか? 皆さんが指導したいと思っている人は日本の中に何万人いますか?

これまでにこんなことを考えたことがあるでしょうか。今日はヨガインストラクターとしての心構えと日本の人口統計を絡めて考えてみましょう。

2025年問題!超高齢社会

65歳の人は3人に1人、75歳以上の人は5人に1人になりますのイラスト
65歳の人は3人に1人、75歳以上の人は5人に1人になります

“2025年問題”という言葉を聞いたことはありますか? 東京オリンピックから5年後の日本。今から7年後の日本です。遠くない未来の話です。

2025年問題とは、2025年に団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という、人類が経験したことのない超高齢社会を迎えることを、言います。[1]

イメージ湧きますか? 国民の3人に一人が65歳以上です。単純に考えてランダムに100人集まると33人以上が65歳以上になります。(人が年齢に偏りなく分散している前提での話です。)

更に、2020年には女性の半分以上が50歳以上になると言われています。[2]

今皆さんの働いているヨガスタジオに来る人たちは何歳くらいが多いでしょうか? 皆さんが、仮に20代~40代くらいの若い女性が多いスタジオで勤務しているのだとすると、それは日本の人口統計からすれば相対的にマイノリティを相手にしていることになります。

ヨガ雑誌の表紙に出くる細身で、キレイで、柔軟なモデルや芸能人は、超高齢社会の日本で相当なマイノリティです。むしろ、日本の多くの人はこうしたキラキラした人が集まってくるヨガスタジオに足を運ぶことはありません。

単純に考えてヨガを定期的に行うヨギやヨギーニよりも、施設やデイサービスで健康体操しているシニアの方が圧倒的に多いということになります。

なかなか、スタジオにいると意識しない事実ですね。もう一度皆さんに聞きます。

皆さんはどこを向いて指導していますか?

意図せずともシニアヨガ

意図せずともシニアヨガ
意図せずともシニアヨガ

上記の2025年問題を踏まえると、本来であればヨガを指導する場合、その対象は意図せずとも高齢者に偏った集団になるはずです。

でもどうでしょう? 現状ヨガが若い女性に偏りすぎていると思いませんか?

本来は意図せずともシニアヨガになるはずなのに、そうはならず現状若い人の取り合いがヨガスタジオ間で生じています。そのため、「メンズヨガ」「シニアヨガ」「○○ヨガ」と積極的にヨガについて回る若いキレイな女性というイメージを払拭しようとしています。

「最近シニアヨガが人気よね」という意見はある視点からすれば正しいですが、日本の人口統計上ヨガ浸透していけば、自然にシニアヨガの人数の方が多くなるので、必然と考える方が自然でしょう。

この現象は他の分野で実際に生じています。例えば、facebookのおじさん化、おばさん化と言われる現象です。使用する人が年齢を超えて広がっていくということは日本では人口統計上必然的に「おじさん化、おばさん化」することを意味します。

アメリカでもヨガ人口は女性に偏っている

ヨガ人口のデータは、なかなか無いのですがアメリカで2016年にyoga journal とyoga allianceが協力して行ったデータがあります。

そこには以下のような記載とデータがあります。

Yoga is for everybody. There are more male and older practitioners than ever before (approximately 10 million male practitioners and almost 14 million practitioners over the age of 50 – up from about 4 million men and 4 million 55+ year olds in 2012). [3](一部抜粋)

アメリカにおいても

  • ヨガ人口は女性偏重である中
  • 男性と高齢者のヨガ人口が増えていっている事

などが書かれています。

高齢者を対象とするという事はどういうことか

これまでヨガが比較的若い女性に限られていたため、心身の問題を語る際も下記の切り口が主でした。

  • 自律神経失調症
  • うつ
  • 不安
  • PTSD
  • 摂食障害
  • ダイエット
  • 生理痛
  • 生理に伴う感情の不安定さ
  • 産前産後

しかし最近では、日本の高齢化、海外からの後押しもあり、自然とヨガは日本でもより”医療の世界”に浸透するようになってきました。昨今のヨガセラピーやリストラティブヨガの人気はこのような日本の人口統計と海外からのニーズがマッチしている側面があります。

こうした流れの中、下記のような、より高齢者に関わる病態と絡めて語られるようになりました。

  • 慢性疼痛
  • 糖尿病
  • 高血圧
  • 認知症含む神経変性疾患
  • フレイル[4]

このような背景により、今後さらにヨガインストラクターの方がシニアの生徒から健康相談を受ける機会も増えてくると予想されます。

皆さん適切に答えられていますか?

シニアへのヨガ指導にあたり知っておくべきこと

シニアへのヨガ指導にあたり知っておくべきこと2ヵ条
シニアへのヨガ指導にあたり知っておくべきこと2ヵ条

「薬はダメ」と言ったらダメ

シニアを考える上で必要な知識として、心身の予備機能が落ちてくるという点です。[5]

更に、様々な既往が重なる中で多くの方が絶妙のバランスで日々を過ごされているという事実があります。「薬なんて飲んでいたらダメよ」という安易なアドバイスはそうした絶妙のバランスを崩すことになります。

ですから、内服をやめた場合に想定されるデメリットにまで考えが及ばない場合、安易な中断のアドバイスをすることは厳に慎む必要があります。

認知バイアス”がここにも影響しています。認知バイアスとは、直観や先入観、自らの願望や過去の経験、育った文化的背景からの影響により論理的思考が妨げられ、不合理な判断や選択をしてしまう心理現象のことを指し、様々な種類があります。

なぜ内服中断の指導をする東洋医学信奉者がいるのでしょうか? そしてなぜ、内服を中断したことで非常に良くなったという、ある一定数存在する患者達のことを逆に医師はあまり知らないのでしょうか?

それは、下記2つの理由が考えられます。

  1. 断薬を勧められて体調を崩した場合、通常医者に相談しに行き、断薬をアドバイスした人とは距離をとる
  2. 内服で体調を崩し、中断のアドバイスによって体調を改善した人は、医師と距離を置きアドバイスをくれた人と距離を縮める

1.2ともにマイナスの原因となった人と距離をとるため、アドバイスをする側は自分の失敗に気づきにくい(認知バイアス)と共に、人のしりぬぐいをする機会が増えます(自分は正しいという思いが増強される→認知バイアスにつながる)。

また、積極的に断薬を勧める人は「自分がそうしたことでとても体調がよくなった」という過去の主観的成功体験を持っている事が多く、「私はこれで良くなったので、あなたも試してみて」と善意からお話されている事も多いです。(これも認知バイアスです。)

アーサナは標準と同時に補助ポーズを学びましょう

シニアへの指導が増える中で、下記のような様々な訴えを一度に聞く機会が増えます。

  • 「私は膝が悪いの」
  • 「私は首が悪くて」
  • 「私は左の肩が上がらないの」

それに対して、皆さんがスタジオで習う”標準ポーズ”では対応できない場面が増えてきています。そうした人たちのために、標準ポーズの説明を終わった後に補助ポーズの説明もしてあげるようにしましょう。

“adapted pose”という言葉に適切な日本語が見当たらなかったので、今回は補助ポーズ、と訳しています。adaptしたposeということなので、心身に負担がかかり標準のポーズが困難な場合に負担にならないように“改造”したポーズというニュアンスです。

ヨガにはそもそも”こうあるべき”という正解はないので、補助ポーズに関しても、「こうしなさい」というのもおかしな話だと思いますが、補助ポーズの標準というものが一応あります。

まだ日本だとあまりメジャーではないのかもしれませんので、今後ご紹介していきたいと思います。

  • 膝が悪い方は椅子に座ってワシのポーズをする
  • 逆転のポーズは壁に沿って脚をあげる
  • 腰の下にボルスターやブランケットを入れる

などです。

これだけは覚えておこう

  • 日本は超高齢社会を迎える
  • 世界的なヨガ人気はシニアにも広がっている
  • シニアのヨガ人口が増える中で、シニアについての知識がヨガインストラクターに求められるようになってきている
  • シニアにおけるヨガ人気は西洋医学に対しての代替補間医療としての側面があり、インストラクターはこれまで以上に医学の知識を求められるようになってきている
  • 標準ポーズだけでなく、補助ポーズに対する知識も今後必須になってくる

参考資料

  1. 厚生労働省HP.「今後の高齢者の見通し.pdf」
  2. 『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』講談社 河合雅司
  3. 2016 Yoga in America Study Conducted by Yoga Journal and Yoga Alliance Reveals Growth and Benefits of the Practice
  4. フレイルとは:加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態。つまり、高齢者の身体機能や認知機能が低下しつつあるが、特徴は適切な介入によって、もとの健常な状態に戻すことが出来る状態です。
  5. 一般向けに非常に上手に高齢者の予備機能についてまとまっているウェブサイトです:健康長寿ネット

イラスト制作・栢原陽子