ヨガをしているときに、身体の内側がじんわりと温まっていく感覚を味わったことはありませんか?
その理由のひとつは、ヨガの呼吸で プラーナ(生命エネルギー)を循環させることで、身体が温まっていくからです。
今回は、ヨガの呼吸がどのようにして身体を 内側から温めるのか、生理学の視点から紐解いていきたいと思います。
呼吸は「代謝の入り口」

身体を温めようと思ったとき、多くの人が身体をたくさん動かそうと思うかもしれません。もちろん、全身の筋肉を使って動くことも、身体を温めるためにはとても有効的です。
しかし、身体を温める第一歩は、筋肉ではなく呼吸から始まっています。
私たちが息を吸うと、肺に取り込まれた酸素は血液中のヘモグロビンと結びつき、全身へと運ばれます。細胞に酸素が届くと、ミトコンドリアでエネルギー(ATP)が作られ、その過程で熱が生まれます。つまり、深い呼吸=全身の細胞を温める行為となるのです。
浅い呼吸が続くと、このエネルギー循環が滞り、冷えや疲労感につながりやすくなります。外気温が低下してくる秋から冬にかけては、呼吸を深くする意識を持つだけでも、身体を温めるきっかけになります。
ヨガで行うゆっくりとした呼吸は、酸素の取り込み量を増やし、自律神経のバランスを整えながら、細胞レベルで代謝をサポートします。
横隔膜と自律神経 ― 呼吸が神経を整える理由

普段の呼吸の約8割を担っているのが、横隔膜です。横隔膜は呼吸筋であると同時に、自律神経にも密接に関与しています。深い呼吸では横隔膜が上下に大きく動くため、副交感神経優位に切り替わりやすくなり、血流が促進され、結果として内臓の動きや体温調節も安定します。
逆に、浅い胸式呼吸や口呼吸が続くと、交感神経が優位になり過ぎ、末梢の血流が低下し冷えの原因にもなります。
呼吸は、自律神経を意識してコントロールするきっかけとなります。呼吸の仕組みを理解して、ヨガの呼吸を取り入れることで、より効果を高めやすくなります。
ヨガの呼吸がもたらす「内側からの温かさ」

プラーナヤーマは、生命エネルギーを循環させるという意味を持つヨガの呼吸法ですが、生理解剖学的には、呼吸筋の柔軟性を取り戻すトレーニングにもなります。
ヨガで行う完全呼吸では、胸郭と腹部を連動させながら肺の隅々まで空気を届けます。これにより酸素摂取量が増え、毛細血管レベルでのガス交換が活発化し、細胞のミトコンドリアがエネルギーを生み出す酸化代謝が高まることで、身体の芯から温かさを感じられるのです。
また、ウジャイ呼吸のように、喉の奥を軽く締めて摩擦音を生み出す呼吸法は、交感神経と副交感神経の切り替えを穏やかにしながら、軽い熱産生を起こす効果があります。実際に、ウジャイ呼吸を行うと体温がわずかに上昇し、内臓の動きが活性化しやすくなることが知られています。
カパーラバーティ(火の呼吸)は、強く短い呼気を繰り返すことで、横隔膜をダイナミックに動かす呼吸法です。吸う息は自然に任せ、吐く息で腹筋を素早く収縮させることで呼吸筋群のトレーニングになると同時に、腹腔内圧を高めて内臓を刺激し、消化機能や血流を促進します。
生理学的に見ると、繰り返される強制呼気によって呼吸中枢が活性化し、二酸化炭素の排出が増え、血中の酸素分圧が高まります。結果として、細胞レベルでの酸化代謝が促され、“内側から火を灯すような温かさ”を感じることができます。
つまり、ヨガで感じる「身体が内側から温まる」感覚は、スピリチュアルな表現だけでなく、呼吸生理学的にも裏づけられた現象なのです。
呼吸で整える「冬の巡り」
呼吸が深まるとき、筋肉よりも先に“細胞が目を覚ます”感覚があります。それは、プラーナ(生命エネルギー)が滞りなく流れはじめたサインかもしれません。
ヨガの呼吸法(プラーナヤーマ)を行うとき、呼吸によって体中にエネルギーが巡るイメージを持つことはとても大切です。それと同時に、生理学的な身体の仕組みも一緒に理解しておくことで、これから行うヨガの呼吸法が、より効果的なものになっていきます。
寒さが深まり、身体も心もぎゅっと縮こまりやすい冬。こんな季節こそ、深い呼吸で体温を上げ、滞りやすい巡りを整え、心のざわつきを穏やかにしていきましょう。
それは、科学でも説明できるヨガの智慧なのです。
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