安楽座で座るシヴァ神の像

太初のヨーギーシヴァ神の様々な名前と役割

ヨガに最も所縁の深い神様はシヴァ神です。

シヴァ神は破壊の神様として知られるので、怖いイメージをお持ちの方もいるかもしれません。

しかし実際には様々な役割を担った神様で、怖い面と慈悲深い面があり、ヨガにとっては特に大切な神様です。

シヴァ神にはいくつもの名前と姿があります。

今回はシヴァ神の複数の名前からヨガとの関係を見ていきましょう。

太初のヨーギーであるシヴァ神とは

ヒンドゥー教の3大神
シヴァ神はヒンドゥー教の3大神の1人として知られています。

  • 創造:ブラフマー神
  • 維持:ヴィシュヌ神
  • 破壊:シヴァ神

その中でもシヴァ神は破壊を司る神として知られているため、とても怖い神様だと思われがちです。

様相も、全身に灰を塗った青い肌に、ドレッドヘア、首にコブラを巻いて、腰布はヒョウの皮と、神様とは思えない姿です。

インドの3大神とは?世界は「創造・維持・破壊」でできている

シヴァ神の姿は、ヒマラヤの奥地やジャングルなど人里離れた場所で修行をするヨーギー(ヨガ修行者)の姿です。

そのため、アディ・ヨーギー(太初のグル)と呼ばれています。

シヴァ神に伝えられたヨガの教え

シヴァ神の別名でアディ・ヨーギー(太初のヨガ修行者)マハーヨーギー(偉大なヨガ修行者)と呼ばれます。

これは、ヨガの教えを最初に説いたのがシヴァ神だと信じられているからです。

ハタヨガの道術を太初に示しもうた祖神シヴァに帰命たてまつる。(ハタヨガ・プラディーピカ1章1節)

シヴァ神は、始めに自身の妻であるパールバティ女神(シャクティ)にヨガの教えを説いたと言われています。

そして、パールバティ女神が人間の聖人たちにヨガの教えを伝えました。

シヴァ神自身も熱心なヨガ実践者であり、瞑想を行います。そして、熱心な修行者のことを愛しています。

現代まで伝わっているヨガの教えは、シヴァ神が直接与えてくれたものであり、それを代々師から弟子へと受け継がれてきました。

そのためインドでは、師(グル)の存在がヨガの成功において最も大切だと言われています。

シヴァ神の様々な名前から特徴を見てみよう

シヴァ神は様々なインド神話に登場する神様ですが、様々な姿と名前が与えられています。

ヨガに関係のある姿もあるので知っていると面白いです。

踊りの王ナタラージャ

踊るシヴァ神
ヨガのポーズの1つにナタラージャ・アーサナ(舞踊王のポーズ)というものがあります。

ナタラージャはシヴァ神の呼び方の1一つで、片足を上げた姿で描かれることが多いです。

昔、シヴァ神のことをよく思っていない聖仙たちが、シヴァを殺そうとしました。

虎を投げつけたけど、シヴァ神は虎の皮を剥いでその上で踊りました。次に毒蛇(コブラ)を投げつけましたが、ネックレスにして首に巻き付け、そのまま踊り始めました。

強くて美しいシヴァ神の踊りに見惚れた聖仙たちは、シヴァを崇めるようになりました。

このナタラージャの壁画は、中石器時代のビームベートカーの岩陰遺跡からも見つかっております。

紀元前9千年前のものだと言われており、シヴァ神への信仰がとても古いことが分かります。

パシュパティ(獣の主)

パシュパティ(獣の主)はインダス文明の遺跡群で見られる有名なモチーフに書かれています。

パドマ・アーサナ(蓮華座)で座るパシュパティ(シヴァ神)の周囲に、様々な動物が描かれています。

ヨガの歴史は紀元前2千年ごろのインダス文明からだと言われるのは、このパシュパティのモチーフによって考えられている学説です。

このインダス文明の遺跡からは、シャクティ女神の像も発掘されています。

シヴァとシャクティというヨガを象徴する2人の神様を古代インドのインダス文明から発見することができるのは興味深いです。

後に登場したハタヨガでは、シヴァとシャクティの融合こそが解脱への道だと考えられるようになりました。

シャンカラ(恩恵を与えるもの)

シャンカラも頻繁に使われるシヴァの異名です。

シャンカラには「慈悲深いもの」「恩恵を与えるもの」という意味がありますが、もともとシヴァという言葉にも「吉祥な」「慈悲深い」といった意味があります。

シヴァ神の全身はルドラ神(豪雨の神)であると言われています。

豪雨は全てを破壊する恐ろしいものですが、その後に必ず新しい芽吹きが訪れます。

破壊と豊穣の両方の側面の名前が与えられています。

ヨガでも必ず破壊と再生はセットで行われます。今までの古い価値観や思い込み、執着を破壊することで、新しい自分に出会うことができます。

ヴァイラヴァ(恐ろしいもの)

シヴァ神のヴァイラヴァの姿
安楽座で座り慈悲深い表情のシヴァ神
シャンカラが慈悲深いものであれば、反対にヴァイラヴァは「恐ろしいもの」という意味です。

同時に、恐怖を破壊するもの、恐怖を超越するものとしても知られています。

欲望や怒り、貪欲さといった人を破滅に向かわせるものを破壊し、信者を守っているとも言われています。

ヴァイラヴァは犬を連れて登場します。犬はインドでは死体を食べるものとして、不吉だと考えられています。

(現在のインドでは愛犬家が増えていますが、ヒンディー語で犬を表す言葉はとても汚い言葉とされるため、必ず英語で Doggie と呼びます。)

マハーカーラ(大黒天・偉大な時間の神)

日本の仏教で「大黒天」として知られている神様は、インドではマハーカーラ(偉大な時間の神)と呼ばれ、シヴァ神の姿の1つです。

カーラとは時間を意味するサンスクリット語です。

インドでは、カーラ(時間/死)は全てを奪い去るものとして恐れられています。時間は慈悲なく、誰も待つことなく、世界のあらゆるものを滅します。

マハーカーラは通常黒色の肌で描かれます。黒は全ての色を包含するのと同時に、何もない「無」を表す色でもあります。

そんなマハーカーラ、大黒天が中国に渡り、日本まで到達した時には財運の神になっているのは興味深いですね。

イーシュワラ・マヘーシュワラ(自在・大自在天)

古代インドでは世界を創造した最高神をイーシュワラ(自在天)と呼んでいましたが、後にイーシュワラはシヴァ神を意味する異名の1つとして使われることになりました。

イーシュワラに「偉大な」という意味のマハーを付けると、マヘーシュワラ(大自在天)となります。

ヨガ・スートラでもイーシュワラ・プラニダーナ(自在神への祈念)という教えが出てきますが、この場合はシヴァ神に限定しない「神」として認識されることが多いです。

リンガ・ラージャ(リンガの王)

リンガはシヴァ神のお寺の中心に必ずある彫刻で、男性器を象徴しています。

リンガの下には必ずヨーニと呼ばれる土台があり、それは妻であるシャクティ女神の女性器を象徴しています。

破壊の神として知られるシヴァ神ですが、リンガには自然界の創造や再生の力が備わっていることが分かります。

後世の一部のタントラ(密教)では性的な象徴として扱われることもありますが、一般的には神様の持つ創造のエネルギーの象徴として祈りを捧げられています。

様々な名前から読み取れるシヴァ神の姿

インドの神様には様々な呼び名があるので覚えるのが大変だと思う人もいるかもしれません。

しかし、これらの名前は全てシヴァ神が表す特徴を含んでいて、インドの人の神様のイメージを掴むために役にたちます。

シヴァ神は世界の創造にも重要な神であり、ヨガを実践する人にとっては教えを与えてくれる存在です。

ヨガでは必ず創造・維持・破壊の3つが必要です。

その全てを備えたシヴァ神は存在自体がヨガの教えなのかもしれません。

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