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ミス・ビアンカで考える~不幸と立ち向かうための小さな1歩~

みなさん、こんにちは! 

今回はイギリスの名作「ミス・ビアンカシリーズ・くらやみ城の冒険」を取り上げてみたいと思います。

「ミス・ビアンカシリーズ」の事を知っているのは、児童文学好きな方くらいでしょうか。

渡辺茂男の名訳で日本に紹介された「ミス・ビアンカシリーズ」は全7作ありますが、どれも冒険に次ぐ冒険が続き、スリルとサスペンスに満ちていて、何度読んでもドキドキハラハラさせられます。

ミス・ビアンカという白くて美しい貴婦人ネズミが、波乱万丈の冒険を繰り広げるという聞くからに面白そうなこの物語とヨガに、どのような関係があるのでしょうか。みなさんと共に考えていきたいと思います。

イギリスの家庭の愛読書「ミス・ビアンカシリーズ」

作者のマージェリー・シャープは、1905年、イングランドのソースベリーで生まれました。

彼女自身の言葉によれば「熱狂的なロンドンっ子」だというマージェリー・シャープは、若い頃から作家を志し、「しゃくなげのパイ」でデビュー。その後、主に大人向けの小説を書きました。

1959年、ミス・ビアンカシリーズの第1作目となる「くらやみ城の冒険」は発表されたとたん大人気となり、新聞や書評誌で大絶賛されました。そして、瞬く間に子どもにも大人にも愛される家庭の愛読書の1冊となりました。

大使のぼうやに寵愛されてきた白ねずみミス・ビアンカが、無実の罪で監獄されているノルウェーの詩人を、仲間と共に脱獄させるというスリル満点の物語は、冒険につぐ冒険がつづき、息もつけない波乱の展開が続きます。

「くらやみ城の冒険」を読みだしたら、次々にシリーズを全読破したくなること受けあいです。

世界的なネズミ達の組織「囚人友の会」

冒険に出る白いネズミの切り絵
物語の舞台はイギリスの首都。大使館の馬小屋の裏側の酒蔵の地下にある大きなカラッポの酒樽のなかに、ネズミの会議場があります。その会議場でネズミ達が「囚人友の会」を開いているところからはじまります。

「囚人友の会」の主な活動は、寂しい時間を過ごしている囚人達の友達になってあげることのようです。

この活動は、世界規模にまで広がっており、どの国にも「囚人友の会」の支部があるというのですから、かなり大規模なネズミの組織なのだということがわかります。

この「囚人友の会」で、今回、議題に上がったのは、くらやみ城という恐ろしい監獄に囚われているノルウェーの詩人です。

くらやみ城は、その名前を聞いただけで、会議場全員のネズミが震えあがるくらい恐ろしい監獄です。囚人たちは、窓もない地下牢に閉じ込められており、想像もできないくらいみじめな生活をさせられているということです。

そのみじめな、恐ろしい生活をさせられている囚人の1人がノルウェーの詩人なのですが、無実の罪でそこに囚われているらしいのです。そこで、「囚人友の会」の議長ネズミは、この詩人を救い出したいと提案します。

そのために必要なことは、ノルウェーのネズミをイギリスに連れてくることでした。というのも、ネズミ達は世界共通のネズミ語と、自分達が住んでいる国の言葉と2種類を話すことができ、ノルウェーのネズミなら、ノルウェー人の詩人と意思疎通をすることができるからです。

しかし、イギリスから、はるばるノルウェーまで行くことは、小さなネズミ達にとって困難なことでした。けれども、議長ネズミは、それが簡単にできるたった1匹のネズミがいると言います。それは、大使のぼうやに飼われているミス・ビアンカでした。

大使は最近、転勤を命じられて、2日以内に、ノルウェーに飛行機で旅立つことになっており、ぼうやとミス・ビアンカも同行することになっていました。

そこで、ミス・ビアンカに、ノルウェーネズミを連れてきてもらおうということに決まり、
大使館の料理部屋に住んでいるバーナードが、彼女にそのことを伝えるべく、真夜中に、彼女のもとを訪れます。

白ねずみの貴婦人ミス・ビアンカ

白い美しいネズミと植物
ミス・ビアンカは、大使のぼうやの勉強部屋にある、すばらしいせとものの塔の中に住んでいました。

それは夢に見ることができないほど美しい建物で、まわりには小庭園があり、金のブランコや、シーソー、噴水などが優雅に置いてあるのでした。その小庭園のまわりを金のかなあみがかこい、ちょうど大きな鳥カゴのようになっているのです。

そんな優雅すぎるせとものの塔の中に住んでいるミス・ビアンカは、なめらかな銀白色の毛をしており、深い褐色の美しい目を持った美しいネズミでした。ルイ15世の時代の美しくお化粧をした貴婦人のように優雅で、首には銀のネックレスを下げているのです。

バーナードは、ミス・ビアンカにせとものの塔の中に招き入れられます。(ネズミ達が簡単に出入りできるようになっているのです)

バーナードは、美しいミス・ビアンカに一目ぼれしてしまいますが、同時に彼女が、金のブランコにゆったり揺られている以上のことは何もできるはずがないとも思います。ノルウェーのネズミとコンタクトを取り、彼を無事にイギリスの会議場まで派遣するなんて難しい任務は、全くできそうにもないのです。

バーナードは困り果ててしまいますが、ミス・ビアンカがヒマな時間には詩を書いているという話を聞いて、くらやみ城に無実の罪で囚われているノルウェー人の詩人がいること、彼を脱獄させようと「囚人友の会」が動き出そうとしていることを、彼女に話します。

彼女はその話にビックリして気絶してしまいますが、バーナードは必死に説得します。

ミス・ビアンカ。ぜひ考えてください! あなたとおなじような詩人なんです。暗い地下牢に、たったひとりでとじこめられている彼のことを考えても、平気でいられるんですか、あなたは? (「くらやみ城の冒険」)

さらに、バーナードは、ミス・ビアンカだけが24時間以内にノルウェーに行くことができる、たった1匹のネズミなんだということを彼女に真剣に語ります。

そして、こうつけくわえます。

美しいうえに、勇敢であれと、あなたに要求することなど、ずいぶんひどいことですね!あなたはみんなから守られ、だいじにされ、愛され、尊敬されているべきなんだ。そしてぼくなんか、あなたのまえにひれふして、からだの上を歩いてくれ、としかいえない身分なんですよ!(「くらやみ城の冒険」)

バーナードの言葉に心を動かされたミス・ビアンカは、とうとう静かに言います。

あなたは、わたくしがどうあるべきかを、おっしゃってくださったのですわ。わたくしも、勇気をもてるかもしれなくってよ……(「くらやみ城の冒険」)

不幸と立ちむかう小さな一歩を

そんなわけで、ミス・ビアンカの冒険がはじまりました。せとものの塔から出たことのない、世間知らずの彼女が、せとものの塔から抜け出して、大勢のノルウェーネズミ達に出会ったり、ノルウェーネズミのニルスと共にはるばる船旅をして、イギリスの会議場へ向かったりすることになるのです。

それだけではありません。様々な理由が重なり、ミス・ビアンカは、ニルスと、バーナードと共に、くらやみ城から詩人を救出する冒険に出かけることになってしまいます。

くらやみ城に向かった3匹は、監獄長に飼育されている意地悪な大猫マーメークに捕らえられて食べられそうになったり、恐ろしい崖のぼりをやったと思えば、恐ろしい川に落ちておぼれそうになったりと、息もつかせぬ波乱の冒険を繰り広げます。

しかし、注目すべきは、この波乱の冒険の中で、ミス・ビアンカがどんどん勇敢になっていくという点でしょう。

金のブランコで揺られている以上のことはとてもできそうになかった貴婦人ネズミのミス・ビアンカは、恐ろしい冒険の中で、機知と機転を磨いていき、持ち前の優れた頭脳や、女性らしい魅力を存分に発揮して、不可能と思われる大冒険をなしとげていきます。

考えてみれば、ミス・ビアンカはそんな大冒険をする必要は少しもなかったはずでした。そもそも、「囚人友の会」から持ち掛けられた任務だって、キッパリ断ることもできたはずです。見ず知らずの詩人を救出するために命をかける必要は全くなく、せとものの塔で優雅に暮らしていたって良かったわけなのです。

それなのに、あえて彼女が、くらやみ城から詩人を救出する危険な冒険に出た理由は、詩人への同情と憐みの心でしょう。

せとものの塔から1歩出て、彼女がはじめてみた現実世界。そこで行われている悲惨さから、彼女は目をそむけて、知らん顔ができなかったのです。

他の幸福を喜び、不幸を憐み、他の有徳を喜び、不徳を捨てる態度を培うことで、心は乱れなき清澄を保つ(「ヨガ・スートラI 33」)

「ヨガ・スートラ」でもこのように語られておりますが、不幸を憐れむというのは、ヨガにおいても大事なことなのです。

考えてみれば、私達のまわりにはまだまだ不幸や悲惨なこと、理不尽なことがあふれています。コロナ禍の今、そうした現実がますます、暗く世界を覆っているといっても過言ではないでしょう。

そんな悲惨さから目を背けることは、もちろんできます。けれども、それは結局、自分を苦しめることにつながるのだと、パタンジャリは言います。不幸や悲惨さから目を背けた時、知らん顔をしている自分は薄情すぎるんじゃなかろうかと、心がかき乱されてしまうことになるからです。

いじめを見て見ぬふりをする時、本当に知らん顔をしていていいのだろうかと、心がざわつきますよね。思い切って、いじめと立ち向かってみた方が、かえって不思議と心が落ち着いたりします。

だから、自分の心を落ち着けるためにも、不幸を憐れむようにと「ヨガ・スートラ」では言っているのです。

その手本を、小さなネズミのミス・ビアンカとその仲間達が、何と素晴らしく示してくれていることでしょう! 

無実の罪で囚われている囚人の不幸を知らん顔せず、できる限り精一杯の冒険をして、彼を救出しようとする。それは、パタンジャリも一目おかずにはいられないヨギー的な行為だと言わないわけにいかないでしょう。

ミス・ビアンカ達のような勇敢な行為は、もちろん簡単にはできません。

けれども、ミス・ビアンカシリーズを読んだ時、私達のすぐそばにある間違ったことや、理不尽なことを少しでも解消するための小さな1歩を踏み出す勇気をもらえるような気がするのです。

参考資料

  1. 『くらやみ城の冒険』(1987年:マージェリー・シャープ 著/渡辺茂男訳/岩波書店)

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