ヨガと免疫のお話

日本ヨーガ療法学会・木村慧心先生インタビュー “ヨガと免疫のお話”

コロナの流行で、“免疫”への注目度が、以前にも増して上がっている。

誰だって健康でいたいもの。ワクチンや特効薬が実用化されていない今、ウイルスに対抗する自分の力=免疫力を強化することが得策と言えるだろう。

ひと口に免疫と言っても、免疫には自然免疫、獲得免疫の2種類がある。
免疫

前者は私達の体に入ってきた異物を認識し、区別することなく異物という情報だけで無差別的に攻撃をする。

対して、獲得免疫は、一度体の中に入ってきた異物に特異的な「抗体」と呼ばれるタンパク質を作り、再びその異物が入ってきた時に特異的に攻撃する機構だ。

ニュースでよく耳にする抗体検査とは、コロナウイルスに対して、特異的な抗体を持つかどうかを調べることで、すでにコロナウイルスに感染したことがあるかどうかを明らかにすること。

今まで経験したことのない、コロナウイルスという敵に対しては、前者の自然免疫を高めていく必要がある。

木村慧心先生が代表を務め、ヨガによって心身の健康促進を行う日本ヨーガ療法学会では、免疫とヨガの関係についての研究を行い、ヨガの呼吸法、呼吸がともなうエクササイズによって、自然免疫をつかさどるNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化するというエヴィデンスなどを発表している。

今回は、日本ヨーガ療法学会の木村慧心先生に「ヨガと免疫」というテーマで、お話を聞いた。

ストレスをケアして、免疫を高める

yogini-logo
yogini-logo

慧心先生が代表を務める日本ヨーガ療法学会は、ヨガが免疫に関わる細胞の活性を高める、という研究結果を発表されていますよね。免疫はよくストレスと関連が強いという話がありますが、長引く自粛生活によるストレスを感じている人も多いかと思います。”自粛生活のストレスケアとしてのヨガ”と”免疫”にはどのような関係がありますか?

「ストレスのケア」という側面で言うと、ヨガの動きならではの性質がポイントです。

ヨガの体操は、心身医学の分野では、Meditative exercise、瞑想的エクササイズと言います。ポーズを取ったり、さまざまな動きをする時に、体の緊張や弛緩、血流、血圧、呼吸の変化というものを意識化していることから、そのように言っています。

つまり、自分の体の内側に意識が向いている状態。なので、私達はポーズを直したりしません。イメージしてください。触れられると、その人の意識はどこに向きますか?

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

外側ですね。

そうですね。その点、オンラインはいいと思います。一人でヨガを実習している時は、インストラクターからのポーズに対する指示は少なく、先述したような体の内側の状態に意識が向きやすくなる。

ヨガのポーズを行う時は、血流や血圧、筋収縮、筋弛緩を意識化し、自分自身でコントロールしなくてはいけないのです。つまりは、自分を客観視している状態。これが「コロナ」といった精神的な落ち込みに効果的なのです。

「マインドワンダリング」と言ったりしますが、意識が常に外を向いていて、散漫な状態では、心のエネルギーを浪費してしまう。しかし、自分自身を客観的に見る意識があれば、それを防ぐことができるのです。

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

なるほど、瞑想的な状態が心のエネルギー消費を軽減してくれることで、精神的に癒されるのですね。

ヨガをしている時の体の変化

yogini-logo
yogini-logo

ヨガをしている時に体の中で起きている反応を、もう少し詳しく教えていただきたいです。

免疫系とつながりが深い神経系、内分泌系ではヨガをしている時、どのような変化が起きているのですか?

ヨガは緊張と弛緩を繰り返しますよね。これは、神経系で言うと、自律神経系の交感神経と副交感神経を自分で刺激しているのです。

では、その自律神経の働きをつかさどるのはどこかと言うと、脳の大脳辺縁系にある視床下部というところです。

視床下部は情緒をつかさどり、自律神経を調整する働きに加え、ホルモン(内分泌系)を調整する働きがあります。

例えば、女性が更年期で体温調節がうまくできないことがありますね。これは、女性ホルモン分泌の変化によって、視床下部に届く信号が変化し、連鎖的に自律神経系にも影響が出るためです。

今回のテーマである免疫系は自律神経系、内分泌系とトライアングルの関係で一体化して作用しています。

交感神経が優位の状態が続いても、副交感神経が優位になりすぎた鬱状態でも免疫系の機能は低下します。

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

免疫系、神経系、内分泌系は相互作用するため、バランスが大切なんですね。その三つの中枢とも言える視床下部を直接的に整えることはできないのでしょうか?

視床下部がある大脳辺縁系は、本能がつかさどる領域で、意識的にコントロールすることはできません。

大脳辺縁系の外側にあり、理性、合理的思考をつかさどる大脳新皮質が、緊張や弛緩といった体の反応を受け取って、大脳辺縁系に伝えます。

反応が伝わると大脳辺縁系は、緊張や弛緩の状態を記憶し、大脳新皮質からの情報を受け取ることができるようになります。

日常を脅かすようなメディアからの情報に、毎日のように大脳新皮質がさらされ続けていると、当然、その情報を受け取る大脳辺縁系はずっと緊張状態になり、視床下部が制御する免疫系や自律神経系、内分泌系にも影響が出てきます。

過緊張の状態が続くと、例えば女性だと月経不順になったりします。逆にリラックスすると唾液や涙が出たり、ホッとして息も出ますよね。

こう言ったことからも、自律神経系と内分泌系の相関関係が体感的に理解できるのではないかと思います。

ヨガをしていると、緊張(交感神経優位)と弛緩(副交感神経優位)を意識的に作り出して大脳新皮質に認識させます。

そのため、情報を受け取った大脳辺縁系は、日常生活で忘れがちなリラックスを認識することができるようになるのです。

自律神経のバランスが取れ、視床下部の働きが整うと、免疫系の機能も安定します。

夜の街での流行がよく報道されていましたが、夜の繁華街で働いている人は、昼夜逆転など、生活リズムが乱れやすいですよね。

そうすると、自律神経のバランスも崩れやすく、相関関係にある免疫機能も低下し、感染しやすい、もしくは症状が現れやすいとも考えられますね。

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

ヨガが一番ダイレクトに作用するのは、やはり自律神経系なんですね。

自律神経系が整うと、それにともなう変化が大脳新皮質で認識され、視床下部がある大脳辺縁系に伝達される。

そして視床下部がコントロールする免疫系、内分泌系のバランスも取れてくる、ということですね。

自律神経とヨガ

体温と免疫、そしてヨガ

yogini-logo
yogini-logo

体温が高い人は風邪をひきにくいと聞いたことがありますが、体温と免疫ってやはり関係があるのでしょうか?

高齢者は、少し寒いと風邪をひきやすかったりしますが、子どもは体温が高く、真冬でも半袖半ズボンで元気に遊んでいますよね。それは代謝が高く、体温を上げてくれる褐色脂肪細胞が多いからなんです。

それが年々減少していくことから、昔は、中高年には褐色脂肪細胞はないと思われていました。

しかし、最近では、肩甲骨や背骨まわりに残っていることがわかっています。

ヨガでは、肩甲骨や背骨まわりをよく動かしますよね。そうすると、褐色脂肪細胞が刺激されて、基礎体温が上がります。

経験的に、ヨガによって基礎体温が高くなった人は風邪などもひきにくくなったのを見てきましたので、褐色脂肪細胞と基礎体温は、免疫系と関連があると考えられますね。

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

日常から体温が低く35度代の人もいますよね。人間にとって、活動しやすい体温の基準ってあるのでしょうか?

またその基準よりかなり低い人は、恒常性を保つための自律神経の機能が低下しているということなのでしょうか?

まあ、そうでしょうね。

私達の体は、甘やかすと、それに対応できなくなってしまいます。

例えば二型糖尿病は、膵臓が弱く、インシュリンを分泌する機能が低下、もしくはそれに対する反応が鈍くなっている状態です。

その状態でただちに外部からインスリンを打ってしまうと、外部からの供給がなくてはならない状態になってしまいます。

体温を維持するのも、自分で自律神経の働きを整える必要があります。

体温維持のポイントとなってくるのは腹式呼吸。

人間が恒温動物になることができたのは、下腹部の肋骨を除去して、腹式呼吸ができるようになったからです。

腹式呼吸は酸素の供給効率が高く、腹式呼吸の獲得によって基礎代謝が大きく上がり、一定の体温を保つことができるようになったと考えられています。

交感神経優位の緊張状態では、肩、胸で呼吸してしまいがちですが、リラックスした状態では、お腹を使いゆったりとした呼吸をすることができますね。

なので、体温が普段から低い人は、自律神経の乱れなどによって腹式呼吸がうまくできていないのかもしれません。

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

つまり、体温が低いというのは、自律神経系のコントロールが低下している状態で、免疫系の低下の現れとも取ることができますね。

そうですね。心身相関の医学、つまり心身医学では(心身医学の専門家が心療内科の先生)、自分の周りが必要以上に気になってしまうことを過剰適応と言います。

過剰適応では、過緊張状態で腹式呼吸が阻害され、基礎体温が下がってしまう、と考えられますね。

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

ヨガは自律神経のバランスを整える練習と言えますが、腹式呼吸だと副交感神経が優位になるイメージが強いです。

そんなことはないですよ。吸気で交感神経が優位になり、呼気で副交感神経が優位になります。ヨガは自分で緊張と弛緩をコントロールできるのです。

木村先生
木村先生
yogini-logo
yogini-logo

呼吸の種類よりも、吸う息と吐く息のバランスが大事なんですね。

お話、ありがとうございました。

恒常性と自律神経

ヨガで自分をケアする

たくさんの情報が飛び交う毎日、私達にできることは、情報に振り回されずに、自分の体を丁寧にケアしながら生活をすること。

生活の中にヨガがあれば、自分の体を客観視して、より適切なケアをすることができるだろう。

これから起こるかもしれないことを考えるより、地に足を着けて自分を大切にすることが何よりも予防策なのかもしれない。

_________________________
木村先生が理事長をつとめる、日本ヨーガ療法学会では、お家で簡単にできるヨガの体操のYouTube動画を公開!

コロナウイルス対策ヨーガ療法実習動画、チェックしてみてください!
_________________________

木村慧心
きむらけいしん。長年に渡り伝統的ラージャ・ヨーガを世界中で指導。世界ヨーガ療法連合(GCYT)創設役員、日本ヨーガ療法学会理事長、日本ヨーガ・ニケタン代表。

文=Yogini編集部
イラスト=ひおきあやか