ヨガで身体が柔らかくなる理由、說明できる?

ヨガで身体が柔らかくなる理由、説明できる?解剖学的に仕組みを解説!

参加者の方がヨガを終えた後の反応の1つに「身体が柔らかくなった」という声が聞かれます。みなさんも実際にヨガをした後に「身体が柔らかくなった」という感覚を経験されたことがあると思います。

これは感覚的なものではなく、ヨガを行う前後で立位体前屈を行い効果判定をすると、数値としても身体が柔らかくなっているのがわかります。

では、なぜヨガをすると身体が柔らかくなるのでしょうか?

それは、ヨガは人間が本来もっている機能を上手く利用しているからです。今回はヨガをすると、身体が柔らかくなるメカニズムについて説明したいと思います。

柔軟性を理解するための筋肉の動き3つ

まず、筋肉について、柔軟性のメカニズムを理解するためには下記の3つを覚えておきましょう。

  • 【伸張】筋肉が伸びる動き
  • 【収縮】筋肉が縮まる力を発揮する動き
  • 【弛緩】筋肉が緩まる動き

ゆっくり伸ばすことで、柔軟性は高まる!

肘の解剖図:筋肉と骨と腱を解説
筋肉と骨との間にはその2つを結合するため、『腱(けん)』という組織が存在

ほとんどの筋肉は骨に付着しています。筋肉と骨との間にはその2つを結合するため、『腱(けん)』という組織が存在します。

腱の中には『ゴルジ腱器官(けんきかん)』という器官があり、この器官は腱が伸張されることで反応します。 機能としては、筋肉の収縮を抑制し弛緩するように命令します。

具体的に言うと筋肉が長い時間伸張され続けると、筋自体が伸ばされることによるストレスを受けてしまいます。ゴムバンドをゆっくり伸ばしていくとちぎれるのと同じで、筋肉もゆっくり伸ばされ続けると痛めてしまいますので、ゴルジ腱器官が反応して筋肉を弛緩、緩めさせます。

ゴルジ腱器官の働きにより筋収縮を抑制し弛緩すると、伸張するゆとりができるため、筋肉はさらに柔軟性を高めることができます。

ゴルジ腱器官を働かせるポイントとしては『長い時間、筋肉を伸張させると反応する』ということです。諸説ありますが、20~30秒ほど筋肉を伸張することでゴルジ腱器官が反応し、筋肉の柔軟性が上がると云われています。

陰ヨガで柔軟性が高まる秘密も「ゴルジ腱器官」

黒いヨガマットの上で、前屈して足を抱えたポーズをとる女性の写真
陰ヨガで柔軟性が高まる秘密も「ゴルジ腱器官」

では、ここでヨガのアーサナを思い返してみましょう。

ヨガはゆっくりと動きながらアーサナを完成させます。そして、完成したらゆっくり長い呼吸をしてアーサナをより深めていきます。この時、時間をかけてゆっくり呼吸を繰り返すと思います。

一呼吸を約10~15秒の長さで行えば、3回呼吸ほど繰り返すと、自然にゴルジ腱器官が反応します。そうすると筋肉の収縮が抑制され、身体に柔軟性を与えてくれます。アーサナをキープしている時に筋肉が少しずつ伸びている感覚があるのは、この反応のおかげです。

陰ヨガでは、1つのポーズを長い時間ホールドすることで柔軟性が高まると云われていますが、その仕組みは上記のメカニズムによるものです。

急激な筋肉の伸長に反応する筋紡錘

筋肉の中には『筋紡錘(きんぼうすい)』と呼ばれる器官があります。筋紡錘の働きとして、筋肉が過度に伸張されるのを防ぐことです。

急激に筋肉が伸ばされた時に筋内の筋紡錘が反応して、反射的に筋肉が収縮します。これを「伸張反射」と言います。

ゴムバンドが瞬間的に思いっきり伸ばすとちぎれるのと同じで、急激に筋肉が伸ばされると筋肉自体に大きなストレスが加わり、損傷してしまいます。筋紡錘は、筋肉の損傷を防ぐために、無意識のうちに筋肉を収縮させて、伸張ストレスに対応するのです。

つまり、筋紡錘による収縮は、一種の「防衛反応」と言えます。

電車の中で眠っても倒れないのは筋紡錘の働き

電車の中で居眠りするコートを羽織った男性の写真
電車の中で眠っても倒れないのは筋紡錘の働き

例えば、電車に乗っているとします。電車のリズミカルな揺れはとても心地の良い眠気を誘います。みなさん、経験したことありませんか?

眠気に誘われるがままに目を閉じてウトウトしていると、電車の大きな揺れに頭がカクッとなり目が覚めます。身体がリラックスしてる状態で頭がカクッとなると、そのまま頭が前方に落ちて体勢を崩してしまい、座席から落ちてしまいます。でもカクッとなっても無意識のうちに筋肉が反応して、体勢を立て直してますよね。

実はこの時に筋紡錘が反応しています。

居眠りしても倒れない理由
居眠りしても倒れない理由

頭がカクッとなった時に首の後ろの筋肉が急激に伸長されます。筋紡錘は急激に伸ばされた時に反応するので、首の筋肉が無意識のうちに収縮します。首の筋肉が収縮し、頭が前方に落ちないようにすることで、体勢を立て直すことができるのです。

つまり、無意識の内に筋紡錘が働き、伸張反射を起こすことで転倒することを防いだのです。

ストレッチをする時に反動をつけながら行うと、筋紡錘が反応して伸ばしたい筋肉が収縮してしまい、逆に筋や腱が硬くなる可能性があります。(誤解してほしくないのですが、必ずしも反動をつけるストレッチが悪いわけではありません)

ヨガは、ゆっくりと身体を動かしながらアーサナを行います。急に筋肉を伸張することもないため、筋紡錘による反応が出ません。そうすると筋肉は収縮することなく、ゆっくり筋肉を伸ばすことができるのです。

ゴルジ腱器官と筋紡錘の働きを上手く利用したヨガの動き

ゴルジ腱器官は、筋肉をゆっくり伸ばされた時に働き、筋肉を「弛緩」させます。筋紡錘は筋肉が瞬間的に伸ばされた時に働き、筋肉を「収縮」させます。つまり、同じ「伸張」という作用に対して、「弛緩」「収縮」という相反する反応を起こします。

筋肉の柔軟性を高めるためには、筋紡錘による収縮を抑え、ゴルジ腱器官が働くことがポイントになります。ヨガの動きは、ゴルジ腱器官と筋紡錘の働きを上手く利用している、非常に理にかなったものと言えるでしょう。

ヨガを行った後に、身体全体が柔らかくなるのはこのような身体のメカニズムがあるためです。