静かな水面を見渡す座った女性の背中

心の浄化:チッタ・シュッディとは

私たちが幸せだと感じることも、苦痛だと感じることも、心(チッタ)の状態によります。心の状態がよくない時には、どのような幸福が舞い降りてきても喜びを感じることができません。逆に、心が純粋な状態の時には小さな幸福も見逃さず、歓びを実感することができます。

常に自分の内側が清らかな状態であるために、チッタ・シュッディ(心の浄化)を意識してみてはいかがでしょうか。

心の純粋さを高めるチッタ・シュッディとは

ハートの形に立ち上がる水

快適な生き方って、何でしょうか。

私たちは、外の環境に幸福を求めがちです。充分なお金があれば幸せなのか、容姿が美しくなれば良いのか、立派な職業についていれば幸せなのか、あるいは、お洒落な住宅街に住めば素敵なライフスタイルが手に入って幸せになるのでしょうか。

確かに、環境によって私たちの心は揺れ動きますが、環境は外的なものにすぎません。所得が高くても家の中では夫婦喧嘩ばかりで心が休まらない人もいれば、発展途上国のスラム街でも家族で助け合って幸せな人々が沢山います。

私たちが「幸せ」かどうかを感じ取るのは心です。心の中に不純でネガティブな感情が沢山あれば、どんな状況でも不安は消えませんが、心が清らかな状態の時には、ささいな喜びも感じ取りやすくなります。私たちが快適で幸せだと感じやすい人生を送るためには、自分自身の心の状態を整えることが一番大切です。

チッタ・シュッディとは、「心の浄化」という意味です。心の浄化とは、今感じている不快感を取り除くだけではありません。新たな思考を生み出す元となる無意識の心の癖や、トラウマも手放していく必要があります。自分の心(チッタ)から不純性が取り除かれていくことで、今まで覆い隠されていた全く新しい純粋な自分に出会えるはずです。

チッタ・シュッディで取り除く、心の純粋さを阻害するもの

手から飛んでゆく白い紙吹雪

ネガティブで苦悩を生み出す原因は、エゴ(自我意識)です。私たちは、「自分は、自分は」というエゴが強くなるほど欲望が増し、怒りが増幅し、それが不快感につながります。

ヨガでは、エゴをどれだけ手放すことができるかが重要です。今まで作り上げてきた自分自身への執着を弱めることはとても難しいことですが、執着なく自分とフラットに向き合えた時にはじめて自分自身と対等に向き合うことができます。

教典『ヨガ・スートラ』では、苦しみを生み出す原因は5つのクレーシャ(煩悩)だと説きます。

無知:本質を知らないこと。全てのクレーシャの根源。

自我意識:物質的な自分を、自分だと認識すること。

愛着:渇望を呼ぶような快楽。

嫌悪:過去の苦痛な記憶への反発による嫌悪感。

死への恐怖生に対する執着。

これら5つを取り除くことで、私たちは苦悩を生み出しにくくなります。

クレーシャ(煩悩)を取り除くヨガの実践は、チッタ・シュッディそのものです。

チッタ・シュッディを実践してみよう

目を閉じて座るヨガクラスに参加している女性

それでは、具体的にどのような実践がチッタ・シュッディとして有効なのかを考えていきましょう。

プラーナーヤーマ(調気法)

あらゆるヨガの実践はチッタ・シュッディに適していますが、その中でも効果を感じやすいのはプラーナーヤーマです。プラーナーヤーマでは、自分自身の意識をしっかりと呼吸に結びつけて、呼吸の長さを制御して深い呼吸を行います。

ヨガのプラーナーヤーマでは、吸う呼吸よりも吐く呼吸を必ず長くします。しっかりと自分の内側を空っぽにするイメージを維持しながら練習を行うことで視界が明るくなり、心の不純性が取り除かれた爽快感を感じやすくなります。

ジャパ(マントラ瞑想)

「オーム」といった神聖な音を繰り返し唱えながら、自分の発したマントラの音に意識を集中させる練習です。マントラの清らかな音の波動によって、心の波の不安定さが取り除かれ、穏やかな静けさを感じることができます。

カルマ・ヨガ(行為のヨガ)

日常生活の中でヨガを実践するのが、カルマ・ヨガです。自分の利益のためではない奉仕活動を行います。例えば、同僚より早く出社して机の拭き掃除をする、道端のゴミを拾うなど、誰かに褒めてもらうことや報酬などを目的としない純粋な行動は、自分自身を清めてくれます。

サットヴァな生活を心がける

心は、毎日の習慣によって作られています。特に、自分の内側に取り入れる食べ物や、体の状態からの影響は大きいです。充分な休息で体の状態を整えることやサトヴィック(純質)な食事を摂取することは、チッタ・シュッディの実践でとても大切です。

一般的に健康と言われている食事と、心を穏やかで純粋な状態にしてくれるサトヴィックな食事は違うこともあります。どのような食生活がいいのか学びたい方は、アーユルヴェーダの勉強をしてみるのも良いですね。

口癖を見直す

思考は、言語によって作られています。ネガティブな言葉が口癖になっている人は、それだけで思考がネガティブな状態に満ちてしまいます。まずは、自分が実際に口に出している言葉の癖に気が付きましょう。「でも」「違う」「○○しなさい」「ダメ」「嫌い」といった、言葉が多いなと感じたら、注意が必要ですね。同じ内容を話す時でも、優しい言葉に言い換える練習をしましょう。

また、どんな小さなことにでも「ありがとう」と感謝を伝えることも良いことです。最初は、少し気恥ずかしいかもしれません。「私はもっとやったのに」と思ってしまうことも、あるかもしれません。それでも、感謝することを習慣化することで、自然と自分の思考が変わってくることを感じられます。

情報を制限する

現代社会は、明らかに情報過多です。また、多くの人々の関心を集めるために、あえて不安感や恐怖感、怒りを掻き立てる言葉が溢れています。

SNSを全く使わないことは難しくても、使用時間をしっかり決めるなどの制限は必要でしょう。また、過激な言葉を使っている投稿は、目を止めずにスクロールしていると、徐々にネガティブな情報は自分の見ているSNSには表示されにくくなってきます。

インターネットはネガティブな情報ばかりだと感じている人は、ついついリンクをクリックしていたり、長い時間見てしまっていたりしているのかもしれません。

心が純粋になった状態

山の上から雲や広い景色を見渡す座った女性の後ろ姿

ヨガの練習後に、ただ呼吸をするだけでも幸せだと感じることがありますね。

あらゆる雑念を消し、エゴというフィルターが外れた時には、世界のあらゆる美しさに気がつきやすくなります。

実際にどのような変化を感じられるのか紹介します。

思考が明快になる

心の中に雑念が多く、散らかった状態にある時には、思考が重たく働きが鈍くなっています。

あらゆるノイズを消し、光がとおる透き通った心になることで集中力が増し、直感力も高まります。また、物事が明快に見えている時には、判断力も高くなります。

感情が安定する

嫉妬、妬み、怒りなどの感情に囚われにくくなります。

自分自身にとって大切なことや、自分の軸が見えていることで、外の世界の情報に惑わされにくくなります。

自分への理解が深まる

分厚い色眼鏡を外して自分自身と向き合った時に初めて、自分との対話が叶います。曇った鏡では自分が見えないように、曇った心では自分の本質は見つかりません。

心が純粋になり、静かに座って瞑想をすることで、今まで気がつくことができなかった新しい自分に出会えるはずです。

自分の心の純粋さを意識して生活しよう

チッタ・シュッディ、心の純粋さを高めることは、それだけで幸福に出会えるとても大切な実践です。<心の働きの9割以上は、習慣によって生まれています。不純な心の癖がある人は、最初の数週間はとても難しいと感じるかもしれません。しかし、いったん純粋さの心地よさを理解した心は、明るく幸せな思考を自ら生み出すようになります。

まずは、自分の普段の思考を観察することから始めましょう。自分の内側にある不純な原因を見つけてゆっくり手放していくことで、どんな時でも汚されない本当の自分に出会えるはずです。

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