マハトマ・ガンディーの生きる指針

マハトマ・ガンディーのサティアーグラハ(真理の把持)〜人生の不遇に立ち向かう行動とは〜

インド独立の父と呼ばれているマハトマ・ガンディーが、ヨガと深く関わっていたことは知っていますか。社会活動化として知られていたガンディーは、毎日必ず『バガヴァッド・ギーター』を読んでいました。また、『ヨガ・スートラ』のヤマとニヤマの教えに精通していて、自身の人生に取り入れていました。
そんなガンディーの生き方は、サティアーグラハと呼ばれるスローガンに現れています。ヨガ的な生き方とは何かを考える時に、とても参考になるはずです。

サティアーグラハ(真理の把持)とは

インド独立の父:マハトマ・ガンディー

サティアーグラハは、ガンディーが作った言葉で、サティアとアーグラハを合わせた言葉です。

satya(サティア):真実 āgraha(アーグラハ):固く握る・執着する

サティアは、『ヨガ・スートラ』のヤマの2つ目として知られていますね。
ヤマでは、「正直である」「嘘をつかない」という実践をサティアと呼びますが、サティアの元来の意味は「真実」「実在」です。つまり、サティアーグラハとは、嘘偽りのない真実に自分自身を結びつけるための実践方法です。

ガンディーは、自分自身の人生において徹底的にサティアーグラハの誓いを守りました。また、植民地時代にイギリスから受けた不当な政策に対する抵抗運動の道徳的規範としても、サティアーグラハを広めました。サティアーグラハはアヒムサー(非暴力)を中心においていて、道徳的な理想を実践として徹底的に取り入れた活動でした。

サティアーグラハ:11の理念

ガンディー ヨガ哲学

サティアーグラハには、『ヨガ・スートラ』から取り入れられたものも多いので、ヨガをしている人にとってはとても身近な言葉が多くあります。

アヒムサー(Ahimsa)— 非暴力

まずは、アヒムサー(非暴力)です。ヨガ哲学では最も頻繁に耳にする言葉ですね。
ガンディーは、アヒムサーを自分の活動理念の中心におきました。権力に抵抗する時であっても、他人を攻撃するようなことはしません。正しいと思うことを押し通すためであっても、他者を傷つけるような暴力は間違っていると考えました。
また、何が暴力であり何が非暴力かを自問し続け、自身の生き方の中心にアヒムサーを抱き続けていました。
私たちも、ヨガを学んでいるその瞬間は優しくなれますが、社会の混沌に流されて、自分や他者を傷つけることを言ってしまうことがあると思います。そんな時、立ち止まって自分のアヒムサーに立ち返る、そんな強さが欲しいですね。

サティヤ(Satya)— 真実

サティヤとは、絶えず真実を語ることです。また、自分自身の生き方そのものが真実であることです。私たちの内側には、激しい感情の種も怠けたい気持ちの種も宿っています。自分に対する誓いも無視して、「明日から」と誤魔化したくなるのが人間です。
そんな時に、自分に対してのサティヤ(正直さ)を思い返して、偽りのない生き方をしたいですね。
 

ブラフマチャリヤ(Brahmacharya)— 禁欲(性欲の制御)

欲望を抑え、心と体を清浄に保つことがブラフマチャリヤです。
ガンディーは13歳で結婚し、4人の息子がいますが、『ヨガ・スートラ』を学び、サティアーグラハを唱えるようになってからは、完全な禁欲生活を続けていました。
徹底したブラフマチャリヤは、自身のエネルギーを最大限に活動に注ぐためです。人生をかけてやるべきことがあると誓った時には、自分の全てをそこに捧げることで、より大きな成果を生み出せます。
一つのことだけに集中して、楽しみを放棄することはなかなか難しいことですが、人生で本当に大切なことに向き合わなくてはいけない時には、自分を律することが大切です。

アスヴァダ(Aswada)— 味覚の制御

ヨガでは、食事は身体の健康の維持のために行うべきであり、快楽のためではないと考えます。
食事を楽しみたいと思うのは普通のことですが、過度に快楽を求めるような刺激の強い食事は避けたいですね。自分の身体の喜ぶものを選べるようになるといいですね。

アステーヤ(Asteya)— 盗まない

物質に限らず、他人の時間や権利を奪わないことがアステーヤです。
不当な取引や相手が後悔すると分かっているような契約をしないことも、アステーヤに含まれます。
自分が得をするために、他者を陥れるような生き方はしたくないですね。

アパリグラハ(Aparigraha)— 所有欲を抑える

必要以上の物を所有しないのが、アパリグラハです。
若い時には立派なスーツを着ていたガンディーも、晩年はたった一枚の手織りの布(カディ)だけを体に巻いて活動をしていました。
物欲は、妬みや嫉妬、怒りを生み、人を苦しめます。物質に執着するのではなく、自分にとって本当に大切なものを見失わないようにしたいですね。

シャラリシャラマ(Sharirshrama)— 身体労働

自分の手で労働し、他者に依存しないのがシャラリシャラマです。
現代社会では、野菜を育てたり自分で家具を作ったり、衣服を縫ったりする機会がある人は、少ないと思います。オフィスワークが忙しい人は、料理をする時間もないかもしれません。しかし、自分自身の体を動かして労働することは、とても大切な経験です。野菜を育てることは難しくても、ベランダでハーブを育てたり、味噌を自分で作ってみたりするなど、自分の生活に必要なものを自分自身で手にいれる経験はとても貴重です。
自分のライフスタイルの中でも、身体を使った労働の大切さを忘れない時間を見つけたいですね。

アスプリシャタ(Asprishyata)— 不可触民差別の拒否

カーストによる差別を拒否するのが、アスプリシャタです。インドではダリットと呼ばれる被差別階級の人々がいます。植民地化ではアンタッチャブル(不可触民)と呼ばれ、一部の人からは目にすることさえ穢らわしいと差別されていました。しかし、ガンディーは、彼らをハリジャン(神の子)と呼ぶことで平等に扱おうと試みました。

誰に対しても平等に接することは、『バガヴァッド・ギーター』に書かれた教えです。日本でも見えない差別は沢山あります。職業の貴賤や収入による差別、年齢や性別などでも差別はあります。肩書きや見た目に囚われずに、誰に対しても平等に接することができるようになりたいです。

スワデーシ(Swadeshi)— 国産品の使用

ガンディーは、外国製品を避け、自国産品を使うことを目標にしました。その象徴になったのが、カーディと呼ばれる手紡ぎ布です。輸入品に依存することでは国は自立できないと考えたガンディーは、自分の国で作った製品を使うことが大切だと考えました。弁護士時代には英国製の美しいスーツを着ていましたが、自分で紡いだ糸を織った腰布一枚で活動をするようになりました。

自分の国で作られたものを使うことは、自国を守るだけでなく、自分の住んでいる土地に最適なものを知ることでもあります。特に、食事はその土地の風土、食材、人々の体に合わせて発展したものです。自分の土地の料理を楽しみたいですね。
住居や衣服も、風土やライフスタイルに合わせて発展しました。着物を着る機会はなかなかないかもしれませんが、伝統的な衣服や建築に興味を持つことなどで、自分の国と自分自身への理解を深める良い機会になるでしょう。

アバーヤ(Abhaya)— 恐れない

恐れに支配されない心を養うことが、アバーヤです。
恐怖は、数え切れないほどあります。私たちは誰でも、病気、怪我、死を恐れています。富の喪失、名誉の喪失、愛する人の喪失。愛する人を不快にさせること、上司を不快にさせること、社会を不快にさせることなど…… これらの恐怖の一部を取り除くことができる人もいれば、恐怖を克服することに苦労する人もいます。
真実を理解するにはすべての恐怖を取り除く必要がありますが、それはほとんど不可能です。しかし、自分自身の心に打ち勝つ努力を続けることは大切です。

サルヴァダルマ・サマナタ(Sarvadharma Samabhava)— 全宗教の尊重

ガンディーはすべての宗教に敬意を払い、宗教間の平等を保とうとしました。
いつの時代でも、宗教は争いの原因となります。それは、現代でも同じです。しかし、本来の宗教は、人々がより幸せになるために生まれたもののはずです。
自分と違うグループに属していても、違う考えを持った人がいても、他者のことを尊重できる人になりたいですね。

自分の生き方のテーマを考えてみる

道で瞑想をする女性

今回は、インド独立の父と呼ばれるマハトマ・ガンディーが定めたサティアーグラハを紹介しました。一度決めた誓いを、生涯守り続ける覚悟はすごいですね。

日々なんとなく生きていると、つい忙しさに負けて目の前のことをこなすだけで必死になってしまいます。私たちも、与えられた人生をどのように生きたいのかを考える時間を持てるといいですね。 自分の生き方を定めたら、それが出来ているのかを定期的に見直す時間を作りましょう。軌道修正をしながら、自分が生きたい道を見つけていきたいですね。

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