ヨガマットに安楽座で座る3人の男女

人間関係の悩みとエゴ(アハンカーラ)


日々の生活の中で、もっとも大きな悩みは人間関係ではないでしょうか。
どれだけヨガを続けていても、日常では人間関係で頭を抱えてしまう人は多いはずです。ヨガ哲学には、人間関係に関する直接的なアドヴァイスはあまりありませんが、人間関係の問題を弱めるヒントが含まれています。今回は、人間関係の悩みの中でも特に気を付けたい、エゴとの向き合い方について考えていきましょう。

人間関係の最大の原因、エゴ(アハンカーラ)って何だろう

人間関係の悩みには、エゴが関わってきます。ヨガの言葉では、エゴをアハンカーラ(自我意識)と呼びます。アハンカーラは、「私は○○である」という概念そのものであり、「私」という概念があることによって、「自分以外の他人」という概念も同時に生まれます。「自分と他人は別物」と認識することも、アハンカーラがあるからです。

「私」という概念が生まれることで、様々な思考が生まれてきます。自分と他人は違うからこそ比較し、優越を付けようとします。また、富などを「自分のものにしたい」という所有欲にも繋がります。他にも、「私」のみが強くなることによって防衛本能が強まり、傷つけられたくないという不安や恐怖心も強まっていきます。エゴは強まれば強まるほど、様々な摩擦を生みやすくなってしまいます。

エゴが強まると苦しみが大きくなるしくみ

エゴによって生まれてくる人間関係の苦悩には、どのようなものがあるのか考えてみましょう。自分を大切にしたいという正しい思いも、時に苦しみの原因となります。

1.人の評価を気にしすぎてしまう

いわゆる、自意識が強くなりすぎた状態です。
常に自分が他人からどう見られているのかが気になりすぎていて、人からの評価ばかりが気になってしまいます。常に不安で苦しいだけでなく、批判されないために言動を制限してしまいます。

2.攻撃されていると思い込んでしまう

自意識過剰な時には、他者の発言が「自分に向けられている」と思い込みすぎます。

例えば、パートナーが「毎日忙しい、疲れた」と愚痴を言っただけでも「私が暇だって言いたいの?私も毎日忙しいのよ。」と、まるで自分を攻撃されたように思い込んで、怒りを覚えてしまいます。さらにエスカレートすると、友人とのランチでリーズナブルなお店が選ばれれば「私は安いお店しか行けないと思われている」と傷つき、高いお店が選ばれれば「友人は稼いでいると自慢している」と思い込み、どんな言動にも裏があるのではないかと人間不信になってしまいます。

3.プライドが高くなり、素直になれない

自分自身を守ろうとしすぎるあまり、素直になることができません。
「これを言ったら評価が下がるのではないか」と気にしすぎてしまうのですね。自分に非がある時でさえ、自分が間違ったと認めることが怖くなります。自分の間違いを認めた瞬間に、自分のポジションを失ったり攻撃されたりするのではないかと無意識に怯えてしまい、自己防衛のために人を批判してしまいます。

エゴが強く自分勝手な人は怖がりなのかも?

エゴが強いというと、自己中心的で自分勝手なイメージが強いと思います。
しかし、どうして自己中心的になってしまうのかというと、やはり自己防衛本能が理由であることが多いのです。つまり人を攻撃したいのではなく、自分を守りたいのですね。

自分の意見が正しいと思いたいことも、他者によって自分の間違いを暴かれる可能性を恐れていることが多いです。他者を否定したり、他者から何かを奪ったりしたいわけではなく、自分が安心したいから、周囲のことが見えなくなっていることが多いのではないでしょうか。

自分自身を見直す時はもちろんですが、自分の周囲で自分勝手な人、人の意見を聞かない人と対峙する時にも同じように考えてみましょう。反論をいっさい許さない相手には、「私はあなたの意見も認めるよ」という姿勢を先に見せる必要があります。自分は味方であることを理解してもらうことで、はじめて他人の考えを聞く余裕が相手に生まれます。日頃から沢山の人と戦っている人ほど、その壁が高くなっています。相手の気持ちがこのような状態になっていると分かれば、向き合い方が分かってきそうですね。

エゴを弱めるヨガ的なアプローチ

それでは、ヨガ的な対処法を考えてみましょう。最も大切なことは、自分を俯瞰することです。

観察者(サークシーバーヴァ)の視点を育てよう

ヨガをしていると、「自分を俯瞰する」という言葉をよく聞くと思います。ヨガ哲学的な言葉を使うと、観察者(サークシーバーヴァ)ということができます。

自分について考える時に一人称である「私」が強くなりすぎると、一方的なものの見方しかできなくなってしまいます。視野が狭くなると、ものごとの本質が見えなくなってしまいます。そのためヨガでは、自分を客観的に見ることを継続的に修練します。

例えば、ヨガ・ニドラ―の練習では、幽体離脱した時のように、自分を少し離れたところから観察します。すると、自分が本当はとても安全で守られている状態にあることに気が付けるはずです。

まるで映画の主人公を見ているように、自分のことを観察してみましょう。
自分がどんな時に何を感じているのか、どんな行動の癖があるのか…… そうすると、エゴが強い時には気が付けない自分に出会えます。映画であれば、主人公の周囲の人の気持ちにも気が付けるはずです。自分の行動によって周りに何が起きているのかを冷静に観察することでアハンカーラ(自我意識)が弱まり、本質に気が付きやすくなります。
このように、自分のことを冷静に観察できているもう一人の自分こそが観察者(サークシーバーヴァ)です。

アヒムサー(非暴力)で生きやすい人間関係を築く

他人に対して攻撃的な時は、エゴによって自己防衛本能が強まっている時だとすでに説明しました。それは、「自分が批判されるかも」「自分が傷つけられるかも」という恐怖心から生まれます。自分自身に恐怖心や警戒心、緊張状態がある時には、当然自分の周囲の人も同じように不安を感じます。

それであれば、まずは自分から「傷つけないこと」を実践しましょう。特に気を付けたいのが、言語的な暴力です。自分は相手を否定するつもりはない、相手のことを認めているのだと表現することが大切です。
自分から相手を傷つけない優しい言葉を話すことは、相手を否定するよりも大きな勇気が必要です。「自分の立場が下になるかも」「負けるかも」という不安もあります。しかし、ヨガで自分を俯瞰することを覚え、自分も他人も同様に見ることができれば、そんな不安も消えていきます。
自分からアヒムサーを実践することは、いつか自分にも返ってきます。きっと、今よりも生きやすい環境に変わっていくことを感じられるでしょう。

人間関係の悩みは、自分自身との戦い

人間関係に悩んでいる時には、「上司がこんな不条理なことを言う」「パートナーが私の言葉を聞いてくれない」「姑と価値観が合わない」と、他人のことばかり気にしてしまいがちです。
しかし、それらは全て自分自身との戦いであることに気が付きましょう。

例えば、人と価値観が合わない時には、お互いが自分の考えを絶対に壊したくないと思い、アイデンティティを守るために戦います。しかし、双方が自分の意見しか認めないのであれば、解決するはずはありませんね。
自分の意見と他者の意見の双方を平等にテーブルにあげて、客観的に考えてみましょう。もしかしたら、自分のこだわりを捨てて相手に言い寄った方が幸せになれることもあるでしょう。
しかし、絶対に相手の意見を受け入れることができない時もあります。そんな時には、どちらかが意見を変えるまで話合うべきなのか、それとも関係性自体を見直すべきなのかなどについて、双方が平等に選択できる権利があるべきですね。

自分自身と向き合うことも他者と向き合うことも、とても大きな覚悟が必要で心労が伴います。しかし、いったんいい方向に関係が築ければ、人生の最大の喜びとなります。
人間は誰もが違い、良い部分も悪い部分もあります。完璧ではなく、みんな違うからこそ、面白味があります。そんな人間関係を楽しめるようになりたいですね。

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