ヨガマットのお手入れどうしてる?

ヨガマットを清潔に!どの消毒液がBEST?感染症を防ぐお手入れ方法

前回ご紹介した記事から、日常生活において完全な無菌状態はあり得ず、細菌と私たち人間とは持ちつ持たれつ暮らしている存在であることがわかっていただけたかと思います。ではどうやって感染症を防げば良いのでしょうか?

参考:ヨガマット、清潔にしてる?実は危険?!汚れが感染症を招く

そのために、まずは細菌がどうやって増えていくのかを見てみましょう。

細菌が繁殖する条件

細菌が繁殖するためにはいくつか条件があります。

  1. 酸素の有無
  2. 温度
  3. 水分
  4. pH(酸性度・アルカリ性度の度合い(強さ)を計る単位)

などです。

細菌それぞれに自分たちが心地よいと思う環境があります。酸素を好む菌もいれば酸素を好まない菌もいます。ピロリ菌などのように胃酸に耐える事が出来る菌や、深海の噴火口に生息する細菌もいます。

一般的に、細菌は10~40℃が増殖に適した温度と言われています。pHに関していうと、細菌は中性ー弱酸性、真菌(いわゆるカビ)は5-6の弱酸性で良好に発育します。ちなみに、私たちの皮膚は弱酸性です。

さて、こうした予備知識を踏まえて、ヨガマットからの感染症を防ぐ方法について考えてみましょう。

ヨガマットからの細菌の感染を防ぐためにできること

ヨガマットからの細菌の感染を防ぐためにできることとしては、

  1. ヨガマットを清潔に保つ
  2. 自分の体を清潔に保つ

の2つがあります。

ヨガマットを清潔に保つためにできること

これまで学んで来て皆さんお分かりの通り、ヨガスタジオの床は綺麗に見えても、細菌やウィルスなどが落下しています。(ヨガスタジオに限らず、不特定多数の人が集まる場所とはそういうものです。)

そんな中でヨガマットをどのようにお手入れすることが一番感染症を防ぐのかという問いに対する臨床研究は、残念ながら私が探した限りありませんでした。ヨガマットの掃除の仕方で、乾拭き、水拭きの優劣、そして理想的なお手入れの頻度も文献上は不明です。

常識的に考えて道具を清潔にしておきましょう、ということで特にそれ以上突っ込んで検討していないのだと思います。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)での消毒の推奨や全米アスレチックトレーナー協会の皮膚感染症に対する基本指針表明[1]を参考にすると、一定の基準をクリアした消毒薬であれば、それらのどれを使うかよりも、使用後毎回しっかりと施設や道具をキレイにすることを推奨していることがわかりました。

練習後に手洗いとシャワーをし、タオルなどをシェアしない
練習後に手洗いとシャワーをし、タオルなどをシェアしない

また同じくらい強調されているのが、練習後の手洗いとシャワーの大切さ及び、タオルなどをシェアしないことです。よって、感染予防には下記の3つの視点が大切だと言えます。

  • 手や身体に付着した菌をいかに体内に入れないか
  • 体に付着したままにしないか
  • そしてそれを広めない

オーガニックヨガマット消毒薬と市販の消毒薬との効果検証

2016年にpreliminary(症例数が少なく断定的なことが言えないという意味)ですが、市販の“天然、オーガニック”のヨガマット消毒薬と、市販のフェノール系消毒薬の黄色ブドウ球菌に対する消毒効果に関して検討した文献が一つありました。[2]

結果は天然オーガニック製品の惨敗という悲しいものでした。

天然、オーガニック”のヨガマット消毒薬と、市販のフェノール系消毒薬の黄色ブドウ球菌に対する消毒効果を検証
天然、オーガニック”のヨガマット消毒薬と、市販のフェノール系消毒薬の黄色ブドウ球菌に対する消毒効果を検証

検討された商品の天然成分はレモングラスオイル、西洋シロヤナギエキス(Willowbark extract)、ティーツリーオイルの3つでした。

詳細を書くと、これら3つ共に100%であれば黄色ブドウ球菌に対する増殖抑制効果(簡単に言えば消毒効果のことです)がそれぞれ認められていましたが、ヨガマットに噴霧する程度の濃度では全く効果がありませんでした。オイルヒタヒタにすれば効きます!

以上を踏まえると、理想は使用後にマットを拭くことです。自分のマットを持参しているとしても、です。もし使用後に毎回洗浄出来るのであればその方が尚良いでしょう。

そして市販のヨガマット消毒液に対しては、いわゆる天然成分、オーガニック、アロマなどに関して病院で使用する消毒薬と比較した文献は現状ほとんどないため、これら市販のオーガニックヨガマット消毒薬を使用する場合は、個別にそれらを販売する企業がその“消毒”や“除菌”の根拠として挙げているデータを皆さんが調べてみてください。マットが傷まないのであれば、アルコール消毒が一番簡便でしょう。

まとめ:ヨガマットに対して出来ること

ヨガマットに対して出来ることは、常識の範囲内で清潔に保つ以外に特別そんなにない!というのが今回の調査結果でした。

強いて言えば

  • どこへ行くにも自分のマットを持参し、なるべくシェアしない
  • レンタルしたマットが汚れていたら、ヨガをする前にしっかり汚れを拭き取りましょう
  • ヨガマット専用の天然、オーガニック消毒薬がアルコール等の消毒薬と同等かそれ以上の効果があるかは現状不明。購入時は各自何をもって“除菌”、“消毒”、“殺菌”とメーカーが効果を謳っているのか確認が大切
  • 現実的に現状はエタノール消毒に勝るものはない、ただしマットが痛む可能性があるので自己判断で
  • お手入れで拭くのが面倒な方は、洗えるヨガマットを購入することも検討

私個人的にはウォッシャブルが一番簡便だな、と思いました。では、感染症を防ぐもう1つの方法を見ていきましょう。

自分の体の清潔を保つためにできること

ヨガマットに対しては特別にBESTなお手入れがあるわけではないということがわかりました。感染症を防ぐために、むしろコントロールできるのはこちらです!

細菌、ウィルスはレッスン後の汗ばんだ体に沢山接着しています。

もし、近くに風邪をひいて咳をしている人、まだ発病はしていないけれど何かしらの病原菌を持っている人、レッスン前にトイレに行って手を洗わなかった人!、ぎりぎりまでスマホをいじっていた人などがいたら、その菌もマットにこびりついています。

理想はレッスン直後に(帰宅前に)シャワーを浴びることです。

しかし現実的に、シャワーの設備のあるスタジオの方が少ないですね。時間もないという人も多いはず。最低限、手と足(出来れば)は必ず洗いましょう。ただし、手洗いもささっと洗えばいいというものではありません。

人がよく触るものは汚いと心に留めて

これまでの学びを踏まえると、現実的に一番皆さんが出来る感染対策は、自らの手をしっかりと洗うことになります。

しっかりとした手洗いに関して、厚生労働省が食中毒予防の観点から衛生学的手洗いの方法を画像で提供しています。是非一度ご覧になってください。[3]レッスン後にしっかりと手洗いが出来るといいですね!

人間がよく触るものは汚い、というのは心に留めておく必要があると思います。余談ですが、スマホは公衆トイレと同じくらいの細菌数を抱えている、という研究もあります。[4]

「サウチャ」を実践すべく、心も体も清潔に

消毒に関して、心配すればキリがありません。実際は普段のレッスンで使用するヨガマットに関して、お手入れが行き届ていていなくても基本的に免疫が落ちていない元気な人は、あまり心配ないでしょう。

しかし、あなたに感染はしなくてもあなたに付着した細菌やウイルスが人に広がっていく可能性があります。適切な感染対策はとても大切なことです。

ヨガの八支則にもある、「サウチャ」を実践すべく、心も体も清潔に。レッスンの前後でヨガマットを清潔に扱い、レッスン後にはしっかりと衛生的な手洗いを実践してみてはいかがでしょうか?

これだけは覚えておこう!

  • 自分のマットでもレンタルのマットでもヨガマットは意外に不潔!
  • レッスンの前後でしっかりと汚れを拭き取りましょう!
  • ヨガマットを何でどの程度消毒することが一番有効なのかに関して、はっきりしたことは現状言えない
  • レッスン後は自分の手足もしっかり洗いましょう!(可能であればシャワーを浴びましょう)
  • 通常は細菌感染を過度に心配する必要はありません。しかし、自分の身体を清潔にし、道具を清潔に扱うことはとても大切なことです

参考資料

  1. Zinder SM, Basler RS, Foley J, Scarlata C, Vasily DB. National athletic trainers’ association position statement: skin diseases. J Athl Train. 2010;45(4):411-28.
  2. Johnston, Laura B, et al. “Preliminary Report: Evaluation of the Effectiveness of Essential Oil-based Cleaners Against Staphylococcus Aureus.” Bios, v. 87,.3 pp. 110-116. doi: 10.1893/BIOS-D-13-00037.1
  3. 厚生労働省:衛生学的手洗いの方法
  4. Kõljalg S, Mändar R, Sõber T, Rööp T, Mändar R. High level bacterial contamination of secondary school students’ mobile phones. Germs. 2017;7(2):73-77. doi:10.18683/germs.2017.1111.