枝にとまるシジュウカラのイラスト

『僕には鳥の言葉がわかる』~人間だけが知らなかった動物たちの言葉の世界~

みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。
今回は、動物言語学者である鈴木俊貴さんの『僕には鳥の言葉がわかる』を取り上げたいと思います。
言語能力を持っているのは人間のみで、動物は意味のある言葉を発さないというのが大昔からの常識でした。鈴木さんはその常識をくつがえし、シジュウカラにも言葉があることを発見し、見事に証明してみせて、動物言語学という新しい学問を立ち上げた第一人者なのです。
NHKの『ダーウィンが来た!』や、テレビ朝日の『林修の今知りたいでしょ!』、『徹子の部屋』などでも取り上げられていたので、鈴木さんとシジュウカラ語については、もうご存じの方も多いかもしれません。
私はつい最近『徹子の部屋』で知りました。そして、鈴木さんの本を読んでみたところ、これはヨガとつながっていると感じたので、早速紹介しようと思いました。
今回は、鳥語の世界とヨガのつながりについてみなさんと考えていきたいと思います。

動物観察が大好きな少年時代

木にとまる昆虫を見つめる虫籠を持った少年

著者の鈴木俊貴さんは、幼い頃から動物観察が特別好きだったそうです。

ダンゴムシやバッタ、クワガタ、ヤドカリ、カエル、ドジョウ、ナマズ。いろいろな生き物を捕まえては家に持ち帰り、プラケースや水槽で飼っていたのだ。そして、生き物たちをじっくりと見つめながら、「かれらはどういうふうにこの世界を見ているんだろう?」などと想像するのが好きだった。

鈴木俊貴. 『僕には鳥の言葉がわかる』. TOPPAN株式会社.2025年. p,14

高校生になってお年玉で双眼鏡を買ったことをきっかけに、野鳥観察にもハマっていきます。

野鳥の観察とは、かれらが自然界を生き抜く姿をありのままに見ることなのだ。食べ物を探し、仲間と集まり、子育てをして、時には敵に立ち向かう。野鳥を観察していると、あたかも自分が小鳥になって、かれらの世界へと入っていくような、そんな不思議な感覚があった。

鈴木俊貴. 『僕には鳥の言葉がわかる』. TOPPAN株式会社.2025年. p,15

鳥の研究ができる大学へと進んだ鈴木さんは、鳥の研究者への道を歩んでゆきます。そうして、シジュウカラ語を解明する大発見をすることになるのです。

言語を持つのは人間だけ?

枯れた枝にとまるシジュウカラ

軽井沢の森へと入り、シジュウカラの研究を続けるうちに、シジュウカラの鳴き声にも意味があると思うようになった鈴木さんは、森の中に巣箱をいくつもかけ、シジュウカラの鳴き声の研究を徹底的にしていきます。
そうして、5、6年もたった頃には、シジュウカラの鳴き声は言葉になっているとはっきりと思うようになったと言います。

シジュウカラには言葉がある。研究を始めて五、六年過ぎた頃には、自然とそう思うようになっていた。空にタカが現れたら「ヒヒヒ」と鳴くし、ヘビを見つけたら「ジャージャー」と鳴く。仲間を呼ぶ時は「ヂヂヂヂ」だし、警戒を促す時は「ピーツピ」だ。それぞれ絶対に意味がある。(略)
いつしか僕はシジュウカラ語を手掛かりにタカやヘビを見つけ出すようになっていたし、鳴き声を聞くだけで鳥たちの行動や群れの動きを予想できるようになっていた。
シジュウカラにも言葉がある。これは、僕にとっては当たり前の話であった。

鈴木俊貴. 『僕には鳥の言葉がわかる』.TOPPAN株式会社.2025年. pp,158-159

ところが、大学の図書館で言語学の本を読んでいた時に、「言語を持つのは人間だけだ」と書いてあったのを見て非常に驚いたそうです。慌てて、動物行動学を確立したコンラート・ローレンツ博士の本を開いてみたり、進化論の提唱者であるチャールズ・ダーヴィン博士の本を調べてみたりしたそうですが、どちらの博士も、「言語は人間の固有の性質である」という内容のことを述べていたようなのです。

これは、自分が森で見てきたこととあまりにも違いすぎると感じた鈴木さんは、鳥にも言語があることを証明してみせようと決意し、次々に実験を重ねていきます。
誰も反論できないように、しっかりとした証明をしては論文を書いて、次々に発表していく間に、鈴木さんの研究は、だんだんと世界中から注目されるようになっていきました。

「ヒヒヒ」は、空にタカを見つけた時の声であるということや、「ジャージャー」は、ヘビという意味のシジュウカラ語であるということ。「ピーツピ」は、警戒しろという意味であるということや、「ヂヂヂヂ」は、集まれという意味の言葉であるということなどを証明してみせただけではありません。
なんと、シジュウカラは文まで作るということまで、鈴木さんは突き止めます。シジュウカラは、「ピーツピ」という警戒しろを意味する言葉と、「ヂヂヂヂ」という集まれという意味の鳴き声を組み合わせて、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と鳴くことがあるのだそうです。この「ピーツピ・ヂヂヂヂ」は、警戒して集まれと言う意味になるのだそうですよ。こうして、単語を2つ組み合わせて、文まで作ってしまうなんて驚きですよね。

さらに、鳥たちは人間が腕を使ってジェスチャーをするように、翼を使ってジェスチャーをしていることまで突き止めてしまいました。
鈴木さんはこう書いています。

単語に文、そしてジェスチャー。鳥とヒトの祖先はおよそ三億年前には別々の進化の道を歩み出したと考えられているが、それでも似たようなコミュニケーションが進化していることがわかってきた。“人間だけが言葉を持つ”というのがどれだけ偏った解釈なのかを、シジュウカラたちは教えてくれる。僕たちが動物の研究から学べることは、本当にたくさんあると思う。

鈴木俊貴. 『僕には鳥の言葉がわかる』. TOPPAN株式会社.2025年. pp,230/cite>

人だけが知らない鳥語

柵にとまる2羽のシジュウカラ

鳥語があるなんて、私たち人間は全然知らなかったことですよね。ところが、他の動物たちは、シジュウカラ語をちゃんと理解しているといいます。

例えば、シジュウカラがタカを見つけて「ヒヒヒ」と鳴いたりすると、周りにいたヤマガラやコガラ、リスなんかもあわてて逃げ出していくそうです。シジュウカラ語を、他の鳥たちだけでなく、リスなどの小さな動物たちもちゃんと理解しているのですね。

それだけでなく、ひょっとしたら犬たちも理解しているのではないかと、私はちょっと思っています。というのは、『僕には鳥の言葉がわかる』の本にはQRコードがあり、それを読みこむと鳥たちの鳴き声が聞けるようになっているのですが、私が何気なくスマホで再生してみたところ、我が家の愛犬のココちゃんが、今までグウグウ寝ていたのに、ちょっと目を開いて耳をピクピクさせたのです。

最初に、「ヒヒヒ」という鳴き声を再生しました。これは、タカがいるよという鳴き声なのだそうですが、この声を聞いたとたん、さっきまで眠そうにソファに寝そべっていたココちゃんが目を丸くして、起き上ってきたのです。
そこで、私は次に「ジャージャー」という鳴き声を再生してみました。これは、ヘビを意味する鳴き声なのだそうですが、これを聞くと、ココちゃんはソファから飛びおりて、まっすぐに窓辺に走っていきました。そして、じっと窓の外を見て、私を振り返ったのです。
ココちゃんはもしかしたら、シジュウカラ語がわかったのかも!と私は驚きました。ヘビというシジュウカラ語がわかって、あわててソファから飛び降りて、窓のそばに走っていったのかもしれないという気がすごくしたのです。
さらに、「ヂヂヂヂ」という声を再生しました。これは集まれという意味の鳴き声ですが、この声を聞くと、ココちゃんはクルリと私の方を振り向き、目を丸くしながら走って来て、スマホに鼻を押しつけました。

これは偶然でしょうか? 私はココちゃんが、「ヂヂヂヂ」という鳴き声を聞いて、シジュウカラ語で集まれという意味だということをちゃんと理解して、思わず集まってきたんじゃないかという気がしたのですが、考えすぎでしょうか?

残念ながら、私は鈴木さんのように、ココちゃんもシジュウカラ語を理解していると、実験して証明してみせることはできませんが、犬もシジュウカラ語を理解しているのではないかと、私はそんな気がすごくしました。

鈴木さんは、こう書いています。

数十万年前、僕たちの祖先がまだアフリカで暮らしていた頃は、人間も鳥の言葉を理解していたに違いない。生まれて間もない赤ちゃんを猛禽類や肉食獣から守るためにも、鳥の言葉が役に立ったはずである。
しかし、いつしか人間は自らの持つ「言葉」によって自然と人間を切り分けていった。「動物には言葉がない」、「人間が最も高度な動物だ」、「人間は自然を支配する特別な存在だ」と言葉を並べ、そう思い込んできたのである。
そして、とうとう動物たちの言葉を理解できなくなってしまった。それどころか、自然とのかかわり方も、共生から利用へと変わってしまったのだ。

鈴木俊貴. 『僕には鳥の言葉がわかる』. TOPPAN株式会社.2025年. p,234

人間だけが言葉を持っているという思い込みは、大間違いだったのですね。動物たちにだってきっと言葉はあり、動物同士はそれを理解し合っているのです。動物たちの言葉がわからないのは、人間だけなのかもしれません。そうなると、人間だけが何も知らないということになりますよね。今までの思いこみと、まるきり逆であることがわかります。

思いこみをとっぱらって

ヨガクラスでマットに安楽座で座る女性の後ろ姿

動物には言語がないなんて、完全に思い込みです。ヨガでは、そういった思い込みや固定観念といった縛りは、すぐさま捨て去るべきだと教えられます。私たち人間は、実にたくさんの思い込みや固定観念で、ガチガチに縛られて生きているわけですが、少しでも多くの縛りを捨て去り、自由になることこそが、ヨガで最も重要なことだと言われているのです。

それは研究者でも同じだと、鈴木さんは書いています。動物には言語がないなんて思いこんでいたら、シジュウカラ語の発見はできなかったことでしょう。鈴木さんは、自分の尊敬する博士たちが、動物には言語がないと言っているからといって、それを信じませんでした。それよりも、自分が森で観察してきたことを信じたのです。

ヨガでは、どんなに偉い先生にこうだと教えられたとしても、それをそのまま信じてはいけないと教えられます。自分で見、自分で考えたことのみが正しい知識といえるのだというのです。

鈴木さんはまさしく、自分が森で歩き、自分が鳥を観察し、自分が考えて実験したことだけを正しい知識として信じました。偉い先生たちが、動物は言語を持たないのだと言っているからといって、それを鵜呑みにはしませんでした。
そうした点で、鈴木さんは優れた研究者であると同時に、十分にヨギーであるということも言えるのではないかと私は思うのですが、みなさんはいかがでしょうか。

鈴木さんは、本の中でこう書いています。

古代ギリシャ時代から現代まで、言葉を持つのは人間だけだと決めつけられてきた。そして、今日の人間と自然の乖離(かいり)が生まれた。
しかし、シジュウカラたちは、それが間違いであることを教えてくれた。人間には人間の言葉があるように、鳥には鳥の言葉がある。人間の言葉は動物の言葉の一つにすぎないのだ。現代人のほとんどは正しく自然を見る目を失ってしまったが、鳥たちは他の種類の動物の言葉まできちんと理解し、生きている。
僕は信じている。鳥たちの言葉の世界を知ることで、僕たちの毎日はもっと豊かで色鮮やかなものになるはずだ。

鈴木俊貴. 『僕には鳥の言葉がわかる』. TOPPAN株式会社.2025年. p,11

この本を読むと、窓の外を見て外に出かけ、鳥たちを探してみたくなります。そして、シジュウカラ語に耳を傾けたくなるのです。
みなさんもぜひ、鈴木さんの本を読んで、鳥語の世界をのぞいてみて下さいね。きっと、鳥の言葉を探しに外に出かけたくなると思います。

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