みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。
今回は、イギリスの児童文学作家ノエル・ストレトフィールドの『バレエシューズ』を取り上げたいと思います。
舞台芸術学校に入学し、舞台に立って家計を助けることができるようにと奮闘する三姉妹が主人公であるこの物語は、カーネギー賞の候補になったほど、イギリスでは非常に有名な作品です。1991年にはアメリカ議会図書館賞を受賞したほか、何度もラジオやテレビでドラマ化されました。著者のストレトフィールド自身が朗読したラジオドラマもあったそうですよ。ストレトフィールドが舞台女優だったということもあって、非常に聞きごたえがあったそうです。
そんなイギリスの人気作とヨガは、どのようにつながっていくのでしょうか。みなさんと考えていきたいと思います。
舞台女優だったストレトフィールド

著者のノエル・ストレトフィールドは、1895年にイングランドのサセックス州で生まれます。彼女は王立演劇芸術アカデミーで学んだこともあり、舞台女優として活躍していました。1920年代には、ロンドンのツアー劇団で働いていたそうですよ。
そんな舞台女優としての経験が、『バレエジュース』にとても活かされています。主人公の三姉妹のうち、長女のポーリィンは舞台女優を目指します。舞台に立つポーリィンの葛藤や間違い、細かい気づきや学びなどが非常にリアルで、細部に至るまで真実味にあふれており、それがまた、この物語を読み応えのあるものにしてくれているのです。
長女のポーリィンだけでなく、三姉妹それぞれが非常に個性的で魅力があることもまた、この物語が人を惹きつける要因になっていると思います。
さて、そんな三姉妹の物語を、そろそろ見ていくことにいたしましょう。
大伯父ガムに拾われたフォシル(化石)たち

物語の舞台は、1920年から1930年代半ばのロンドンです。ちょうど、ストレトフィールド自身が舞台女優としてロンドンで活躍していた時代ですね。
主人公は、ポーリィン、ペトローヴァ、ポゥジーという三姉妹。この三姉妹にとって、伝説ともいうべき存在が大伯父ガムなのでした。
ガム(GUM)とは、大伯父マシュー(Great Uncle Matthew)の頭文字をくっつけたニックネームでした。ガムは、三姉妹にとっては伝説めいた人物でした。三人がまだ物心のつかないうちに船旅に出たまま帰ってこなかったので、だれもガムのことをよく覚えていなかったからです。しかし三姉妹の人生において、ガムほど重要な人物はいませんでした。
ノエル・ストレトフィールド. 訳 朽木祥. 『バレエシューズ』. 福音館書店. 2019. p,8
ガムは、世界でも有数の素晴らしい化石をコレクションしている人物でした。ガム自身は化石収集のために常に世界を飛び回っているので家はいらないのですが、化石コレクションを保管しておくための家が必要でした。そこでロンドンに大きな家を買い、化石とその家の管理をガムの親戚の16歳の少女シルヴィアとその乳母のナナに任せたのです。
そんなある日、ガムは難破船から奇跡的に助かった女の子の赤ん坊に出会います。しかし、いくら探しても、その赤ん坊には身寄りがなかったため、ガムはロンドンの家に連れ帰り、ナナとシルヴィアに世話を任せることにしました。
ガムが、まるで珍しい化石を持って帰るような気軽さで赤ん坊を連れ帰ってしまったので、ナナとシルヴィアは困ってしまいます。ナナは怒って、ガムに食ってかかります。
「なんとまあ、先生。次は、なにをお持ち帰りになるか、見当もつきませんですよ。赤ちゃんの世話をする暇なんか、このうちのだれにあると?」
ノエル・ストレトフィールド. 訳 朽木祥. 『バレエシューズ』. 福音館書店. 2019. p,14
何の関係もない赤の他人の赤ん坊なのですから、孤児院に入れたっていいようなものでしょう。けれども、ナナとシルヴィアはそうはせず、この赤ちゃんにポーリィンと名前をつけ、大切に育てます。
ガムは性懲りもなく、さらに赤ん坊を2人も連れて帰ってきました。1人は、病気で亡くなったロシア人夫婦の赤ちゃん。もう1人は、貧しくて若いダンサーの赤ちゃんです。どちらも身寄りがない赤ちゃんだったので、ガムが引き取ったのでした。
2人目のロシア人の赤ん坊はペトローヴァ、3人目のダンサーの赤ん坊はポゥジーと名付けられ、これまた、ナナとシルヴィアが育てることになりました。
ところが、困ったことに引き取った当の本人であるガムは、3人目のポゥジーを連れ帰ったのち長旅に出てしまい、行方をくらませてしまったのです。銀行に5年分の生活費を入れておいてくれたものの、ガムは5年たっても行方をくらませたまま帰ってきませんでした。そこで、ナナとシルヴィアは、生活費を切り詰めながら、3人の子どもを育てることになったのです。
血のつながりのないファミリー

よく考えてみたら、ナナとシルヴィアには、三姉妹を育てる義務は全くありませんよね。親戚というわけでもなく、赤の他人なんですし、自分が積極的に引き取ったわけでもありません。引き取った当の本人であるガムが行方をくらませてしまって、生活費も足りないわけですから、三姉妹を孤児院に入れてしまったって仕方がない状況であったのではないかと思います。
けれども、ナナにもシルヴィアにも、三姉妹を手放そうなんて考えは微塵もありません。それどころか、我が子同然に可愛がって愛情たっぷりに育てます。
赤の他人である子どもたちの幸せを、自分の幸せよりも優先して行動するナナとシルヴィアには、どんなヨギーだって一目置くのではないでしょうか。
相手の幸せを思って行動するということは、ヨガの心そのものだと私は思います。
ヨガでは、私と相手の間に区別をつけません。というのは、私とあなたは見た目や身分、性別や職業などのいろいろな違いはありますが、そんな違いは上っ面の違いであり、芯の部分は同じプルシャであると、ヨガでは考えられているからです。
人類全て……それどころか、地球上の生きとし生きるもの全ては同じプルシャなのだから、私とあなたの間には何の違いもないというのが、ヨガの考え方なのですね。
ですから、ヨガでは、血のつながりなんて重要ではないのです。たとえ血のつながっていない赤の他人だとしても、無関係ではありません。なぜなら、その相手もまた、自分と同じプルシャなのですから。だから、相手を喜ばせるために行動することは、自分を喜ばせることにつながるとヨガでは教えられます。
……と小難しいことを言わなくても、相手に喜んでもらったら、自分も嬉しくなるっていうことは、普通によくあることですよね。相手が喜んでいる様子を見て、自分もとても嬉しくなる……それこそは、ヨガの心そのものなのです。
ナナとシルヴィアは、血のつながりなんて問題にせず、3人の女の子たちに愛情をたっぷりかけて育てました。お金のない中で、赤の他人である3人の女の子を育てる苦労は並大抵のものではないことは読んでいたらよくわかりますが、それ以上の幸せを三姉妹から受け取っていることも、またよくわかります。三姉妹の幸せは、ナナとシルヴィアの幸せにもつながっているのです。
さらに、ナナとシルヴィアは生活費の足しにするために、化石を整理して、下宿人を置くことに決めます。その下宿人たちも、ナナとシルヴィアが赤の他人である三姉妹を大事に育てているのを見て、協力を申し出てくれます。
例えば、学校の先生だったジェイクス夫婦は、無償で三姉妹の教育を引き受けてくれました。
また児童ダンス演劇アカデミーでダンスを教えているセオ・デインさんは、三姉妹のダンスの教育のために骨を折ってくれました。セオさんは、アカデミーの校長先生に、三姉妹の事情を話し、三姉妹が授業料なしでアカデミーのレッスンを受けられるように計らってくれたのです。さらに、コックやメイドのクララといった、この家で働く人たちもまた、三姉妹を可愛く思い、三姉妹のためにあれこれと親切に心を砕きます。
ナナとシルヴィア、下宿人の人たち、コックやメイドは誰一人として血はつながっていないのに、三姉妹を中心に温かい結びつきが生まれます。三姉妹の長女ポーリィンがオーディションに着ていく綺麗な服がないと言ってはみんなで頭を悩ませて知恵をしぼり、姉妹たちが舞台の本番前に緊張しているのを見ると、あの手この手で励まします。
こうして、ナナやシルヴィアだけでなく、下宿人やコックやメイドにとってもまた、三姉妹の活躍が、自分たちの楽しみになっていきました。三姉妹の幸せが、それぞれの幸せにつながっていったのです。
生い立ちに縛られない

三姉妹を引き取っているシルヴィアは、ブラウンという苗字です。学校にも三姉妹の苗字はブラウンとして登録されていたのですが、長女であるポーリィンは、それはおかしいと言い出します。
「ガーニィ、(シルヴィアのこと)あたしのほんとうの、正式な名字はなんなの?」
と、ポーリィンがたずねました。
「学校ではブラウンだって言われたんだけど、あたしはね、ちがうって言った。だってナナがいつも言ってるでしょ。ガーニィとあたしたちは親戚じゃないって」ノエル・ストレトフィールド. 訳 朽木祥. 『バレエシューズ』. 福音館書店. 2019. p,26
ブラウンっていうのは、あたしたちの本当の名字じゃないとポーリィンは強く言いますが、残念ながら身寄りのない三姉妹には、正式な名字はありません。すると、三姉妹は、自分たちで名字をつけたいと言い出しました。
そして、大伯父ガムが、三姉妹がまだ赤ん坊の頃にたった一度だけ手紙を寄こしてくれた時に「フォシル(化石)たちへ」と書いてあったのを思い出し、三姉妹は自分たちの名字はフォシルにしようと決めてしまいます。
三姉妹は、シルヴィアの養子ということになっているのですから、ブラウンと名乗るのが普通なのかもしれません。けれども、そうではなくて、身寄りがないからこそ自分たちで新しい名字をつけたいと言い出した三姉妹は、常識に縛られていない考え方をしていますよね。
ヨガでは、縛られていない考え方をすることがとても大切だと言われていますから、縛られていない考え方ができた三姉妹は、ヨガ的に考えてもとても素晴らしかったと言うことができるでしょう。
下宿人であり、三姉妹の家庭教師でもあるジェイクス先生も、三姉妹の名字のことを素晴らしいと褒めてくれます。
そんないきさつでフォシルと名乗ることになったり、思いもかけないめぐり合わせで姉妹ができたりなんて、胸のおどるようなことだわ。三人で、フォシルという名前を重要で意義のあるものにできるかもしれませんよ。それに、もしそうできたなら、ぜんぶ、自分たちの手柄になるのよ。だけど、たとえば、わたしがジェイクスという名を上げたとしても、世の人々は、祖父譲りだとか、おかげだとか言うでしょうからね。
ノエル・ストレトフィールド. 訳 朽木祥. 『バレエシューズ』. 福音館書店. 2019. p,51
身寄りがなく、名字もない三姉妹のことをかわいそうだと同情するどころか、先生はとてもうらやましがったのです。先生もまた、ありきたりの名字の観念に縛られていない自由な発想の持ち主だということができるでしょう。
日本でも選択的夫婦別姓制度の問題などが、今、話題ですよね。家族を作っていくにあたって、同じ名字だとか、血がつながっているとか、そんなことは全く関係ないということが、この『バレエシューズ』を読んでいると、とてもよくわかります。
赤の他人同士でありながらも、ナナとシルヴィア、下宿人の人たちや、コックやメイドたちは、三姉妹を中心に家族のような温かな関係でしっかりと結ばれています。その中で、三姉妹は見事に成長していき、舞台女優として開花した長女のポーリィンは、ナナとシルヴィア、そして妹たちを助けるために、懸命に舞台でお金を稼ぎます。
自分のために貯金をしなくてはというシルヴィアの反対を押し切って、みんなを助けるために自分のお金を惜しみなく使うポーリィンは、周りの大人たちの良い影響をしっかりと受けて、周りの人を自然に助けることのできる人に成長していっていることが読んでいてよくわかります。
時代も国も違う三姉妹でありながら、三姉妹のそれぞれがとても個性的にかつリアリティーたっぷりに描かれているので、まるで自分の身近な友達のように感じてしまいます。周りの大人たちに見守られながら、三姉妹がどんな風に個性的に成長していくのか。そして、様々な葛藤や、挫折を乗り越えながら、どう花開いていくのか。それはぜひ、本で読んでみて下さい。きっと読み出したら、三姉妹が大好きになってしまうと思いますよ。
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