みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。
前回、アーノルド・ローベルの『ぼくのおじさん』を紹介いたしましたが、今回も引き続きアーノルド・ローベルの作品を紹介したいと思います。というのは、ローベルの中でも一番大好きな絵本を、まだこちらのコラムで紹介していないからです。
みなさん、ローベルの『ふくろうくん』をご存じですか?私は『ふくろうくん』が、子どもの頃から大、大、大、大、大好きで、大人になった今でも、ものすっごく好きなんです。
ですから、今回は、私の大好きな『ふくろうくん』を取り上げてみたいと思います。
絵本作家の妻と共に

『ふくろうくん』は、1975年に出版されました。ローベルは、1973年に『がまくんとかえるくん』シリーズのうちの1冊である『ふたりはいっしょ』で、ニューベリー賞を受賞していますから、おそらく、絵本作家として軌道に乗った時期に発表された作品なのでしょう。
アーノルド・ローベルは、ニューベリー賞を受賞するくらい有名な絵本作家ですが、奥さんのアニタ・ローベルも、著名な絵本作家だったようです。二人はお互いに刺激し合いながら、絵本の創作に励んでいたそうですよ。家庭の中でも、絵本と創作は、とても身近だったのだろうと想像できますよね。
さて、そんなローベルの『ふくろうくん』をみなさんと見ていきたいと思います。
登場人物は、ふくろうくんだけ!

『ふくろうくん』の登場人物は、ふくろうくん1羽だけです。ほかには、誰も出て来ません。
じゃあ、ふくろうくんは一人ぼっちでとても寂しいのかといえば、とんでもない!ふくろうくんは1羽だけですが、いつもとてもいそがしそうに暮らしています。
例えば、冬の雪嵐の夜。玄関ドアを、誰かがドンドンと叩いているような音がします。ふくろうくんはドアを開けて外をのぞいてみるのですが、誰もいません。雪と風が吹き巻いているばかりです。
ふくろうくんは、雪と風が吹き巻くばかりの外を見ながらこう考えます。
「ははあ かわいそうな ふゆが
ぼくんちの げんかん
たたいてたんだな。
きっと だんろの そばに
すわりたいんだよ。
じゃあ いいよ、ふゆを
いれて あげようっと」アーノルド・ローベル. 訳 三木卓. 『ふくろうくん』. 文化出版局. 2011. p,8
ふくろうくんは、玄関ドアを大きく開いて、冬にとても親切に、家に入るように呼びかけます。ところが、そのとたん、大変なことになりました!
ふゆが はいって きました。
すごい いきおいでした。
つめたい かぜが
ふくろうを ふきとばして
かべに ぶっつけました。
ふゆが あばれまわりました。
だんろの ひを
ふきけして しまいました。アーノルド・ローベル. 訳 三木卓. 『ふくろうくん』. 文化出版局. 2011. pp,10-11
雪はふくろうくんの家じゅうに降りそそぎ、家はめちゃくちゃになりました。雪の下敷きになったふくろうくんは、怒ってどなります。
「ふゆくん でていっておくれ!」
と、ふくろうは
おおきな こえで いいました。
「いま すぐ でていっておくれ!」
かぜは あばれまわりました。
それから、ふゆは げんかんの ドアを
ぴしゃんと しめて
でていって しまいました。
「さよならあ」
と、ふくろうは
おおごえで いいました。
「にどと もどってくるなよー!」アーノルド・ローベル. 訳 三木卓. 『ふくろうくん』. 文化出版局. 2011. pp,14-15
自分が冬を中に入れてしまったからこんな騒ぎになったのですが、ふくろうくんったら、いつもこうやっておかしなことばかりしているんです。
例えば、夜、ベッドに入ったふくろうくんは、毛布の下に、2つのこんもりとしたものを見つけます。2つのこんもりとしたものとは、自分の足だったのですが、ふくろうくんは、そのこんもりの正体が、自分の足だとはわかりません。こんもりの正体を知ろうと躍起になって、大騒ぎをやらかします。
ある時は、こんなこともありました。
ふくろうくんは、2階建ての家に住んでいるのですが、1階と2階に同時にいることができないのはどうしてなんだろうと不思議がります。何とかして、1階と2階に同時にいる方法があるはずだぞ、なんておかしなことを考えたふくろうくんは、階段をものすごいスピードで、ビュンビュン走りまくります。うんと速く走ったら、1階と2階に同時にいることができるのではないかと…… ふくろうくんは、そんなことを考えて、一晩中、階段を駆けまわったりするのです。そんなことできるわけないのにね!
もう本当に、ふくろうくんのやることったら、笑っちゃうことばかりです!
サットヴァのかたまり

前回、子どものように純粋な心であることをヨガではサットヴァというと書きましたが、ふくろうくんこそが、サットヴァのかたまりのようだといってしまっても良いと思います。
子どもって好奇心旺盛ですよね。ふくろうくんも好奇心でいっぱいです。世界が面白くて仕方がないのです。
サットヴァの心の持ち主は、常識に全く縛られていません。ヨガでは、縛られない自由な心でいることが何よりも大切だと言われますが、サットヴァのかたまりであるふくろうくんは、常識なんかには全然縛られていません。
大人の私たちだったら、雪嵐の夜に、玄関ドアからドンドンと音が聞こえてきたら、嵐だからドアが揺れているんだなとしか思いませんよね。ところが、ふくろうくんは、「冬がぼくの家に入りたがっているんだな」という新発想をし、冬を中に入れてしまって大騒ぎになってしまうわけです。
あるいは、毛布の下にこんもりとした山を見つけることがあったとしても、それは、自分の足なのだと、大人だったらすぐにわかりますよね。ところが、ふくろうくんは、そうは思いません。2つのこんもりは、とても謎めいた、ちょっとブキミなものとしてみなすのです。だから、こんもりの正体を暴こうとして、大騒ぎを引き起こしてしまうんですね。
ふくろうくんは、常識なんかには縛られていない自由な心の持ち主なので、世界が面白くてたまりません。次から次に面白いことを発見するので、いつも忙しくてたまらないのです。
ふくろうくんは、世界を全力で面白がっているので、一人でいてもちっとも寂しくありません。過去を顧みるわけでもなく、未来を心配するわけでもなく、今、この瞬間をめいっぱい面白がって生きています。
世界ってこんなに面白いんだということを、新鮮なサットヴァな目で知るということは、ヨギーにとっても、私たちにとっても、とても大切なことではないでしょうか。
『ふくろうくん』を読んだら、ローベルの縛られていない自由な世界の見方を、誰でも楽しむことができます。ローベルの絵本はどれも、とにかく絵が温かくて素敵なんです。
みなさんには、ぜひ、実際の絵本を手に取って楽しんでいただきたいと思います。


