みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。
今回は、長田弘の『世界はうつくしいと』を取り上げたいと思います。
実は私も、ついこの間までこの詩のことを知らなかったのですが、朝日新聞の「折々のことば」というコラムで、鷲田清一氏がこの詩集の中の詩を一行、引用しているのをたまたま見たのです。
素晴らしいものは、誰のものでもないものだ
「折々のことば」, 朝日新聞, 朝刊, 2025年10月17日
これを見てとても素晴らしい言葉だと私は思い、もっとこの詩を読みたいと『世界はうつくしいと』の詩集を手に取ってみました。読んでいると、心にきれいな風が静かに吹き抜けていくような、とても素敵な詩集でした。そして、ヨガと深くつながっていたのです。
というわけで今回は、長田弘の『世界はうつくしいと』とヨガのつながりを、みなさんと考えていきたいと思います。
ありふれた日常に美しさを見る詩人、長田弘

著者の長田弘は、1939年に福島県で生まれました。早稲田大学在学中に、詩誌『鳥』を創刊し、『現代詩』、『詩と批評』、『第七次早稲田医学』などの編集に加わります。
大学卒業後は、出版社の編集者を務めます。その傍ら詩作は続け、1965年に『われら新鮮な旅人』でデビュー。
その後は、児童向けの詩『深呼吸の必要』や『心の中にもっている問題』などで路傍の石文学賞を、『幸いなるかな本を読む人』で詩歌文学館賞、『奇跡 ―ミラクルー』で毎日芸術賞、『記憶のつくり方』で桑原武夫学芸賞など、数々の賞を受賞するだけでなく、絵本やエッセイの分野でも活躍しました。
ありふれた日常に美しさを見る長田弘の詩人としての眼差しを感じる『世界はうつくしいと』では、三好達治賞を受賞しました。
なくてはならないもの

では、早速『世界はうつくしいと』に収められている詩をいくつか見ていきたいと思います。
これから紹介する「なくてはならないもの」という詩の1行が、「折々のことば」で取り上げられました。
「なくてはならないもの」
なくてはならないものの話をしよう。
なくてはならないものなんてない。
いつもずっと、そう思ってきた。
所有できるものはいつか失われる。
なくてはならないものは、けっして
所有することのできないものだけなのだと。
日々の悦びをつくるのは、所有ではない。
草。水。土。雨。日の光。猫。
石。蛙。ユリ。空の青さ。道の遠く。
何一つ、わたしのものはない。
空気の澄みきった日の、午後の静けさ。
川面の輝き。葉の繁り。樹形。
夕方の雲。鳥の影。夕星の瞬き。
特別なものなんてない。大切にしたい
(ありふれた)ものがあるだけだ。
素晴らしいものは、誰のものでもないものだ。
真夜中を過ぎて、昨日の続きの本を読む。
「風と砂塵のほかは、何も残らない」
砂漠の歴史の書には、そう記されている。
「すべて人の子はただ死ぬためにのみ
この世に生まれる。
人はこちらの扉から入って、
あちらの扉から出てゆく。
人の呼吸の数は運命によって数えられている」
この世に在ることは、切ないのだ。
そうであればこそ、戦争を求めるものは、
なによりも日々の穏やかさを恐れる。
平和とは(平凡きわまりない)一日のことだ。
本を閉じて、目を瞑る。
おやすみなさい。すると、
暗闇が音のない音楽のようにやってくる。長田弘. 『世界はうつくしいと』. みすず書房.2025年. pp,12-14
どんなに素晴らしいものを手にしていたとしても、いつか、それらはなくなります。立派なお屋敷に住み、たくさんの豪華な素晴らしい家具などをそろえたとしても、もし、大地震が起きてしまったら、それらは一瞬のうちに崩れます。財産も、仕事も、何一つ、確定的なものはありません。どんなものだっていつかは壊れてしまうもの、あるいは失くしてしまうもの、消えてしまうものなのです。
ですが、本当に悦びをもたらしてくれるものは、そうしたものではないと詩人は言うわけですね。なくてはならないものは、今、ここにある自然の美しさ……。それは、例えば、草や土、雨や日の光といったものだと語るわけです。
草や土、雨や日の光は、お金持ちの方だって、お金のない方だって、誰だって楽しめるものです。目を開き、外に出さえすれば、そこにあります。空はいつだって広がっています。誰の上にも、いつだって。
どんな人だって、その美しさに気がつく眼差しさえ持っていれば、楽しめます。だから、大切なことはきっと、今自分のまわりにある美しさに気がつく眼差しを持てるかどうか、ということなのですね。
今まさに、自分のまわりにある美しいものを楽しむ心……ヨガでは、そのことをサントーシャと言いますが、この詩はサントーシャの悦びを歌っている詩だと言えるのではないでしょうか。
「グレン・グールドの9分32秒」

どの詩も素晴らしいので、順番に紹介していきたいところですが、際限がなくなってしまうので、この詩集の最後に収められている詩を紹介したいと思います。
「グレン・グールドの9分32秒」
白と黒の鍵盤で縁どられた
31センチ四方の紙のジャケットから
黒いLPレコードをとりだして、
魂をとりだしてそこに置くように
小さなプレイヤーのターンテーブルの上に置く。
グレン・グールド自身がピアノの曲にした
ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
第一幕への前奏曲。その曲だけは、
いまでも、レコードで聴く。
最後の一枚です、と手書きで添え書きされて、
いまはないレコードショップの棚に、
棚仕舞いの日まで置かれていたレコードだった。
針がレコードに落ちるまでの、
ほんの一瞬の、途方もなく永い時間。
ワーグナーのおそろしく濃密なポリフォニーから
すばらしく楽しい対位法を描きだして、
響きあうピアノのことばにして、
グールドが遺した
9分32秒の小さな永遠。
芸術は完成を目的とするものではないと思う。
微塵のように飛び散って、
きらめきのように
沈黙を充たすものだと思う。
あらゆる時間は過ぎ去るけれども、
グールドの9分32秒は過ぎ去らない。
聴くたびに、いま初めて聴く曲のように聴く。
いつもチョウチョロム(初めてのように)という
韓国のソジュ(焼酎)を啜りながら、聴く。
一日をきれいに生きられたらいいのだ。
人生は、音楽の時間のようだと思う。長田弘. 『世界はうつくしいと』. みすず書房.2025年. pp,92-94
ヨガでは、変わらないものは何一つないと言われています。全てのものは変わっていくのだと。人は生まれ、老い、そして死んでいきます。花もつぼみが膨らみ、開き、そしてしぼんで枯れていきます。木も葉を芽吹かせ、花を咲かせ、実をつけ、やがて全ては落ちて枯れていきます。
何もかもがそうなのです。この地球だっていつか、どこかの宇宙で生まれました。そして、遠い未来かもしれませんが、私たちの生きているこの地球でさえ、いつか、砕けて塵となるのです。何ひとつ、永遠のものなんてありません。時は刻一刻と過ぎていき、全てのものは1秒ごとに少しずつ変わっていきます。
けれども、グールドの9分32秒だけは過ぎ去らない……と、詩人は言います。それは、言葉にはできないし、とらえどころのないものだけど、でも確かにきらめくような何かを残す永遠のものなのです。ヨギーは、それをプルシャと呼びます。
音楽家はその永遠を何とかとらえたいと作曲をするし、詩人はその永遠を言葉にしようと詩を綴ります。そして、ヨギーは、その永遠を求めてヨガをするのです。
イライラしている時や、毎日の忙しさに忙殺されているような時は、草や土、雨や日の光の素晴らしさに気がつくことはなかなかできないかもしれません。また9分32秒のグールドの曲をゆっくりと聴く心のゆとりを持つことだって、なかなか難しいでしょう。
けれども、この詩集を開いて詩の1つ1つに目を通した時、読者は、自分の周りにある、ありふれているけれども素晴らしいものにハッと気がつき、窓から空を見上げてみるかもしれません。そうした美しいものに心が満たされるその先に、プルシャと呼べる永遠を感じる瞬間はあるのかもしれないと、私はそんな風に思います。
ストレスがたまっている時こそ、この詩集を開いて、深呼吸をするような気持ちで1つ1つ丁寧に読んでみて下さい。ドアを開き、外に出かけたくなるのではと思います。
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