みなさん、こんにちは。丘紫真璃です。
今回は、アメリカの名作家マーク・トウェインの代表作『トム・ソーヤーの冒険』を取り上げたいと思います。
マーク・トウェインの作品は、以前、このコラムで2つほど取り上げましたが、何と言っても日本で1番有名な物語は、『トム・ソーヤーの冒険』でしょう。この本を読んだことがない方でも、トム・ソーヤーがとんでもないいたずらっ子の男の子の名前だということは知っているのではないでしょうか。
1870年に出版された本ですが、トム・ソーヤーは、ページからはじけ飛びそうなほど活き活きとした少年で、その魅力は時代を超えても少しも衰えません。そんないたずらっ子のトム・ソーヤーと、ヨガの関係を考えていきたいと思います。
少年時代の思い出を閉じ込めた名作

著者のマーク・トウェインの本名は、サミュエル・ラングホーン・クレメンズというそうです。1835年に、アメリカのミズーリ州フロリダで生まれました。
マーク・トウェインが4才の時に、ミシシッピ川沿いにあるハンニバルという人口500人ほどの村に一家で移り住みます。ここが、『トム・ソーヤーの冒険』の舞台となりました。
登場人物は、少年時代のマーク・トウェインの周りの人々がモデルになっています。主人公のトム・ソーヤーは、マーク・トウェインの友人3人を合体させた人物で、弟のシッドは、マーク・トウェインの弟がモデルになりました。育ての親である伯母のポリーおばさんは、マーク・トウェインの母がモデルになったそうですし、トムが好きになる少女ベッキーは、マーク・トウェインが実際に好きだったローラという少女がモデルになっているそうです。そして、トムの悪友である浮浪児のハックは、マーク・トウェインがよく一緒に遊んでいた浮浪児のトム・ブランケンシップがモデルになっているそうですよ。
マーク・トウェインは、少年時代の楽しかった思い出を全て、この『トム・ソーヤーの冒険』の中に封じ込めたのですね。それが時代を超えて、私たちを楽しませてくれるなんて、本当に素晴らしいと思います。
いたずらの天才、トム・ソーヤー

先程から何度も書いている通り、主人公のトム・ソーヤーは1日中いたずらばかりしている少年です。戸棚のジャムをぬすんで、そのことを育ての親であるポリーおばさんに叱られそうになったら、おばさんをうまくだまして逃げ出し、そのまま学校をさぼって川に泳ぎに行ってしまうという始末です。おまけに、模範少年らしいよそゆきを着て気取りかえっている少年に喧嘩をふっかけて喧嘩をしまくり、服をボロボロにしてしまいます。
ポリーおばさんは、トムの目にあまるいたずらに堪忍袋の緒を切らし、学校が休みの土曜日の朝、罰として、表通りの塀のしっくい塗りをするように言いつけます。
トムは、しっくいを入れたバケツと柄の長いブラシをもって、歩道に姿をあらわした。そして、ざっと塀を見わたしたとたん、すべての喜びは消えてなくなり、心は、ふかい憂鬱にとざされた。なんと、板塀の長さは30ヤード(1ヤードは約90㎝)、高さは9フィート(1フィートは約30㎝)。彼にとって、人生はうつろであり、生きることは重荷にすぎないように思えた。
マーク・トウェイン. 訳 大塚勇三. 『トム・ソーヤーの冒険』. 福音館書店. 2013. p,29
がっくりしながら、塀のしっくい塗りを始めるトムですが、根気はほとんど続きません。
今日やろうと思っていた遊びのことを考えだすと、トムはますます悲しくなった。まもなく、自由な身の少年たちが、足どりかるく、ありとあらゆるたのしい遊びをやりにでかけてくるだろうし、その連中は、働かされている自分を見て、さんざんからかうことだろう。……そう思うと、トムは、火であぶられるみたいに、かーっとなった。
マーク・トウェイン. 訳 大塚勇三. 『トム・ソーヤーの冒険』. 福音館書店. 2013. p,30
トムは、ポケットをひっくり返して、自分の財産を調べます。おもちゃや、ビー玉や、がらくたを少し持っていましたが、誰かに塀塗りを変わってもらうには全然足りません。トムは、乏しい財産をポケットにしまい、誰かを買収するのはムリそうだとあきらめます。
もう自分で塀塗りをするしかないのかと絶望しかかった時、トムは不意に素晴らしい考えを思いつきます。
友達のベンが通りかかり、トムのことをからかいますが、トムは塀塗りにものすごく熱中しているふりをします。そして、こんなことまで言うのです。
子どもが塀を塗らしてもらえるなんてチャンスは、そう毎日毎日あるもんだろうかね?
マーク・トウェイン. 訳 大塚勇三. 『トム・ソーヤーの冒険』. 福音館書店. 2013. p,35
それを聞くと、ベンはからかうのをやめ、トムが熱中している塀塗りを興味津々で見物するようになりました。そして、トムがあまりにも夢中で塀塗りをしているものですから、羨ましくなってしまい、ちょっと自分にもやらせてくれと頼んでくるくらいになったのです。
ところが、トムはまだまだ、ベンに塀塗りをさせてやりません。もったいぶって、こんなことを言うのです。
ポリーおばさんは、この塀のことは、すごくやかましいんだ。……ほら、このとおり、表通りにある塀だからね。……裏の塀だったら、ぼくも気にしやしないし、おばさんだって、そうだろうけどね。そうさ、この塀のことじゃ、おばさんは、すごくやかましい。だから、うんと念入りにやらなきゃならないんだ。そうだな、この塀がちゃんと塗れるなんて子は、まあ、千人にひとり、いや、二千人にひとりしかいないだろうな。
マーク・トウェイン. 訳 大塚勇三. 『トム・ソーヤーの冒険』. 福音館書店. 2013. p,36
そんなことを聞いては、もう、ベンはどうしたって、しっくい塗りをしてみたくてたまらなくなります。そして、自分が持っているりんごをやるから、どうか、塀塗りをさせてくれと、トムに拝み倒したのです。
トムはしぶしぶという顔をしながら、心の中ではものすごく喜んで、ベンに塀塗りをさせてやります。このやり口で、トムは何人もの男の子たちをだまし、みんなに次々に塀塗りをさせ、しかも、手入れのよくできた凧やら、ビー玉やら、糸巻で作った大砲などを、いっぱい手に入れることができました。
そして、トム自身は、友達の財産をもらって楽しくのらくらしていただけだったのに、塀はなんと3重にも塗り上げられたのです。
結局のところ、世の中は、そうつまらなくもないな、とトムは心のうちで思った。彼は、自分ではそうと知らなかったが、人間の行為の一大原則を発見していたのだった。……それはつまり、大人にでも子どもにでも、なにかをほしがらせようと思ったら、その物を手にはいりにくくしさえすればよい、ということだ。
マーク・トウェイン. 訳 大塚勇三. 『トム・ソーヤーの冒険』. 福音館書店. 2013. p,38
常に自分で考える

トム・ソーヤーは、親や先生の言うことを大人しく聞く良い子とは真逆です。大人の言うことをちっとも聞かないので、親も先生も、トム・ソーヤーに手を焼いてばかりです。
ですが、大人の言うことをよく聞くということは、そんなに大切なことでしょうか。
トム・ソーヤーは、いたずらばかりする手に負えない子なので、叱られてばかりいますが、自分の頭で考える力を持ち合わせています。親や先生の言うことを鵜呑みにするのではなく、どうしたら面白いことができるのか、どうしたら楽しいことができるのか、常に五感を働かせて周囲を観察し、クルクルと頭をフル回転させ、次から次にいろんなことを思いついては実行していきます。
自分の頭で考える力は、とても大切なものだとヨガでは言われています。
『ヨガ・スートラ』では、真に正しい知識というものは自分の目で見つめ、自分で考えたことのみだと書かれているのです。たとえ、師の言うことだとしても、それは正しいとは限らないというのですね。師が言ったことをよく考え、自分の頭で理解してはじめて、それは、正しい知識となるのです。
トム・ソーヤーは、ポリーおばさんや先生が、絶対に付き合ってはいけないと厳しく言い渡している浮浪児のハックルベリー・フィンと大の親友になり、様々な冒険に一緒に乗り出します。
洞窟で、ベッキーという女の子と共に迷子になってしまった時も、自分で考える力を最大限に発揮します。いつも良い子のベッキーは、どうしていいかわからずに嘆くばかりなのですが、トムは、どうしたらこのピンチを乗り切れるか、ものすごく考えます。そして、ロウソクがなくなりそうだから、この先は動かない方が良いとか、水のあるそばにとどまっておいた方が良いとか、誰かが助けにくるかもしれないから大声で叫んでみようとか、次々に思いついて実行します。そのトムの実行力が、二人の命を救うことになるのです。
ピンチに陥った時、親や先生の言うことを大人しく聞いているだけでは、それを乗り越えていくことはできません。ピンチをどう乗り越えていけばよいのか、自分で考えて、実行していかなくてはならないのです。それは、情報社会に生きる私たちにも同じことが言えるのではないかと思います。どんな情報を信じるのかを自分の頭で考え、選択していく力こそ、ネット社会の罠に陥らずに生きていけるカギとなるのではないでしょうか。
常に自分の頭をフル回転させ、次から次にびっくりするようなアイデアを思いついては実行していくトムだからこそ、ピンチにも強く、ワクワクする冒険を成し遂げることもできてしまいます。それが、トムが時代を超えて愛され続ける魅力の一つだと言えるでしょう。
マーク・トウェインは、この本の冒頭で次のように語っています。
この本は、おもに少年少女のたのしみのためにと書かれたものだが、だからといって、大人の人たちが逃げたりしないようにと、望んでいる。というのも、大人たちに、自分がかつてどんなだったか、どんなに感じ、考え、話したか、そしてときには、どんなに奇妙なことをくわだてたかと、楽しく思いだしてもらおうというのが、わたしのもくろみの一つだったのだから。
マーク・トウェイン. 訳 大塚勇三. 『トム・ソーヤーの冒険』. 福音館書店. 2013. p,5
マーク・トウェイン自身が書いているように、この本は子どもはもちろん、大人になって読んでみても楽しい物語です。大人の方もぜひ、読んでみて下さいね。永遠のいたずらっ子トムに導かれて、ワクワク弾む子ども心を思い出すひとときになることと思います!
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