できない自分との付き合い方

できない自分との向き合い方 ― ヨガとセルフコンパッションの新しい関係

いつものようにマットを広げ、太陽礼拝から練習を始める。呼吸はスムーズで、体の調子も悪くない。けれど、後屈に差し掛かった瞬間、腰に違和感が走る。

「前は違和感なくできていたのに…」

そんな言葉が、心の奥で小さく、でも確かに響く。

こんにちは、ヨガジェネレーションのべーです。

アシュタンガヨガを始めた頃は、できることが増えるたびに嬉しくて、毎日が発見の連続でした。けれど経験を重ねるほど、知らず知らずのうちに「もっと」「前みたいに」と、結果を求める自分が現れます。

それは、他人との比較ではなく、過去の自分との比較

「昨日より進化していない自分は、何か足りない」そんな思い込みが、静かな自己批判となって心に居座ります。

後屈に違和感を覚えるようになったのは、1年ほど前から。それ以来、大好きだったはずの後屈が、目の前に立ちはだかるたびに、ポーズに入るのをためらうようになりました。

一生懸命向き合うほど陥りやすい「成長への執着」

ヨガをしている女性

ヨガは本来、「できる・できない」に縛られない練習です。しかしアーサナの完成度を追い求めるほど、陥りやすいのが私のような思考。

  • 過去の自分との比較:「前はできたのに…」
  • 他人との比較:「あの人はもっと深く入っている」

こういった考えは、練習のモチベーションを奪い、時には怪我の原因にもなりかねません。
でも、こうした感情が芽生えること自体を否定する必要はないのです。

大切なのは、冷静に受け止め、そして対応すること。
そのためのヒントが、セルフコンパッションです。

セルフコンパッションがもたらす視点の転換

セルフコンパッション(Self-compassion)は、心理学者クリスティン・ネフ博士が提唱した概念で、「困難な状況にある自分に、友人に接するような優しさを向けること」を意味します。

理解のカギとなる3つの要素は以下です。

  1. 自分への優しさ(Self-Kindness)
    → 自己批判ではなく、労いと励ましの言葉をかける。
  2. 共通の人間性(Common Humanity)
    → 誰にでも得意・不得意や調子の波があると理解する。
  3. マインドフルネス(Mindfulness)
    → 感情や体の状態に気づき、否定せず受け入れる。

この中でも、特に誤解されやすいのが「自分への優しさ」です。「甘やかすこと」と混同されがちですが、それは全く違います。

自分への優しさは「成長への優しい戦略」

甘やかす=短期的な快適さだけを優先

  • やるべきことを避ける、嫌なことから逃げる。
  • 長期的な成長より、今の楽さを優先する。

例:「今日は走るのが面倒だから、一日中スマホを見て過ごそう」

セルフコンパッション=自分を守りつつ成長を促す

  • 困難な状況でも、自分を大切にしながら前に進む。
  • 優しさと同時に、必要な行動を取る勇気も含まれる。

例:「今日は疲れているから練習は短くする。でもやらないんじゃなくて、できる範囲でやってみよう」

セルフコンパッションは怠ける口実ではなく、長期的な健康と成長のための優しい戦略です。

「今日はここまで」という自制心

チンムドラを組んで座っている

好きなことでも、やり過ぎれば自分を追い詰めることがあります。仕事が好きすぎて休まず働けば体を壊しますし、お菓子作りが楽しすぎても、食べ過ぎれば体調を崩します。

自分への優しさとは、「今日はここまで」と区切る自制心も含まれます。

後屈に違和感を覚えた私は、痛みを感じるところまでは絶対にやらないと決めました。完全にやめるのではなく、できる範囲で続ける。私にとっては修行のようでしたが、それでも練習をやめないことを選びました。

そして最終的に、この壁を乗り越えられたきっかけは呼吸でした。どこまで体の奥に呼吸を届けるかで、腰との関係が大きく変わったのです。

成長は諦めなくていい ― 向き合い方で変わる成長の形

ヨガをしている女性

私は成長を諦める必要はないと思っています。

ただ、覚えておいてほしいのは、ヨガは、形を追いかけるだけの道ではないということ。成長は、アーサナだけではないということです。私は、有難いことにいつものプラクティスに戻ることができましたが、そうじゃないことだってある。

このとき、私に刻まれたのは、自分との向き合い方でした。追い詰めるのでもなく、自分の今に優しくあること。

マットの上で自分に優しくすることは、マットの外でも自分を支える力になります。そして、その優しさは、他者への優しさにもつながっていきます。

できない自分を責める代わりに、愛する練習をしてみませんか?

セルフコンパッションという心理プログラムは、ヨガが好きな人ほど、何かをやり過ぎてしまう傾向にある人こそ、必要な概念です。

どんなヨガをやっている人もぜひ、触れてみてください。


もっとセルフコンパッションを詳しく知りたい人へ

ヨガ×セルフコンパッション
オンライン|9月21日(日)9:30-13:30

ヨガ×セルフコンパッション

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