ヨガマットの汚れが感染症を招く!

ヨガマット、清潔にしてる?実は危険?!汚れが感染症を招く

皆さんがヨガをする場合、ヨガマットは借りる派ですか?それとも持参派ですか? 身軽でスタジオに行きたい、という意見も良く分かりますし、こだわりのマイヨガマットでレッスンを受けたい気持ちもよくわかります。

私の場合は当初は借りることも多かったのですが、インストラクターからお勧めの滑りにくいヨガマットを教えて頂いてからは、マイヨガマットを持参することが多くなっています。

どちらの場合もメリットとデメリットがあると思いますが、いずれにしてもマットのお手入れが必要です。ヨガマットの清潔って考えたことありますか? 今日はヨガマットのお手入れについて考えてみましょう。

見えないけれど、細菌やウイルスは身の回りに溢れている

細菌とウイルスの違い
細菌とウイルスの違い

簡単に細菌とウイルスの違いを説明しましょう。

一番大きな違いは、細菌は自分で増殖することが出来ますが、ウイルスは増殖するために人や動物の細胞内に侵入する必要がある点です。そしてウイルスは自らエネルギーを作り出すことができません。

二番目は抗生物質が細菌には効果がありますが、ウイルスには効果がありません。ウイルスに効果がある薬は”抗ウイルス薬”と言います。(風邪で抗生物質は効果がありません!医者が処方してくれなかった!という話をよく聞きますが、それは効果がないからです。)

細菌は蒸し暑く水分のある場所を一般的に好みます。また空気中を漂うウイルスは(風邪ウイルスやインフルエンザウイルスなど)、湿度の上昇に伴い床の上に落ちて行きます。これってまさにヨガスタジオ、そしてヨガマットの上だと思いませんか?

ヨガクラスの間に体は温まり、汗はヨガマットの上に落ち、最後は火照った汗ばんだ体でシャバアサナしますよね。スタジオ内では咳やくしゃみをする人がいることも良くあります。そんなヨガスタジオ、ヨガマットはまさに細菌やウイルスの活動の場所です。

語弊が無いように説明しておきますが、ヨガスタジオが特別汚いという事ではありません。普段意識しませんが私たちは細菌やウイルスなどの微生物に囲まれて生活しているという事です。

細菌はどのくらいの期間、生存可能だと思いますか?

ヨガマットの上に落ちた細菌やウィルスは、どのくらいの期間、生存していると思いますか? 一般的に地表にいる細菌は環境にもよりますが、栄養補給がない場合で2、3時間〜数日、ウィルスは湿度やウイルスの種類にもよりますが数時間~数週間生存していると言われています。

ヨガマットには様々な感染症の危険がある?!

ヨガマットを通じて感染する可能性がある感染症は、インフルエンザ、ノロウィルスなどの有名なウイルス感染症だけでなく、他ウイルス感染や、爪白癬(いわゆる水虫菌の爪感染)などの真菌感染症や、さまざまな原因菌(黄色ブドウ球菌、溶連菌)による細菌感染症が考えられます。

いくつか具体的な例を見てみましょう。

SUPヨガも注意?!海の中にはVibrio属細菌が沢山

川の上でSUPYOGAをする女性の写真
海の中にはVibrio属細菌が沢山

海水の中は無菌ではなく、グラム陽性桿菌のVibrio属細菌等が沢山います。

Vibrio属の中には、腸炎ビブリオという有名な食中毒の一種の原因菌であるVibrio parahaemolyticusなどが含まれます。特に海水の温度が上昇する夏場にかけてこの細菌も増殖しやすくなるという性質があり、注意が必要です。

Vibrio属で怖いのは、昨今有名になった「人食いバクテリア(Vibrio vulnificus)」による壊死性筋膜炎です。

人食いバクテリアとは恐ろしい名前ですが、急速に進行する「壊死性筋膜炎」を起こすVibrio vulnificusや化膿性連鎖球菌(Vibrio属とは別の系統です)等の俗称です。

ちょっとした傷でも、傷から人食いバクテリアが侵入し感染した場合、数時間単位で急速に全身状態が悪化し、筋肉が壊死しその結果として、手術や場合によっては患部の切断が必要になり、命に係わるという非常に怖いものです。

自宅で様子を見ている間に急速に状態が悪化してしまう、という経過を辿ることがあり注意を要します。

勿論傷口からこうした細菌が侵入しても全員が壊死性筋膜炎を発症するわけではありません。危険性を過度に誇張する意図はありませんが、命に係わる感染症が起こりうる点に関しては記憶に留めておきましょう。

パークヨガにも注意が必要!土壌にも菌がいる

公園でパークヨガを楽しむたくさんの人たち
何気なく行っているパークヨガ、でも…土壌にも菌がいる

土壌にはBacillus属、Clostridium属などの菌が潜んでいます。この菌も傷を経由して感染します。破傷風菌はClostridium属によるものです。

再度書いておきますが陸のケガでも海同様に、「人食いバクテリア」による壊死性筋膜炎は生じます

頻度は決して高くありませんが、東京都のデータ[1]の通り、人食いバクテリアは近年増加傾向です。(下記図の「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は「壊死性筋膜炎」のことであり人食いバクテリアによる感染症のことです。)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症
(東京都感染症情報センターHPより一部抜粋[1]

しかも増加の原因が不明、ということで個人的には怖いな、と思っています。些細な傷でも気になる場合は病院に受診する必要があることを覚えておきましょう。

壊死性筋膜炎感染症の初期症状

念のため壊死性筋膜炎感染症の初期症状を書いておきます。

一般的な壊死性筋膜炎の初期症状の一覧。

  • 患部の発熱痛み
  • 患部周囲から広がる発赤、腫脹
  • 全身の発熱
  • 下痢、嘔吐
  • 全身の節々の痛み
  • 痛み
  • 水疱形成

しかし、大切なことは少しでも心配であれば病院受診し医師の診断を受けることです。ここに書いてある”気になる状態”に当てはまらないからといって壊死性筋膜炎が否定されたという事ではないことは十分注意してください!

傷があるのに海に入る、傷があるのに土や泥遊びをすることなどはなるべく避けましょう。

菌は怖くない?!私達は元々菌に包まれている

こうして細菌感染の例を挙げていくと、「ばい菌は危ないから、除菌しなきゃ!」と思うかもしれません。

でも、そこまで心配する必要はありません。なぜなら私達は元々、菌に囲まれて生活しているからです。きれい好きのあなた!あなたの身体も菌まみれ(常在菌)です(笑)。

人類は細菌と持ちつ持たれつ暮らしてきた

常在菌とは、皮膚、口腔、鼻腔、消化管など、外界に接するからだの各部位に健康な時でも多数存在する、人間と共生関係にある細菌の事を言います。人間の免疫力が落ちた際にこの常在菌によって悪影響を受けることがあり、それを日和見(ひよりみ)感染と言います。

そもそも完全に無菌という事自体が異常であり、人類は細菌と持ちつ持たれつの関係を維持して来ました。

発酵と腐敗は微生物から見ると同じこと

大豆と味噌の日本の発酵食品の写真
発酵と腐敗は微生物から見ると同じこと

例えば、今や生活に欠かせない発酵食品は酵母などの真菌によるものです。

実は発酵と腐敗(腐ること)は微生物の立場からしたら同じ事です。細菌が栄養を分解する過程で、人間にとってメリットがある場合を”発酵”と呼び人間にとってメリットがないものを”腐敗”と呼んでいます。

立場によって異なるので、外国の方からすれば納豆は大豆が”腐敗した”ものでしょうが、多くの日本人にとっては立派な発酵食品になります。

また、近年腸内細菌と人間の情動やうつなどの精神状態との関連が指摘されており[2]この点に関してはまだ多くが動物実験レベルで、はっきりしたことは言えませんが、細菌と人間の関係はとても緊密なものであることはご理解頂けたと思います。

腸内細菌と人間とのかかわりに関してもっと知りたい方はTEDトークに「How our microbes makes us who we are」[3]というものがあるので、是非見てみると良いと思います。

以上私たちが細菌に囲まれて生活している事を踏まえ、普段のスタジオでのヨガでも、ヨガマットの上、私たちの体表、鼻腔等には、Staphylococcus属細菌(黄色ブドウ球菌)、グラム陽性球菌などが多数存在しています。

では、なぜ菌により感染症などが起こるかというと、菌は普段は悪さをしませんが、私たちの免疫が落ちている時、傷がある時などにその傷の場所から感染を起こし得るということです。

こんな風に私達は日常的に多くの細菌・ウイルスに囲まれて暮らしていることがわかりました。では次回は、それらによる感染症を防ぐにはどのようにしたら良いかについて見ていきます。

参考資料

  1. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の流行状況(東京都 2018年)
  2. Tillisch K, Mayer EA, Gupta A, Gill Z, Brazeilles R, Le Nevé B, van Hylckama
    Vlieg JET, Guyonnet D, Derrien M, Labus JS. Brain Structure and Response to Emotional Stimuli as Related to Gut Microbial Profiles in Healthy Women.PsychosomMed.2017Oct;79(8):905-913.doi:10.1097/PSY.0000000000000493. PubMed PMID: 28661940; PubMed Central PMCID: PMC6089374.
  3. TED:How our microbes make us who we are