乳腺科医が語る”乳がんとヨガ”

”がん”とどう向き合うかが問われる時代

私は現在アメリカ留学中の乳腺科医です。アメリカではヨガに関する医学的研究が盛んに行われ、乳がんの患者さんにヨガがどのように有効なのかを調べる臨床研究が進行しています。日本では女性の20人に1人が乳がんになるといわれていますが、アメリカでは8人に1人が乳がんにかかるといわれております。

もちろんヨガをしていれば乳がんにかからなということはありませんし、ヨガをしたからといって乳がんが治ることもありません。しかし、乳がん患者さんは乳がんを告知された後、手術、抗がん剤、放射線治療と多くの段階的治療が必要となります。その間、術後の体力低下、治療の副作用と精神的プレッシャーを強く感じます。その治療中に精神安定剤、睡眠薬などの薬を必要とされる患者さんもいます。

乳がん患者さんとヨガの研究

今まで発表された論文では、乳がんの術後患者に「ヨガをしたグループ」と「何もしなかったグループ」を比較したものがあり「ヨガをしたグループ」では不眠が改善したり、ポジティブな思考になったり、Quality of Life (生活の質)がよくなる傾向が認められると発表されています。しかし今までの研究は患者の数が少なく、まだ確定した訳ではありません。

私の留学しているMD Anderson Cancer CenterではNIH(National institutes of Health)より4億円の研究費を受託し、乳がんの術後、放射線治療中の患者さんに「ヨガを行うグループ」と「何もしないグループ」に無作為割付して患者さんにどのような影響がでるか臨床研究が行われています。それ以外にもアメリカでは多くのがんの術後患者さんにどのような効果があるかを調べる研究が行われています。2~3年後には研究の結果がでてくると思われます。

がんサバイバーのためのヨガが増えている

アメリカでは既に一般のヨガスタジオでもCancer survivor(がんサバイバー)用のヨガクラスがあるところもありますし、一般のヨガクラスでもCancer savvierの方が参加するときは事前にアナウンスがあり拍手で迎えられるような光景も見られます。MD Anderson Cancer Centerの中でもHatha YogaとTibetan Yogaが患者や職員用に週に1回ずつ行われています。

残念ながら日本では「Yoga」の医学的な研究はほとんど行われていません。日本の医療者の方々もヨガが医学的に有用かどうかを知っている方も少ないと思います。ヨガのインストラクターの方々もいきなり生徒としてがん患者さんがこられたら困惑してしまう方がいらっしゃるかもしれません。今後日本でもインストラクターの方が患者の状態を理解してCancer survivorのためのクラスや、Cancer survivorでも気軽に参加できるようなヨガスタジオが増えてくれることを期待しています。

私のブログ「乳腺科医のHouston留学日記」では乳がんとヨガに関する論文の解説などをしたページがありますので興味のある方はご覧ください。また疑問、質問等があればメールをしていただければお答えできる範囲内でお答えします。

文・新倉直樹