瞑想を学びたいと思ったらインドにいた 〜インドのヴィパッサナー瞑想センター10日間コース体験記〜

瞑想を学びたいと思ったらインドにいた 〜インドのヴィパッサナー瞑想センター10日間コース体験記〜

「瞑想を本格的に学びたい」
日本でヨガを始めた当初は、硬い身体を柔らかくしたいという思いから、アーサナ(ポーズ)中心の練習に励んでいました。そして、ヨガを続けて4〜5年経ったある日、アーサナの先にある呼吸法や瞑想をもっと深く学びたいと感じるようになりました。
どうやって学べばいいのだろうと思い、色々と調べているうちに、“ヴィパッサナー瞑想10日間コース”という言葉に出会いました。

10日間、誰とも話さずに一日中瞑想に集中する…… 自分にそんなストイックなことができるのか…… 不安もありましたが、挑戦したい気持ちが勝り参加を決意しました。
しかし、日本のヴィパッサナー瞑想センターは非常に人気があり、何度申し込んでも参加できませんでした。まだ自分が参加するタイミングじゃないのかなと思っていた矢先、インドには数多くのヴィパッサナー瞑想センターがあり、日本よりも参加しやすいことを知りました。しかも、インドはヴィパッサナー瞑想の発祥地。「これはインドで参加するしかない!」と決め、日本を離れました。

ヴィパッサナー瞑想とは

「ものごとをありのままに見る」という意味のヴィパッサナーは、インド最古の瞑想法のひとつです。2500年以上前に、インドで人間共通の苦しみを癒す普遍的な治療法、つまり「生きる技」として教えられました。

「ヴィパッサナー瞑想とは何ですか?」. 日本ヴィパッサナー協会. https://jp.dhamma.org/ja/about-vipassana/

瞑想にはさまざまな種類があるので、正直なところ何を学べばいいのか分からない状態でしたが、まずは体験してから考えようと思い、参加を決めました。

ヴィパッサナー瞑想10日間コースの詳細

ヴィパッサナー瞑想センター
ヴィパッサナー瞑想センター

2025年2月、私はインドのMahad瞑想センターで10日間のヴィパッサナー瞑想コースに参加しました。本当は日本語音声ガイドがある大きなセンターに参加したかったのですが、旅の日程の都合上、Mahadが最も適していたのでこちらに決めました。

施設について

施設は街中のビルの1フロア
施設は街中のビルの1フロア

Mahadはインドの瞑想センターの中では小規模な施設で、街中のビルの1フロアを借りたような場所で行っています。私が参加したコースは男性限定で約30名、私以外は全員インド人でした。大きなセンターになると、男女合わせて100名ほどの規模の所もあるそうです。
私の部屋は3人部屋でしたが、10人ほどの大部屋もありました。到着前は、水シャワーや電気の使用制限などがある不便な生活を想像していましたが、お湯のシャワーや電気が使える現代的な環境に安心したことを覚えています。

瞑想ルームについて

瞑想ホールにはクッションが用意されている
瞑想ホールにはクッションが用意されている

瞑想ルームは、大小2つの部屋がありました。クッションなども事前に用意されていて、瞑想に集中しやすい環境が作られていました。

規則について

  • 10日間、誰とも会話しない
  • 目を合わせてはいけない
  • 運動やヨガは禁止
  • スマホなどの電子機器はセンターに預ける
  • 外出や外を見ることは禁止
    (私が参加した施設独自のルールかもしれません)

コースでは、瞑想に集中するためのとても厳しい規則がありましたが、英語が得意でない私にとって、「誰とも話してはいけない」というルールは逆に気が楽でした。しかし、私にとって最も難しかったルールは、長時間座って凝り固まった身体をほぐすための運動やヨガが禁止だったことでした。そのため、簡単なストレッチや廊下を歩き回ることで身体の調子を保っていました。

1日のスケジュール

4:00 起床(スタッフがベルを鳴らし部屋を訪問)
4:30 ホールで瞑想開始
6:30 朝食と休憩
8:00〜11:00 瞑想(途中小休憩あり)
11:00〜13:00 昼食と休憩(講師への質問タイムもあり)
13:00〜17:00 瞑想(1〜2時間おきに小休憩)
17:00〜18:00 夕食と休憩
18:00〜19:00 瞑想
19:00〜 講師ゴエンカ氏の英語音声講義視聴
20:00〜21:00 瞑想
21:30 消灯

早起きは慣れるまで大変でしたが、朝の静寂の中での瞑想は格別でした。また、休憩時間が長く、昼寝や簡単な運動の時間が十分に取れたことも助かりました。

食事について

カレーなどインド料理のブッフェ形式
カレーなどインド料理のブッフェ形式

3食とも、カレーなどのインド料理のブッフェ形式でした。辛さは控えめでとても美味しく、いつもおかわりをしていました。ティータイムには、インドの甘いチャイも提供されました。私は5ヶ月ほどインドに滞在しており、料理には慣れていたので、食事にストレスは感じませんでした。
ウォーターサーバーなどもあり、衛生管理もしっかりしていて、お腹を壊すこともなかったのはインドにおいてありがたいことでした。

言語について

コースでの基本言語はヒンドゥー語で、説明やガイダンスもヒンドゥー語でした。しかし、私はヒンドゥー語がわからないので、英語が話せるスタッフから個別に説明を受けました。何かあれば英語で質問もでき、何度も助けてもらいました。しかし、私もスタッフも英語が流暢ではなく、オンライン翻訳なども使えなかったため、ジェスチャーを交えてなんとかコミュニケーションをとっていました。

瞑想を10日間挑戦して大変だったこと

チェックインした初日、私は「本当に10日もの間、1日中瞑想し続けることができるのだろうか」という不安と、「瞑想を続けた先に何が待っているのか」という期待が半分ずつ入り混じった気持ちでスタートを切りました。

10日間のヴィパッサナー瞑想コースのなかで、大変だったことが3つあります。1つめは、考え事が止まらず、全く瞑想に集中できなかったことです。実際にコースが始まり、数日経っても思考が止まらず、心が落ち着かない状態が続きました。私は普段から瞑想を実践していたので、すぐに集中できるだろうと思っていた分、集中できない自分に驚き、少し落ち込んでもいました。

普段の瞑想は20分や30分と時間が区切られており、終わりが見えているからこそ集中できていたのだと、今回の経験を通して気づかされました。1時間、2時間といった長時間の瞑想を、しかも一日中行うことには慣れておらず、その現実に戸惑っていたのです。
しかし、3日目、4日目を過ぎる頃から徐々に心が落ち着き始め、少しずつ瞑想に集中できる時間も増えてきました。それでもなお、たくさんの考えが頭を巡り、最終的には自分の記憶の中で最も古い、小学生時代の記憶にまで辿り着いたことには驚きました。不思議なことに、それ以降は考え事が減ってきたように感じました。もしかすると、スマートフォンなどが使えず、新しい情報が入ってこない環境で、何日も考えを巡らせ続けた結果、頭の中の“考えのストック”が尽きてしまったのかもしれません(笑)。いずれにせよ、結果的に瞑想に集中しやすくなったことは、大きな収穫でした。

2つめは、長時間座り続けることで、足がとても痛くなったことです。瞑想ホールにはクッションが用意されているものの、1日合計約10時間も座って瞑想をするのは、想像以上に大変でした。さらに5日目以降には、1日2回、各1時間「姿勢を一切変えずに瞑想をする」というルールが加わり、その時間は特に過酷でした。股関節、膝、足首が次第に痛み始め、無理して座り続けた後に立ち上がろうとしたら、神経が圧迫されて足首が動かなくなってしまい、本気で焦ったことを今でも覚えています。

3つめは、インドの小さな会場で参加したことによる環境面の厳しさです。私が参加したコースの会場は、街中にあるビルの一室で行われていたため、日中は工事の騒音やインド音楽を爆音で流しながら走る車の音、夜になると花火やイベントの爆竹のような音が鳴り響き、正直なところ集中できない時間が多くありました。

また、言語の壁も課題でした。私自身もスタッフも英語がそこまで堪能ではないうえにインド訛りの英語は聞き取りづらく、今は何をすれば良いのだろう…と困惑することもしばしばありました。
それでも、これも良い瞑想の練習になるはずだと思い、あらゆる状況を受け入れて瞑想を続けました(笑)。

10日間の瞑想コースに参加したことによる学び

10日間、毎日1日中瞑想をして、多くの気づきがありました。そのなかでも特に心に残ったのが、「すべては無常。この世のすべては移りゆくもの」という言葉です。
私は5日目から始まった「1時間姿勢を変えずに瞑想する」という実践を、うまく続けることができませんでした。足の痛みがあまりにも強く、つい姿勢を変えてしまったり動いてしまったりして、自分は全然ダメだな、と落ち込むこともありました。

しかし、8日目の夜、講師の方がこんな言葉を話してくれました。

「すべては無常。この世のすべては移りゆくもの」
「痛みも苦しみも喜びも、すべてはやがて過ぎ去る。だからその波に呑み込まれず、ただ今を観察し続けること」
「未来や過去に意識を向けず、“今ここ”に意識を向けると、自然とすべては消えていく」

私はこの言葉を胸に、9日目の瞑想に臨みました。
瞑想をしていると、いつものように考え事が湧き、足の痛みも感じて心は揺れましたが、講師の言葉を思い出しながら、「考え」や「痛み」を拒絶せず、静かに観察してみました。すると不思議なことに、気づけばそれらは自然と消えていき、いつの間にか1時間が経ち、終了のベルが鳴っていたのです。
「すべては無常」という言葉を頭で理解するのは簡単ですが、実際に自分の身体と心を通じて体感できたことは、非常に貴重な経験でした。
そのときに感じた静かで穏やかな心の感覚は、今までにない新鮮で心地よいものでした。

まとめ

コース終了の翌日、私は疲れていたのですが、インド人の仲間たちは元気いっぱいで、みんなで近くの観光地へ出かけました。彼らの底なしのエネルギーには、改めて驚かされました。
10日間のヴィパッサナー瞑想コースに参加して、瞑想が完璧にできるようになったかと問われたら、正直に言うと全くそんな事はありません。
今でも瞑想中には考え事が湧いてくるし、長時間座ると足の痛みや痺れも感じます。でも、それでもいいと思っています。
10日間という強制的な環境の中、1日中瞑想に取り組んだことで、それまでの短い瞑想の練習だけでは得られなかった体験や気づきをたくさん得ることができました。そして、自分にはまだまだ練習が必要だという気づきも得られました。瞑想は奥深く、学ぶことが山ほどあります。これからも焦らず、少しずつ深めていきたいと思っています。
もし、ヴィパッサナー瞑想に興味がある方がいたら、ぜひ一度参加してみてください。きっと、みなさんにとって意味のある体験が待っていると思います。