アーユルヴェーダと現代科学から読み解く、ギーの健康効果

アーユルヴェーダと現代科学から読み解く、ギーの健康効果

健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外では医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2025年5月の時点で9,200件を超える研究報告があり、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
また、ヨガとも関係があるインドの伝統医療「Ayurveda」(アーユルヴェーダ)を検索してみると約8,500件の報告があり、ヨガと同じように研究が進められています。
今回は、2024年にインドで発表されたギーの健康効果についての研究報告を紹介します。

1.ギーの特徴と研究の背景

インドの食と文化において欠かせないギー
インドの食と文化において欠かせないギー

ギーは、インドの食と文化において欠かせないものです。豊かな風味があり、健康に効果をもたらすとして、何世紀にもわたり料理などに利用されてきました。発煙点は250℃と比較的高く、高温にさらされても安定的であることが特徴です。

アーユルヴェーダなどの伝統的知識において、ギーは治療的な価値がある健康食品としてみなされています。一方、現代の栄養学の観点においては、成分に飽和脂肪酸が含まれることから、乳脂肪の摂取は制限されるべきとの見解もあります。

インド食品安全局の基準によると、ギーは「牛乳、クリーム、またはバターから、水分と無脂肪固形物をほぼ完全に除去する工程を経て得られる、特に優れた風味と物質的構造を有する製品」と定義されており、99.5%の脂肪分と0.5%未満の水分から成ります。さらに、ビタミンA、D、E、Kなどの脂溶性ビタミンの供給源でもあります。
脂肪酸の組成を見てみると、短鎖脂肪酸、リノール酸、オメガ3およびオメガ6脂肪酸、リン脂質を含んでいます。近年では、これらの脂肪酸は体内で重要な役割を果たしている可能性があることから、科学的にも大変注目を集めています。また、抗炎症作用や抗酸化作用、脳の健康との関連を含めた健康増進や、病気の治療的効果があると考えられています。

そこで、今回の研究では、古代から伝承されるアーユルヴェーダと現代科学の両方の観点から、ギーの持つ役割についてレビューすることを目的としました。

2.アーユルヴェーダの観点からのギー

ギーの作り方手順
ギーの作り方手順

アーユルヴェーダの観点からギーの効果を確認するために、7つのサンヒターを含む11の重要なテキストを確認しました。これらのテキストは、紀元前15〜17世紀までの約3000年以上の期間にわたり編纂されたと言われています。伝統的なテキストには、治療薬や複合製剤(グリタ)の成分、食品としての広い用途が言及されており、『チャラカ・サンヒター』の中では、日常摂取が推奨される食品の一つとして挙げられていました。

ギーの作り方について、アーユルヴェーダでは2つの方法が示されています。標準的な作り方は、牛乳を発酵させて作るカードを遠心してバターとミルクに分離し、バターを弱火で加熱する方法です。もう一つは、クリーム状の牛乳からバターを撹拌し、その後ゆっくり加熱する方法です。

牛からとれるギーには、3つのドーシャを減らすとの記録がありました。健康への影響については、若返りや体の各器官への効果などが挙げられており、上位5位は、認知機能の健康、腸の健康、豊富な栄養、目・耳・鼻・喉の健康、浄化作用と呼吸器系の健康となっていました。
牛以外の動物から作られるギーについても言及があり、その効果や特徴はそれぞれが有する成分によっても異なるようです。

3. 現代的な研究と文献報告からのギー

文献検索サイトPubMedを用いて調査したところ、1990年1月~2023年4月までに英語で出版された論文は246件ありました。その中から本研究の目的に合致する109件の論文で、ギーの効果を確認しました。

古典のテキストで最も多く言及されている効果は、記憶力や知性、明晰さの向上などの認知機能に関わるものがあります。一方、現代的な研究では、純粋なギーのみによる脳の健康に対する報告は限られていますが、ギーの成分である短鎖脂肪酸、オメガ3脂肪酸、リノール酸の個々の研究は数多くあり、抗炎症作用や認知機能の向上の効果が認められています。よって、ギーの認知機能に対する有用性にも期待が寄せられています。また、ギーを用いたハーブ製剤に関する研究においては、記憶力、注意力、処理速度の向上が認められたという報告もありました。

アーユルヴェーダにおいては、消化力が健康と密接に関係があると考えられており、ギーの胃腸の健康に対する効果にも重点が置かれています。現代の研究では、お米の調理や炒め物にギーを使用した際に、食後の血糖値の上昇反応が抑えられることが報告されました。ギーに含まれる短鎖脂肪酸に関する研究では、消化を改善し、腸壁の健康状態を保ち、腸内の免疫システムを強化する作用があることが認められています。

古典テキストでは、ギーは「ラサーヤナ」(栄養を体全体に与えて行きわたらせる)として認識されており、免疫力の強化、長寿、若返り、老化の遅延に用いられてきました。
現代の研究においても、ギーとそれに含まれる個々の成分が免疫反応の調節に有益であることが報告されています。ギーやゴマ油を用いた脂質をベースとする製剤は、脂質が豊富なリンパ管を介して吸収されるために、免疫調節に効果を発揮すると考えられています。また、ギーに含まれる酪酸などの成分は、ウイルスやがん細胞などの異物を排除するキラーT細胞の活性を助けるとの報告や、オメガ3脂肪酸のリノレン酸はアレルギー性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患を抑える効果があると報告されています。
一方で、ギーにはコレステロールが多く含まれているとして、心血管へのリスクを指摘する文献もいくつかありました。後の研究では、新鮮なギーを用いることや、ギーに含まれるその他の機能性成分によって動脈硬化等を低下する可能性があることも報告されています。

この研究結果から、ギーに含まれる脂肪酸に代表される有効成分が、健康の維持・増進に効果を示すことが分かりました。現代的な研究によって、古代から伝わる叡智がより詳細に解明されつつあります。

身体に良い効果がたくさんあるとはいえ、過剰な摂取は禁物です。個々の体質・体調に合わせた適度な量での摂取を心がけ、バランスのよい食事を含めた日々の生活習慣の中に少しずつアーユルヴェーダのエッセンスを取り入れ、ヨガとともに楽しく健康維持・増進に役立ててみてはいかがでしょうか。

参考文献