科学に基づく、ヨガで健康に年を重ねる

科学に基づく、ヨガで健康に年を重ねる

健康の維持・向上、心の安定や美容など、さまざまな目的でヨガをしている方がいらっしゃるかと思いますが、ヨガは海外では医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2024年9月末までに約8,700件を超える研究報告があり、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回は、2021年に報告されたヨガと健康的な年の重ね方について、過去の研究報告を簡潔にまとめたショートレター文献を紹介します。

背景

本場インドでヨガをする女性
本場インドでヨガをする女性

ヨガの起源は紀元前1000年以上前に遡るとされており、その実践方法は多くの経典によって現代まで受け継がれてきました。アーサナ、呼吸法、瞑想、精神的な実践などの方法がありますが、現代で主に行われているものは、ハタヨガを基本とした身体的な方法です。1350年頃に書かれた経典の一つである『ハタヨガ・プラディピカ』では、15の主要な身体的ポーズ、7の座り方、8の他の姿勢、および69の複合的なポーズによる計84のアーサナについて説明されています。

近代的なスタイルのヴィンヤサ、アイアンガー、アシュタンガ、クンダリーニなどのヨガでは、ポーズがより洗練され、ポーズのアライメントや呼吸のコントロール、ポーズからポーズへの流れなどに重点が置かれるようになりました。さらに、身体的運動の他にも、瞑想やリラクセーション、食事やライフスタイルへの取り組みも含め、様々な要素が追加されてきました。

病気や健康に対する研究と安全性の検討

ヨガをする高齢の女性
ヨガをする高齢の女性

さまざまな健康問題に対する研究で、ヨガの効果はとても注目されています。これまでに、加齢・老化、妊娠、慢性疼痛、糖尿病、脳卒中・心不全、脳の障害や健康などの多岐にわたる研究が進められています。
医学的な制限がある人のためのチェアヨガ、心理教育を伴うヨガ、バランスや可動性を高めるヨガ、知能や身体機能を高めるヨガ、産前・産後ヨガなどプログラムの種類も増え、どのような方にもヨガは安全にアクセスしやすいものになってきました。

しかしヨガに関する研究のほとんどが、ヨガの実践は安全である一方、他のエクササイズと同様に健康な人でもリスクがあると報告しています。ヨガ教室に通う慢性疾患や通院患者2508名とヨガセラピスト271名を対象とした日本で行われた調査の結果、以下の傷害・副作用が挙げられました。

  • 筋肉痛(5.3%で最も多い)
  • 関節痛(4.9%)
  • めまい(4.0%)
  • 咳(3.2%)
  • しびれ(1.9%)
  • 筋肉のけいれん(1.7%)
  • 失神(1.3%)

これらのほとんどは軽度で一時的なものが多く、ヨガの練習を中止するほどの深刻な有害事象を報告した参加者はわずか1.9%でした。

これまでの多くの研究報告によると、エビデンスに基づく修正されたヨガプログラムでは、筋力・筋持久力の不足にも対処が可能であり、有害事象やケガのリスクを軽減することができるとされています。また、身体的な制限を有する参加者に対しては、専門家による指導やブロック、ストラップ、ブランケット、椅子などのさまざまなプロップスを用いることで、安全なヨガの提供に役立てることができるでしょう。

ヨガによるアンチエイジング効果

近年の研究では、ヨガにアンチエイジング効果があるという仮説も裏付けがされています。
ある研究発表では、アーサナ、呼吸法、瞑想からなる古典的ヨガの12週間のプログラムで、酸化ストレスマーカーやDNA損傷などの細胞老化に関する指標に良い変化がもたらされたことが実証されました。また、90日間のヨガと瞑想のリトリートプログラムでは、早期老化と関連する炎症性反応が減少したことも報告されています。

他の研究でも、長期間のヨガの実践は、作業記憶、空間的注意、意思決定に関する脳や神経の連結性が良くなったり脳の構造そのものを良い状態に保つことができると報告されています。定期的なヨガの実践によって、加齢に伴う認知機能の低下を予防する効果が期待されます。

ヨガがメンタルヘルスにも良い効果があることについて、すでに数多くの報告があります。1か月間に90分間のヨガクラスに週1回または2回参加した65~75歳の高齢者に対して行った調査では、不安に関する指標が大幅に減少したことが報告されました。ヨガをすることで、うつ症状に対しても減少の効果があることはすでに知られているところです。

また、ヨガは高齢者の身体可動性と機能的自立性を維持することにも効果的であることが分かっています。10か国60歳以上の35万人を対象とした研究では、高齢者は1日のうち平均9.4時間を座った状態で過ごしており、早期老化につながることが懸念されています。
20週間のヨガリトリートプログラムに参加した女性(50~79歳)56人を対象に脊椎の可動性を調査した結果、ヨガの実践によって筋肉の柔軟性や強さと背骨の可動性が大幅に向上していることが確認されました。他にも、バランス能力や身体全体の可動性が高まっているという報告もありました。

ヨガには、身体的な可動性・柔軟性・筋力の向上、バランスの向上や転倒リスクの減少、認知機能低下の防止、睡眠や精神的健康の改善など、幅広い利点があることが現代の科学的な調査によっても裏付けられています。また、多くの高齢のヨガ参加者からは、ヨガによって柔軟性が向上したり身体の動きが機敏になったり、さらには慢性的な痛みが軽減したとの声がよせられています。

高齢のヨガ実践者を対象に調査を行った研究では、ヨガに対する受容性は高かったものの、ヨガの実践に対して①難易度に対する不安、②新しい練習に取り組む意欲の減退、③ケガへの不安がトップ3として挙げられました。
健康的に年を重ねるためのシニアヨガプログラムでは、高齢者のあらゆるエクササイズと同様の注意が必要です。ケガのリスクを抑えるために、強度の低いポーズから始め、徐々に難易度を上げていくことが推奨されます。

ヨガは身体的側面のみならず、精神的側面への影響も持ち合わせています。
認知機能にメリットがあるゆっくりしたペースで行う瞑想やリラクセーションに重点を置く優しいヨガ、健康の維持や向上には強度のあるヨガを行うなど、一人ひとりの健康状態や目標とするゴール、目的によってプログラムを選択することがよさそうです。

参考文献