ヒンドゥー教の神ビシュヌ神の大きな像

ヴィシュヌ神の10のアヴァターラ(化身)が説く生きるヒント 前編

ヨガ発祥の国インドは、多神教の国として知られていますが、インドの神様とヨガの教えはとても関係が深いことをご存じですか。

例えばナタラージャ・アーサナ(舞踊神のポーズ)やハヌマーン・アーサナ(猿の王のポーズ)のように、神様の名前が付いているポーズも沢山あります。

インド神話は、ストーリーを通して生きる知恵を与えてくれている場合もあります。

今回はインドの3大神の1人であるヴィシュヌ神の化身から前後編に分けてヨガ哲学を考えてみます。

インド3大神の1人ヴィシュヌ神

インドで最も人口の多いヒンドゥー教は多神教の国と知られ、何百もの神様が存在しています。

そんな中でも最も人気の高い神様はブラフマー神・ヴィシュヌ神・シヴァ神で、3大神として知られています。

インドの3大神とは?世界は「創造・維持・破壊」でできている

今回ご紹介するヴィシュヌ神は、3大神の中では「維持」を司る神として知られています。

世界全体の秩序や調和を保ち、維持してくれる神様です。

インドでは最も人気の高い神様の1人で、世界創造の時に最初にいた神様もヴィシュヌ神だとも言われています。

インド神話では、創造神ブラフマー神は、ヴィシュヌ神のヘソから出てきた蓮の花の中から現れたと言われています。

そんなヴィシュヌ神の権威が高いのは、アヴァターラと呼ばれる10の化身によってだとも言えます。愛の神として人気のクリシュナ神も、ヴィシュヌ神のアヴァターラの1人とされています。

ヴィシュヌ神は世界の秩序が失われたときに世界に何度も降臨すると言われ、動物や人間の姿で世界に現れ、直接世界のバランスを整えるために救いを与えてくれます。

そのように、ヴィシュヌ神が世界に現れる時の姿をアヴァターラ(化身)と呼びます。

実は映画アバターもアヴァターラという言葉を元にしています。

映画アバターを見ていると、アムリタ(甘露)といったヨガ哲学でもお馴染みの言葉が出て来たりするので、インドやヨガの好きな人は気にしながら鑑賞すると面白いです。

ヴィシュヌ神は10回アヴァターラとして世界に降臨すると言われています。

それぞれのアヴァターラは神話として語られていますが、それぞれ生きるための知恵を授ける象徴として知られています。

ヴィシュヌ神の10のアヴァターラが教えてくれる知恵をご紹介します。

ヴィシュヌ神のアヴァターラから学ぶ生きるヒント

ヴィシュヌ神の10のアヴァターラの像Vishnuのアバター像
10のアヴァターラは、世界に降臨する順番ごとに最初は魚や動物から始まり、人間、聖者と、少しずつ高い精神をもった存在になっていきます。

今回の前編では最初の6のアヴァターラを順番にご紹介します。

1.マツヤ(魚)

最初に登場するアヴァターラはマツヤ(魚)です。ヨガでもマツヤ・アーサナ(魚のポーズ)で知られています。

インド神話の中でマツヤ(魚)は、大洪水を予言し、聖者に船を用意させて避難を助けます。

マツヤ(魚)は、水の流れに逆らって川を上っていきます。

それは、世界にある快楽や幻想に惑わされずに、高尚な真実に向かっていく象徴とされます。

ヨガを行っていると、心の中の執着や固執が障害になってしまうことがあります。また、今まで生きてきて刻み込まれた多くの思い込みが邪魔をします。

それらに打ち勝って進む決意が大切です。

2.クールマ(亀)

クールマ(亀)は乳海撹拌という有名なインド神話に登場します。

この神話では、ヴィシュヌ神の化身である大きな亀(クールマ)を土台にし、マンダラ山という山を棒にして、神々が大海をかき混ぜます。そのように大海を攪拌(かくはん)することによって、不死を与えるアムリタ(甘露)が生まれます。

クールマ(亀)もヨガのポーズでお馴染みですが、ヨガ哲学においてクールマ(亀)はプラティヤハーラ(制感)の象徴とされています。

プラティヤハーラとは、5つの感覚器官によって得られる情報が心と結びつかなくなる状態です。それは、亀が甲羅の中に手足や顔をしまい込んだ状態に似ています。

視覚や聴覚などから得られる情報に意識が結びついていると、人は外の世界のことばかりを考えて、いつまでも自分自身と向き合うことができません。

ヨガでは自分の奥深い本質を知るために、感覚を制御して、外の情報に惑わされない状態を作ります。

そのためには、呼吸など自分の内側のエネルギーの流れに意識を集中することが大切です。

3.ヴァラーハ(猪)

インドのヒンドゥー寺院にある猪の頭を持つVishnuのアバター像
ヴィシュヌ神の鼻から現れたというヴァラーハ(猪)は、海底に沈められた大地を牙にひっかけて持ち上げます。それを阻止しようとした魔人ヒラニヤークシャを撃退します。

猪は「猪突猛進」という言葉の通り、まっすぐと突進していきます。その姿は、自分が決めた道を疑いなく進む姿に例えられます。

ヨガの道を進むと決めたら、自分の進むべき道をひたむきな努力で進んでいくことが大切です。

4.ヌリシンハ(人獅子)

ヌリシンハはヌリ(人間)の身体とシンハ(ライオン)の頭部をもちます。

アスラ(阿修羅)族のヒラニヤカシプは、苦行を積み、神とアスラにも、人と獣にも殺されない身体を与えられます。実質不死身になったヒラニヤカシプは天界を侵略し、神々を追放します。

そのヒラニヤカシプを退治するためにヴィシュヌ神はヌリシンハ(人獅子)となります。ヌリシンハは人でも獣でもないため、ヒラニヤカシプを退治することができました。

このヌリシンハは、形にとらわれない神の普遍性を表していると言われます。

私たち人間は「日本人だから」「女性だから」「もう若くないから」と、自分を型にはめて制限を設けます。

しかし、ヨガを学ぶことによって、自分自身の無限の可能性に気が付くことができます。

ヨガによって、常識や思い込みに囚われない本当の自由を手に入れることができます。

5.ヴァーマナ(小人)

アスラ(阿修羅)族のバリは、天界に攻めこみ、神々は追放されてしまいます。そうしてアスラ(阿修羅)であるバリは3界を統治するようになりました。

バリを称える祭りが開かれていた時、バリは民衆に施しを授けていました。

小人(ヴァーマナ)の姿で現れたヴィシュヌ神は、バリに「自分の3歩分だけの土地を与えて欲しい」と頼みます。

バリがその願いを了承すると、ヴァーマナ(小人)は神としての本性を現し、1歩目で地上を、2歩目で天界を跨いでしまいます。

バリはヴィシュヌ神の本性を前にして敬意を示し、自分の頭を低くして差し出します。

ヴィシュヌ神はその徳の高さに感心します。そして、バリの頭を地面の下まで踏み沈め、地底界を統治する役割を与えます。

この神話によりヴァーマナ(小人)は、エゴを取り去る象徴とされています。

6. パラシュラーマ(武人)

パラシュラーマは、斧を武器とした武人です。

彼が生まれた時代、クシャトリヤ(王族・武族階級)が勢力を持ちすぎ、本来1番上位の階級であるバラモン(司祭)が退けられていました。

パラシュラーマはバラモンである父をクシャトリヤ(王族)に殺され、その恨みからクシャトリヤ(王族)たちを殺しました。

パラシュラーマは、3つのグナ(性質)のバランスの乱れによって生まれた混乱を消し去る象徴とされています。

世界には常に調和のとれたバランスがあります。何かが過剰になっても、足りなくなってもいけません。

教典『バガヴァッド・ギーター』では、第6章で節度について説きます。

ヨガの練習は、過剰に行いすぎても、怠慢になってもいけません。断食を行いすぎることも、食べ過ぎることもよくありません。ヨガではバランスが大切なのですね。

世界を作り出す3つのグナ:サットバ・ラジャス・タマスを知ろう

神話を通して楽しく学びましょう

今回は10のアヴァターラのうち最初の6つについてご説明しました。

後編では、クリシュナ神やブッダといった、馴染み深い存在が登場します。

ヨガ哲学は難しいと思われがちですが、神話を通して学ぶのは楽しくて入りやすいかもしれませんね。

ヨガジェネレーション講座情報

ヨガ哲学に興味のある方におすすめ