仏教の僧侶が日の出の山頂で瞑想する姿

ヨガに影響を与えた仏教の五戎:苦しみを生まないための教え

ヨガの教えで最もポピュラーなものの1つにヤマ(制戒)があります。

ヤマは日常生活で取り入れやすい教えなので、ヨガを行っている人にとっては馴染みが深いものではないでしょうか。

ところで、ヨガの8支則のヤマとニヤマは、古代のヨガにはなかったと言われ、実はヨガと同時代に発展した仏教やジャイナ教の教えの影響を受けたのだと考えられています。

日本人にとって馴染みの深い仏教とヨガの関係は興味深いですね。

ヤマの教えに影響を与えた仏教とジャイナ教

現在まで伝わるもっとも有名なヨガの教典は『ヨガ・スートラ』です。西暦4~5世紀ごろに成立したと言われています。

ヨガ・スートラが書かれた時代はインドで多くの哲学が発展した時代でした。

インドの正式な哲学は6派哲学と呼ばれていますが、非正統派と呼ばれる教えにもヨガに影響を与えた流派が沢山あります。

その中でも仏教とジャイナ教はヨガ・スートラに大きな影響を与えました。

ヨガ・スートラの前にもヨガについて書かれたいくつかの文献があります。しかし、現在のヨガとは少し違う部分もあります。

紀元前2世紀ごろに書かれた『マイトラーヤナ・ウパニシャッド』という教典には、6支則(シャッタンガ・ヨガ)という教えが書かれています。

これは、ヨガ・スートラの8支則(アシュタンガ・ヨガ)から、最初の2つであるヤマとニヤマが欠けた教えです。

もしかしたら、その時代のヨガには、ヤマやニヤマといった日常的に気を付けるべき教えがまだ含まれていなかったのかもしれません。

では、ヤマとニヤマはどこから来たのでしょうか?

ヤマにとても近い教えは、仏教とジャイナ教の2つの宗教でみられ、ヨガに取り入れられたのだと考えられています。

仏教の五戎とジャイナ教の五禁戎

仏教とジャイナ教を象徴する2つの象のイメージ
仏教には五戎(パンチャシーラ)という、5つの禁止するべき行為があります。

  1. 不殺生戒:生き物を故意に殺してはいけない。
  2. 不偸盗戒:盗みを働いてはいけない。
  3. 不邪淫戒:婚姻関係以外の肉体関係をもってはいけない。
  4. 不妄語戒:嘘をついてはいけない。
  5. 不飲酒戒:お酒を飲んではいけない。

多少の違いはありますが、ヨガのヤマととても似ていますね。

同時代に発展したジャイナ教徒は、5つの大戒律(マハーヴラタ)をより厳しく守ります。

  1. アヒンサー :非暴力、非殺生
  2. サティヤ :正直、嘘をつかない
  3. アステーヤ :盗まない
  4. ブラフマチャリヤ :禁欲
  5. アパリグラハ :無所有

ジャイナ教のマハーブラタは、そのままヤマに当てはまりますね。

ジャイナ教では、5つの戒律の中でもアヒンサーを第1特に厳守します。特に食事に関してはルールが厳しく、在家※1の信者でも厳格な菜食主義者です。

インド流、アヒムサ(非暴力)で丁寧な食事の摂り方

  • ※1 在家:出家せず、家庭生活を営む人。

仏教の五戎をみてみましょう

村の人々から施しを受ける仏教の僧侶の姿
今回は、日本でも馴染みの深い仏教の五戎を1つずつ深掘りしてみましょう。

不殺生戒(ふせっしょうかい)

1つ目の不殺生戎は、故意に生き物の命を奪ったり、傷つけたりしてはいけないという教えです。

ヨガのアヒンサーと同じですね。

アジア諸国に広く広まった仏教では、ジャイナ教ほど厳格な不殺生ではなく、宗派や国によって解釈に違いがあるようです。

日本を含めて、タイやミャンマーなどの多くの仏教国では肉食を行う国が多く、また害虫の駆除も許容されていることが多いです。

厳格な仏教の宗派では殺生を禁止するため菜食主義の人もいます。

その土地ごとの文化や風習に合わせながら、出来ることを気を付けるのが良さそうですね。

不偸盗戒(ふちゅうとうかい)

他人の所有物や財産などを盗まない誓いは不偸盗戒といいます。ヨガではヤマの中のアステーヤ(不盗)と同じです。

他人の持っているものを盗むだけではなく、不正な取引、詐欺や裏取引、賄賂、捏造なども避けるべきと考えられています。

宗教を悪用して、信者から金銭を不当に搾取する行為も不偸盗戒に入ります。

盗みを行う行為は「自分の元に富を集中させたい、独占させたい」というエゴが原因です。

自己中心的な思考は、苦しみや衝突を生みやすいものです。

自分に与えられたものを楽しみ、富を独占せず、他者の幸福も喜べるような心になると、本当の幸せを感じやすくなります。

与える人になろう。~アステイヤ(不盗)で得られる大きな富~

不邪婬戒(ふじゃいんかい)

婚姻関係以外の性行為を禁止するのは不邪婬戒という教えです。

厳格な仏教では売春や自慰行為も禁止されています。それによって、夫婦間の誠実さが保たれます。

ヨガではブラフマチャリヤ(禁欲)という教えがありますが、不邪婬戒とは多少違いがあります。

伝統的に在家の信者が多い仏教では、夫婦間での関係は認められています。それに対して、伝統的に出家僧がメインであったヨガでは、修業期間のあらゆる男女関係を否定する場合が多いです。

ヨガの場合、修業の期間はヨガだけに集中するべきであり、それ以外の魅力的な事柄に意識を奪われることを避けます。

不妄語戒(ふもうごかい)

偽りの言葉を意図的に話すことを禁止するのが不妄語戒です、ヨガのサティヤ(正直)の戎に似ていますね。

また、ゴシップ、過激な発言、悪意のある発言も慎むべきです。著名人が言った言葉を、都合よく切り抜いて違う意味で捉えるように仕向けるのも不妄語戒に反してしまいます。

他人をおとしめるような言葉、誇張、ほのめかすような言葉も正しくありません。

「人生が変わるヨガ、体質が変わって激やせできるヨガ」の様に、大げさに言ってしまうことも注意したいですね。

ヨガや仏教では、常に真実を求めます。

自分自身の発言が偽りであれば、真実は遠くなってしまいます。誠実であり、嘘を言わないことは、自分自身の本当の幸福を知ることにも繋がります。

心が軽くなる本当の正直さ『サティヤ』

不飲酒戒(ふおんじゅかい)

理性を妨げるようなアルコール、薬物を摂取することを禁止するのが不飲酒戒です。

飲酒は理性を見失わせて、自分自身のふるまいをコントロールできなくしてしまいます。依存症も強く、判断力や自制心を奪ってしまいます。

ヨガの教典では禁酒についての規制は説かれていませんが、ヨガの聖地と言われるインド・リシケシュなどではアルコールの販売を禁止しています。

ヨガにとってもアルコールは良くないものであり、当たり前のように避けられてきたのですね。

日常を規則正しく生活することで訪れる幸せ

五戎やヤマの教えは、「これをしてはいけない」という道徳的なものが多く、制限をかけられているような窮屈さを感じてしまう人もいるかもしれません。

しかし、本来これらの教えは、幸福に近づくための方法として考えられたものです。

私たちは間違った行動をしてしまうと、苦しみを作り出してしまいます。自分自身の行動によって苦しむことを避けるために、避けるべきことを教えてくれています。

それぞれの教えの本質を理解すると、強制されるのではなく、自ら教えを歩めるようになってきます。その結果、思いもよらない幸福が訪れることがあります。

例えば、他者の富を尊重して不偸盗戒を守った結果、他人から奪わなくてもさらに大きな富が与えられることがあります。

実践していく中での自分自身の人生の変化を感じられるといいですね。

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