10の頭のある蛮神ラーヴァナとラーマー王子が戦うシルエット

インド神話ラーマーヤナが教える10の苦しみの資質

ヨガ発祥の地インドでは、神話によって哲学や道徳を説くことが多いです。

今ではヨガの教典として知られる『バガヴァッド・ギーター』も、『マハーバーラタ』という巨大な叙事詩の1部分です。

そして、マハーバーラタと並ぶインドの2大叙事詩に『ラーマーヤナ』があります。

ラーマーヤナは主人公である王子ラーマーが、魔王に奪われた妃シーターを助けに行くストーリーですが、
そんな神話の中にも、様々な教えが含まれています。

10の頭のある蛮神ラーヴァナが示す10の特徴

10の頭のある蛮神ラーヴァナとラーマー王子が戦う様子のイラスト
ラーヴァナは20の腕と10の頭を持つラークシャ(魔族)の王です。

叙事詩ラーマーヤナでは、ラーマー―王子の妃であるシーターを、ラーヴァナが強奪し自分の妻にしようとしましたが、助けに来たラーマーによってラーヴァナは滅ぼされてしまいます。

さらわれたお姫様を王子様が救いに行く、とてもロマンチックな神話なのですね。

シーターは救出されたものも、その後、結局悲劇で幕を閉じます。気になる方はぜひラーマーヤナを呼んでください。

10の頭が意味する資質の特徴

悪の象徴のような蛮神ラーヴァナですが、10の頭はそれぞれ人が抱く苦しみの資質を表していると言われます。

  1. Kama (欲望)
  2. Krodha (怒り)
  3. Moha (妄念)
  4. Lobha (貪欲)
  5. Mada (プライド)
  6. Maatsarya (嫉妬)
  7. Buddhi (知性)
  8. Manas (思考)
  9. Chitta (心)
  10. Ahamkara (エゴ)

ここに書いた10の資質は、誰もが持っているものばかりです。快楽を知り、欲望を抱くと、徐々に人々は悪徳(悪い行い)に導かれます。

しかし、ラーヴァナの示す10の資質は、ネガティブなものばかりではありません。

人間とは、善悪の2つで簡単に分類されるものではなく、良い部分も悪い部分もが混ざり合って作られています。

そのため、ブッディ(知性)のような正しい特性が備わった人であっても間違いを起こしてしまいます。

それぞれの資質を見ていきましょう。

1.Kama (欲望)

カーマという言葉は、「喜び、快楽、愛情」といった意味もあります。人々の心を強く捕えて、執着を生み出すものです。

インドではカーマは人生の4つの目的(プルシャールタ)の1一つとしても説かれています。

人生で与えられた環境を楽しむことはとても素晴らしいことです。

危険なのは、1度得た快楽に対して「もっと欲しい」「失いたくない」「独占したい」と執着し、欲望を膨らませることです。

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2. Krodha (怒り)

怒りの感情は私たちの知性を奪い、破滅に向かう行為を生み出します。

バガヴァッド・ギーターによると、怒りは欲望から生まれます。「こうなって欲しい」と望んだものが叶わない時に、人は怒りの感情を抱きます。

私たちが怒りを抱く内容と、物事の本当の善悪には関係性がありません。自分が何を望んでいるかによります。

「誰もがルールを守るべき」と望む人にとっては、ルール違反をする人は如何なる理由があっても許しがたいものです。

「私の子供は1番であって欲しい」と望む母親であれば、平均的な成績の子供に対しても「努力が足りない。あなたのためを思って言っているの!」と感情的に怒ってしまうでしょう。

欲深い母親であれば、息子の成績が11番であっても、満点でないと11つのミスに対して怒るかもしれませんね。

怒りの感情を抱いている時、私たちは自分を正当化しようとします。自分は正しいのだという根拠を、自分の都合に合わせて考えます。

それによって、周囲との意見の相違が生じたり、他者を強く否定したりしてしまいます。

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3. Moha (妄念)

怒りによって人の判断能力を曇らせ、妄念が生まれます。自分にとって都合が良いことを正当化するために、あらゆる間違った妄想を膨らまします。

例えば、子供が望んだとおりに勉強をしてくれないとします。

すると、母親は怒りを抱きます。勉強しない子供に対して怒った親は、「勉強して欲しい」という自分の欲望を正当化しようと思考を働かせます。

「私が学生時代にスポーツだけが得意だった子たちは、その時はモテても、結局大人になったら勉強をしてきた人に比べてさえない人生になっているのよ。」

「友達の○○君が、うちの子をダメにしているの。自分が勉強が嫌いだからと、一緒に引き落とそうとする。だから私が子供の友人関係を見張ってあげないと。」

このように、勝手に善悪を決めつけて、自分の都合の良い方に考えを膨らませてしまいます。

4. Lobha (貪欲)

貪欲さは幸福を遠ざけてしまいます。

例えばダイエット。最初は「5キロ痩せたら来たい洋服が着られて幸せなはず。」と思って始めるのですが、実際に5キロ痩せてみたらどうなるのでしょう?

まだ二の腕がたるんでいる、洋服を着たら分からないけど下腹が実は出ていると、完璧でない部分の粗探しが始まってしまうことがあります。

「もっと欲しい、まだまだ足りない」と、途切れずに欲望を抱き続けることが貪欲さです。

5キロ痩せた時点でしっかりと喜びを味わい自分を褒めてあげるべきです。

その都度、今与えられたものを味わい、楽しむことが人生のコツです。

未来に欲しいものに対して意識を向け続けることは、今の自分を犠牲にしていることに気が付きましょう。

5. Mada (プライド)

プライドを持って生きることは、とてもポジティブなことだと感じられます。しかし、このプライドの高さも方向性を間違えると苦しみの原因となります。

プライドはアハンカーラ(自我意識、エゴ)と通じています。

自分に対しての意識が強すぎると、周囲との衝突を生み出しやすくなります。

他者から見た自分が、自分の求める自分象と違う時に受け入れることができなかったり、自分の評価を極端に気にしたりしてしまいます。

6. Maatsarya (嫉妬)

人は自分の幸福を相対的に評価しがちです。誰かと比べて「自分の方が上」「自分は劣っている」と比較し、一喜一憂します。

そして、自分よりも多くのものを得ている人に対して嫉妬や妬みの感情を抱きます。

誰かと比べて幸福をジャッジする相対的な見方はとても危険です。必ず勝者と敗者を生み出し、負けた相手は苦しみを抱きます。

同時に、自分の幸福を得るためには、常に誰かを蹴落とさなくてはいけなくなります。

物事を相対的にジャッジすることをやめて、自分にとっての本当の幸せとは何かを考えることがとても大切です。

7. Buddhi (知性)

ブッディ(知性)は、物事を正確に認識する正しい見識です。

ヨガでは、ブッディを確立することによって幸福を知ることができます。

苦痛を生み出す蛮神ラーヴァナにも、正しい認識であるブッディが備わっています。

人間はとても複雑です。一見悪人と呼ばれる人であっても、その人なりの正義がある場合があります。

芸能人のゴシップや政治のフェイクニュースは誰も幸せにしないものですが、100%の嘘であれば誰の関心も集めません。一部だけ真実が混ざり、それを間違った解釈でストーリーを組み立てることによって、人々が信じたくなるような嘘が出来上がります。

政治家の会見の1部だけを切り抜いて、逆の意味を作り出してしまうこともありますね。

間違った妄見の中にも、正しい認識であるブッディが存在することによって、世界は複雑になっています。

8.Manas (思考)

私たちが見ている世界は、実はあるがままの姿ではないのかもしれません。

思考というフィルターを通すことによって、同じ光景を見ていても全く違う感情を抱きます。

例えばアフリカで泥沼の水をすくっている子供の写真を見たとします。

ある人は「水たまりで遊ぶ無邪気な子供可愛い」と思うでしょう。別の人は「水不足で泥水をすすっているのね。なんて悲惨な。」と考えます。

実は、世界を決めているのは全て思考なのかもしれません。

9. Chitta (心)

ヨガ・スートラでは、「ヨガとは心(チッタ)の働きを止滅すること。」と説きます。

チッタ(心)とは、ブッディ(知性)、アハンカーラ(エゴ)、マナス(思考)の33つを合わせたものです。

本来は美しい世界であっても、心のありようによって「良い悪い」とジャッジをし、不安や恐怖を生み出し、人は苦しみを生み出します。

心を止めることとは、純粋な状態に戻ることです。心によって築き上げられた思い込みを手放した時、世界はとても美しいかもしれません。

10. Ahamkara (エゴ)

アハンカーラ(自我意識・エゴ)は、苦しみを生み出す大きな要因です。

人は自分と他者を「別物」だと認識することから様々なジャッジをするようになりました。

私にとって唯一無二の大切な存在が「私」だけであるため、自分に富を独占したいと思い、自分が他者より劣っていることが許せなくなってしまいます。

すると人は自己中心的になり、個々が富を求めることによって、全体の調和が壊れてしまいます。

バガヴァッド・ギーターでは、「自分も他者も、敵も味方も、動物も人間も平等である」ということを教えてくれます。

個人という枠で判断するのではなく、全体の調和やバランスを大切にすることで、誰かと争うことなく幸福に近づくことができます。

自分の中の苦しみの資質を見直す

二つに分かれた道の間で道の先を行く天使と悪魔の後ろ姿を眺める一人の人
今回は、インドの蛮神ラーヴァナが教えてくれる、苦しみを生む10の資質を見ていきました。

苦しみの資質は、誰の心の中にもあるものばかりでしたね。

だから私たちは、ヨガによって自分を客観的に見るべきです。

どうして悩みが生まれてしまったのかを理解できれば、今ある不安や恐怖を解消していくことができるでしょう。

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