手には紙、足元にはモーダクを置いたガネーシャ神のイラスト

ガネーシャ誕生祭に面白いインド神話あれこれ

8月はインドではクリシュナ神、ガネーシャ神とヨガにゆかりの深い神様の誕生日が続きます。

8月末から9月上旬の新月から4日目は、ガネーシャ・チャトゥルティーというガネーシャ神の誕生祭が行われ、2022年の今年は8月31日がガネーシャ神の誕生日です。

今回は智慧の神様として、ヨガにもゆかりの深いガネーシャ神についてご紹介します。

ガネーシャ神の誕生日は自宅にお招きして一緒に祝う


ガネーシャ神はインドだけではなく、仏教の国でも愛されている人気の高い神様ですが、そのガネーシャ神の誕生日の祝い方には、特徴的な作法があります。

ガネーシャ・チャトゥルティーの前日の夕刻に、各家庭にガネーシャ神がやってきます。

特にガネーシャ神信仰の強いインドのムンバイなどでは、ガネーシャ神人形のお店から自宅まで盛大なパレードを行って自宅までお連れします。

町中にはパレードの太鼓の音が響き、家庭に招く場合もあれば、お寺、近所の人で予算を出し合って特設のテントにお招きする場合もあります。

ガネーシャ神が自宅に来ると、24時間必ず家族の誰かが付き添って大切なゲストを退屈させないようにします。

ガネーシャ・チャトゥルティー当日の町は少し静かですが、各家庭では盛大な誕生日パーティーが行われています。

自宅にガネーシャ神を迎えていない人たちも、親戚やお寺に来たガネーシャ神にお菓子を持って挨拶に行きます。

特に日暮れのアルティ(祈り)の時間には、みんなで歌を歌いながら火を使った祈りを行い、ガネーシャ神の周りには沢山の果物と、大好物のモーダク(甘い蒸し団子)が並びます。

ガネーシャ神は、このモーダクというお菓子が大好きで、それに関する逸話も残っています。

月とガネーシャ神の神話

ガネーシャ神は自分の誕生日に大好物のモーダクを沢山食べました。お腹の中にはパンパンにモーダクが詰まっています。

誕生日パーティーが終わりネズミに乗って帰っていると、夜道に1匹の蛇が現れました。

ガネーシャ神の乗り物であるネズミは蛇に驚き、バランスを崩したガネーシャ神は転倒してしまいました。

転んだ時にパンパンに膨れたお腹がパックリと裂けてしまい、中からモーダクがコロコロと転がってしまいます。慌ててガネーシャ神はモーダクを集めて、再びお腹に戻すと蛇で結びました。

それを見ていたのは空に輝く月です。月はガネーシャの失態をケラケラと笑いました。

馬鹿にされたガネーシャ神は怒り、自分の片方の牙を折って月に投げました。

ガネーシャ神の牙によって月は欠け、その時から月は満ち欠けするようになりました。

このように、ガネーシャ神と月は相性が悪く、今でもガネーシャ・チャトゥルティーの当日には月を見てはいけないという伝統があります。

虚栄心を取り除いてくれる神話

この月とガネーシャ神の神話を読むと、インドの神様は完璧ではなくて、人間臭いこともあるのだと感じますね。

このような奇想天外なインド神話からも学ぶことがあります。

ガネーシャ神と仲の良くない月は、自分自身の美しさに自尊心を持ち過ぎた結果、太ったガネーシャ神の失敗を馬鹿にして笑います。

自分のことを愛することは大切ですが、それによって虚栄心や自尊心を大きくし、傲慢になってはいけません。

馬鹿にされてすぐに怒ってしまうガネーシャ神も人間臭いところがありますが、そんな滑稽な逸話さえガネーシャ神の愛くるしさを引き立てる神話としてインドで語り継がれています。

バガヴァッド・ギーターともゆかりの深いガネーシャ神


このガネーシャ神は、ヨガの教典として知られる『バガヴァッド・ギーター』とも深い関りがあります。

バガヴァッド・ギーターは『マハーバーラタ』という巨大な叙事詩の一部分を抜粋したものです。

マハーバーラタの著者はヴィヤーサだと知られていますが、この聖者は字を書くことができませんでした。

古代インドでバラタ族という王族のドラマを目撃した聖者ヴィヤーサは、そのストーリーを後世まで伝えたいと考えましたが、ヴィヤーサは字を書くことができなかったため、学問の神であるガネーシャ神に会いに行きました。

ヴィヤーサは、自分が目撃した一族のストーリーを話すから、ガネーシャ神に文字に書き起こして欲しいと依頼します。

ガネーシャ神は快く承諾しましたが、1つだけ条件を出します。それは、“最初から最後まで1度も止まらずに話し続ける”ということです。

ヴィヤーサが納得すると、ガネーシャ神は自分の牙の片方を折り、牙を筆の代わりにして書きおこしを始めました。

バラタ族のストーリーはとても長いものだったため、途中ヴィヤーサは話に詰まってしまいそうなことが何度もあり、その度に別の神話を持ち出したりして話を繋いだため、マハーバーラタは世界でも類を見ないとても長い叙事詩となりました。

マハーバーラタの原文が分かりにくいのも、ヴィヤーサが一生懸命思い出しながら話したからなのですね。

この巨大叙事詩マハーバーラタのエッセンスと言われているのが、第6巻の一部であるバガヴァッド・ギーターです。

バガヴァッド・ギーターは、戦場を前にして怖気づく王子アルジュナに、先生役のクリシュナ神が教えを説く場面です。

バガヴァッド・ギーターの場面はとても短いながら、世界のしくみやヨガの真理が上手くまとめられています。

このように、ガネーシャ神の牙が片方欠けているのには複数の神話が存在し、そのどれも、ガネーシャ神の性格を表す興味深いものばかりです。

ガネーシャ神はその姿で学問を与えてくれる

智慧の神様であるガネーシャ神ですが、実はその姿そのものが生きるための教えだと考えられています。

その中の1つをご紹介します。

小さな目は集中力を表す


愛くるしいイメージのガネーシャ神ですが、実は目は顔の大きさに対してとても小さいです。小さい目は高い集中力を表します。

現代社会は集中力を保つことがとても難しい時代だと感じることがあります。

何か知りたいことがあった時に、以前は本屋や図書館に行って情報を探さなくてはいけなかったことが、簡単にインターネット検索で答え合わせのできる時代になりました。

たった数秒で知りたかった情報が手に入ることは便利ですが、1つのことに集中する時間はぐっと短くなりました。

娯楽について考えても、以前は決まった時間に映画館に行って2時間集中して映画を見ていたのに、今では1時間のテレビ番組も集中できずスマートフォンを触りながら見ていたり、動画サイトも10分では長いと感じてしまったりする人もいることでしょう。

とても便利な時代になりましたが、同時に私たちは1つづつの出来事をじっくりと味わう喜びを失ってしまっています。

ガネーシャの目が小さいのは、外の世界からの不必要な情報に意識を囚われないためです。

自分にとって本当に大切なことに時間と意識を注ぐことで、人生の豊かさが増大します。

ヨガでは自己の内側に意識を向けます。そのためにも、外からの情報を遮断することは不可欠です。じっくり自分に向き合い、対話を楽しむことも教えてくれています。

このようにガネーシャの姿は、そのものがヨガの教えになっています。詳しくは過去の記事もご覧ください。

ガネーシャ神の暗号〜深淵なる叡智の象徴〜

ガネーシャ神には甘いお菓子でお祝いを


ヨガの生まれた国、インドの神様はチャーミングな神話や姿を通して、私たちに知恵を与えてくれます。

その中でも、ガネーシャ神は特に人気が高い神様ですので、ヨガスタジオや自宅にガネーシャ神の像をお持ちの方も多いと思います。

ぜひ、ガネーシャ神の誕生祭には好物の甘いお菓子や果物をお供えして、私たちの学びを与えてくれる存在に感謝してみてはいかがでしょうか。

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