満開の桜の木々に囲まれて深呼吸する女性

『肝」を整えて、心も身体も伸び伸びと!~五行から学ぶ春の健康法~

芽吹きの季節。自然界では、木々が枝葉を広げ伸び伸びと成長していく季節です。

私たち人間も自然界の一部なので、身体の中でも同じような現象が起きています。

『春』の暖かさによって体内の陽気が増え、冬眠状態で固まっていた身体が緩んでいき、気が伸び伸びと広がっていくのです。

この気の広がりが強過ぎても、弱過ぎても不調になります。

『春』の不調は『肝』の働きが原因

肝のイラストとお腹に手を当てる女性のダブルイメージ
『春』の不調は、五行学説の中で『春』と同じ『木』に属する『肝』の働きと関係があります。

『肝』の働きが過剰になっていることによって起こる不調

  • 焦る
  • イライラする
  • 怒りっぽい
  • 目がかすむ
  • 目が充血する
  • めまい

『肝』の働きが弱いことによって起こる不調

  • 筋肉がひきつる
  • 手足の痙攣
  • 爪が薄くなり割れやすい

なぜ、『肝』の働きが強過ぎたり、弱過ぎたりするとこのような症状が現れるのか、『肝』の働きと『肝』と同じ『木』に属する身体の領域を見ていくと納得できます。

2つの『肝』の働き

まず、『肝』の働きは2つあります。

「疎泄(そせつ)」という気を全身巡らせる働きと、「蔵血(ぞうけつ)」という血の貯蔵と血流量を調節する働きです。

『肝』には、気を上昇させたり、外へ発散させたりする性質があり、木々が太陽に向かって伸びていくように、また、木々が枝や葉を四方八方へと広げるように、気と血を身体の隅々までに行き渡らせます。

『肝』の働きが強くなり過ぎると、過剰に気が上昇するために、頭部の不調となり、反対に『肝』の力が弱いと、気を広げる力が弱くなり、身体の隅々まで栄養が届かなくなります。

これが『春』に起こりやすい身体の不調のシンプルなメカニズムです。

『肝』の影響が出やすいポイント

目の疲れのために目元を手で押さえる女性
特に、『肝』と同じ『木』に属する、『目』、『涙』、『筋』、『爪』に影響が出ます。

『肝』の経絡を通じて『目』に血が送られます。その為、『肝』の気を上昇させる働きが強過ぎると、気と共に身体の中の熱も上昇し、『目』に熱が上り、『目』の充血が起こります。

一方、『肝』の働きが弱いと、『目』に栄養が行き渡らなくなり、『目』のかすみや『目』の乾きなどの症状が現れます。『目』を潤し、保護する『涙』も少なくなってしまいます。

腱、靭帯、筋膜、筋組織などに相当する『筋』は、『肝』の「蔵血」の働きと関係があります。

『肝』の血流量を調節する働きが低下すると、『筋』に栄養が届かず、筋肉のひきつりや手足の痙攣が起こるのです。

また、『爪』は「筋余」といわれ、『筋』が変化して『爪』が出来るとされているため、『肝』の働きが弱くなると『爪』にも充分な血が行き渡らなくなり、『爪』が薄くなったり、割れたりします。

『肝』が与える感情への影響

感情面では、『怒』が『肝』と同じ『木』に属します。

『肝』の気を上昇させる力が強くなり過ぎると、『怒』として現れます。感情の荒ぶりを「頭に血が上る」や「青筋が立つ」などと表現しますが、これも『肝』の上昇の働きが過剰になっていることを表しています。

ちなみに、『青』は『肝』と同じ『木』に属しており、本当に『怒』っている人の顔は赤ではなく『青』くなります。

このように、五行における『木』に属するものが『春』の不調と深い関係があるのです。

『春』の不調を予防・解消法

では、どのように『春』の不調を予防、解消すれば良いのか、古典医学書の教えに基づいてお伝えします。

味の調和に注意

5つの味覚を代表する食品と舌を出した口元
まずは、味についてです。

古典医学書「黄帝内経」の「生気通天論篇」には、以下のように書かれています。

飲食の五味の調和に注意すれば、骨格は歪まず、筋脈は柔軟で調和し、気血は流通し、腠理は緻密でしっかりする

バランスよく五つの味を摂ることで、骨も筋肉も肌も健康的になるということです。

この「生気通天論編」の「生気通天」とは、天人相関の意味で、天は自然界、「生気」とは人体の生命活動を指しています。

人間の生命活動と自然界は、離れる事ができないので、五味も全て自然界から摂取する事が望ましいとされています。

5つの味が臓器を元気にする

五味とは、五臓が求める味で、各臓器に対応する味を摂ることで、臓器を元気にします。

『肝』は『酸』、『心』は『苦』、『脾』は『甘』、『肺』は『辛』、『腎』は『鹹』(塩辛さ)です。

『辛味』には、発散作用があり、『酸味』には収斂作用があり、『甘味』には緩める作用があり、『苦味』には、強く丈夫にする作用があり、『鹹味』には柔らかくする作用があります。

『春』は、『肝』を整えることが大切なので、発散作用がある『辛味』と緩める作用がある『甘味』をバランス良く摂ることが大切です。

『肝』の働きが強過ぎている場合には、『辛味』を抑えます。

『肝』と同じ『木』に属する『酸味』は、気の広がりを抑える作用があるので、気が上がり過ぎて怒りっぽくなっている人はしっかり摂った方が良いですが、虚弱体質の人は、『酸味』の収斂作用によって陽気の成長が妨げられてしまうので、取り過ぎに注意が必要です。

薄荷と菊花をブレンドしたお茶は、『肝』の気を広げる力を促しながらも、興奮状態を調節するので、目が充血しやすいなど、気が上がりやすい方にお勧めです。

ヨガで春の養生を

満開の桜の木々に囲まれてヨガを行う女性の背中
黄帝内経の「四気調神大論篇」では、春について以下のように書かれています。

万物が古いものを推し開いて、新しいものを出す季節であり、天地間の生気が発動して、ものみなすべてが生き生きと栄えてくる。人々は少し遅く寝て、少し早く起き、庭に出てゆったりと歩き、髪を解きほぐし、体をのびやかにし、心持ちは活き活きと生気を充満させて、生まれたばかりの万物と同様にするがよい。

太陽が登る時間が早くなっているので、早起きをして、ゆったりとヨガをすることも『春』の養生になります。

朝寝坊は、陽気の成長を妨げることになってしまいます。

また、ヨガの中に『目』の体操を取り入れ、『目』の浄化であるトラータカ(キャンドルの火など一点を凝視する浄化法)等を行うのも、『春』の不調の解消法としてお勧めです。

黄帝内経には以下のようにも記載されています。

ただひたすらその生長にまかせるべきで、殺害してはならない。ただひたすら成長を援助するべきで、剥奪してはならない。大いに心をはげまし目を楽しませるべきで、体をしいたげてはならない。これが春に適応し、「生気」を保養する道理である。もし、この道理に反すると、肝気を損傷し、夏になって変じて、寒性の病を生じ、人体がもっている夏の盛長の気に適応するという能力を減少させてします。

お花見をしたり、ハイキングで新緑の絶景を楽しんだり、心と身体にスペースをつくり、伸び伸びとした気持ちでいることが、『春』、そして夏の不調を予防することになります。

参考資料

  1. 現代語訳 黄帝内経素問 南京中医学院編 石田秀実監訳/東洋学術出版社
  2. 実用 中医薬薬膳学 辰巳洋 著/東洋学術出版社