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お庭番デイズ~自分のための人助け~

こんにちは!丘紫真璃です。今回は、有沢佳映さんの「お庭番デイズ」を取り上げたいと思います。

この小説では、中学生から高校生の青春真っただ中の女子学生がこれでもかというくらい登場して、にぎやかな女子トークを繰り広げます。

楽しい女子トークを読んでいるだけで気持ちが若返る小説ですが、まだ読んだことがないという方も多いのではないでしょうか。気軽にページをめくりたい気分の時に、ぜひオススメの1冊です。

女子寮を舞台にした「お庭番デイズ」と、ヨガにはどんな関係があるのでしょう。早速、お庭番デイズの舞台、逢沢学園女子寮に遊びにいってみたいと思います。

にぎやかな女子学生の青春物語なら、「お庭番デイズ」

「お庭番デイズ」の作者は、有沢佳映さん。

2009年「アナザー修学旅行」で、第50回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。2014年には、「かさねちゃんにきいてみな」で、第24回椋鳩十児童文学賞、第47回日本児童文学者協会賞を受賞されています。

「お庭番デイズ」は、2020年に出版された比較的新しい本ですが、にぎやかな女子学生が本の中にひしめきあい、ページをめくっていくだけで、逢沢学園の女子寮の一員になったような気持ちにさせてくれる青春小説の傑作です。

お庭番に選ばれる

二人の女性が話す横顔のシルエット
先程もお話した通り、舞台は、逢沢学園女子寮。中学1年生から高校3年生までが通う逢沢学園ですが、その中で寮生活を選んだ一部の女の子達が、この学園の女子寮で暮らしています。

主人公の戸田明日海、みんなからアスと呼ばれているアスは、中学1年生。この女子寮で暮らしています。

女子寮生活も慣れてきた中学1年生の9月。アス達1年生は、寮の全体集会で、寮長の芳野先輩から、女子寮のある伝統についての話を聞かされます。

女子寮の入り口には石碑が立っています。そこには、「ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル」という文字が彫られているのですが、それは逢沢学園の女子寮のモットーだと芳野先輩は言うのです。

「ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル。人が人を助ける。それが、この逢沢学園女子寮のモットーなんです。今まで1年生にはあえて言わなかったけどね。そして1年生には2学期まで内緒にされていることですが、代々、女子寮の寮生は、学園内でのトラブル解決に取り組んできました。要は、人助けね」
(お庭番デイズ 上)

学園で暮らしている寮生にとって、学園は文字通り、“庭”。

そこで起こった困ったことに手を貸すのが寮生の務めだと考えてきた先輩達は、寮生みんなで力を合わせて、トラブル解決をしてきたのです。

芳野先輩は、そんな話をして、こう続けます。

「人助けは寮生みんなでやりますが、問題解決にはまず情報収集が大事です。偵察隊ですね。逢沢学園女子寮では代々、この役目は、お庭番と呼ばれています」
(お庭番デイズ 上)

今、お庭番を務めている3人の先輩たちが来年卒業してしまうので、新しいお庭番を決めなくてはいけないと先輩は続けます。

そして、その新しいお庭番を、アスと、アスと同じ101号室で暮らしている侑名、恭緒の3人にやってもらいたいと思っていると先輩は言います。

「もちろんこれはあくまでも推薦だけど。101(アス、侑名、恭緒の3人が暮らしている部屋番号)が適任だろうっていうのは、2年生以上の寮生と、寮監先生と副寮監先生の協議による総意です」
(お庭番デイズ 上)

3人でよく話し合って引き受けるかどうか、1週間後の全体集会までに決めてくれと、先輩はにこやかに101の3人に告げます。

アス、全力で拒否る

机に頬杖をついて思い悩む女子中学生
アスは、お庭番なんて絶対引き受けたくないと思います。「寮生が人助けをすることだって、お庭番だってステキな制度だし、それが代々続いているなんて感動的だとは思うけど、ステキだとか感動だとか思えるのは、自分が選ばれなければの話だ」と思うのです。

アスは、自分は助けるよりも助けられる側の方が向いているとさけび、先輩達に向かって泣き声で訴えます。


「とにかくそんな重要な役、絶対ヤですから! 荷が重いし、わたし人のダークサイドとか超苦手だし、とにかく困ったことからは全力で目をそらすタイプだし、人間関係は『浅く明るく楽しく』がモットーなのに! そのわたしを指名しますか!」
(お庭番デイズ 上)

そんな面倒なこと絶対にやりたくない! 今の平穏な日常を守りたい~!

アスはそう強く思い、どうにかしてお庭番の仕事を断りたいと思いますが、侑名と恭緒は、推薦されたんならやってもいいというスタンス。

でも、アスがイヤなら断ってもいいと侑名と恭緒が言ったため、アスは、どうにか推薦を取り下げてもらおうと、芳野先輩をはじめ、寮に住む2年生から6年生までの様々な先輩のもとを回って、あらゆる手段で訴えます。

寮長、副寮長先生にまで直談判をしに行くアスですが、どこに行っても、アス達101の子達が、お庭番に適任だと説得されてしまうばかり。

たくさんの先輩や、先生達に説得されるうちに、アスはだんだん、自分達が引き受けなくちゃどうしようもないのかなあと思い始めます。

そうこうするうちに、次の全体集会がいよいよ明日に迫ってきました。アスは、お庭番を引き受けるかどうか、覚悟を決めなくてはいけません。

洗濯物を干しに屋上に上がったアスは、芳野先輩がビニールプールに水をはって、足湯ならぬ足水をしているところに出会います。

アスは、芳野先輩のビニールプールに一緒に足を入れさせてもらい、「観念した方がいいと思いますか?」と、芳野先輩にたずねます。

自分さえ覚悟を決めたら、後の2人は意外とお庭番に乗り気だし、自分だって助けられる側がいいなんて言ったけど、本当はちょっとだけ助けるとかもしてみたいんだとアスは続けます。

すると、芳野先輩はほほえんで、アスはやさしいね、と言ってくれます。

「やさしくないです! だって、人には笑っててほしいとは思うけど、えーっと、正確に言えば人がいやな気持ちになるのがいやなんじゃなくて! 人がいやな気持ちになってるのを見て自分がいやな気持ちになるのがいやなだけなんです! あー、なに言ってんだろ」
(お庭番デイズ 上)

芳野先輩は、そんなアスに静かに言います。

「その2つは、そんなに変わらないんじゃないかな。それにわたしだってそうだよ」
(お庭番デイズ 上)

アスは、お庭番を引き受けようと心に決めます。

自分のための人助け

ここから、いよいよアスのお庭番ライフがはじまるわけですが、アスがお庭番を引き受けようと決めた最後の芳野先輩とのやりとり。ここに、ヨガとのつながりが見えてくるような気がしないでしょうか?

「ヨガ・スートラ」を開いてみると、不幸を憐れんで、困っている人を助けるようにと繰り返し出てきます。

「人を助けましょう」とは至るところで言われる事なわけですが、パタンジャリは、人助けをするのは人のためではないと言い切ります。

ヨガの目的は、自分の心の平穏を保つこと。

そう、ほかならぬ自分の心の平穏を保つために、人助けをするようにというのです。

アスの言う通り、人がいやな気持ちになっているところを見るのはだれだっていやなものです。人がいやな気持ちになっているところを見ると、自分までいやな気持ちになって、心が乱れるから、人助けをするようにと、パタンジャリは言うのですね。

アスが言ったことと、パタンジャリが言っていることは、見事に重なってきます。

アスに直談判された寮監先生も言います。

「『情けは人のためならず』ってことわざ、知ってる? (略)人に情けをかけるのは結局は自分のためになるっていうのが正解。……長いこと、ここで寮生のこと見てて、人助けっていうのは、人のためだけじゃなくて、自分のためになることもあるんじゃないのかなって。まあ、わたしがおせっかいしなくても、1年生も卒業するまでには同じような考えになると思うけど」
(お庭番デイズ 上)

お庭番ライフを通して、アスは様々な人とふれあい、まわりの人達の意外な一面を知っていくことになります。

そうして、お庭番を通して、少しずつ変化していくアスの成長ぶりは、ぜひ、本を読んでみて下さい!アスのお庭番としての奮闘ぶりも楽しいですよ~。

参考資料

  1. 有沢佳映著 『お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記』講談社(2020年)