目を閉じて呼吸する女性の横顔

プラーナーヤーマで自分を深く知る練習方法

プラーナーヤーマ(調気法)は呼吸をコントロールしながら体内のエネルギーを整えるヨガの実践方法であり、『ヨガ・スートラ』の中では、八支則という実践の4番目の段階として説かれています。

プラーナーヤーマは呼吸器の機能を向上し様々な健康への効果が期待できますが、それ以上に、自分自身を深く知るための最も適した練習の1つでもあります。

プラーナーヤーマで自分を知るための練習方法をスワミ・ヴィヴェーカナーンダ氏の教えをもとに紐解いてみます。

自分のこと知っている?プラーナーヤーマで自分を観察

人体解剖図とクエスチョンマーク
プラーナーヤーマは自分の内側を知るためのとても深いヨガの練習です。

そしてプラーナとは、私たちが生きるために必要な生命エネルギー(気)です。

人のあらゆる活動はプラーナの動きによって行われます。

身体の筋肉を意識的に動かすこと、無意識に行われる内臓の働き、呼吸はもちろん、思考の働きも微細なプラーナの働きによって生まれます。

つまり、体内に流れるプラーナの働きを知ることは自分自身を知ることに繋がります。

一般的に人は自分の身体の中のことを何も知らないと言われています。

現在ではレントゲン撮影によって自分の身体の内側を見ることができますが、ヨガが栄えた時代には、人が死んで解剖されない限りその人の体内は知られないものだと考えられていました。

しかしヨガの聖者は、人が自分の内側を知らないのは意識が外に向き続けていて、内に向かないことが原因だと考えます。

外に向いた意識を内に向けることは簡単ではありません。少しずつトレーニングを行うことで叶います。

ライオンや象や虎が徐々にコントロールしていく様に、プラーナも同様にする。さもないと、修行者を害する。(ハタヨガ・プラディーピカ2章15節)

プラーナのコントロールについて詳細を説くハタヨガの古典教典の中でも、プラーナーヤーマの実践は時間をかけて徐々に深めるようにと指示されています。

体内に入った息から身体の内側を知る

自分を知るためには呼吸の観察から始めます。

息を吸って自分の身体の中に入ってきた空気が、微細なプラーナとしてどのように体に取り込まれるのかを観察しましょう。

体内では、神経信号(電気信号)が身体の隅々まで情報を届けていますが、その微細な電子信号の流れを観察することができれば、自分の体内の中を知ることができます。

物質ではない体内のエネルギーの波動を観察することは容易なことではありません。しかし、古代のヨガ実践者たちは、解剖学などの西洋医学が発展する前から、ヨガによって人の身体について深く理解してきました。

そうやって古代に発見された身体のしくみは、現代になって西洋医学の観念から見ても理にかなっていることが多く、とても興味深いことです。

深いプラーナーヤーマを行うための条件

ヨガマットと植物が置かれた部屋
自分を知るためには、とても深いプラーナーヤーマの実践が必要であり、そのためには練習の環境も大切です。

プラーナーヤーマの時間

プラーナーヤーマの練習に最も適した時間帯は、夜から朝に変わる時間(早朝)と、昼から夜に変わる時間(夕方)です。

この時間はエネルギーがとても静かになる時間です。思考の働きも静まり、内側への意識を強めやすくなります。

プラーナーヤーマと食事

プラーナーヤーマの練習は空腹時に行うことが推奨されます。

空腹状態には怠慢さが取り除かれます。そのためインドの人々は、朝の祈りを行ってから朝食を食べる文化があります。

内観力を高めるためには、阻害する思考の働きを鎮めることが大切です。

ニンニク、唐辛子、玉ねぎなどの刺激性の食べ物は厳格な練習には適していないと考えられます。

練習の空間

出来れば、ヨガの練習をするための部屋を設けることが望ましいです。

その部屋は睡眠などに使わない方が良いでしょう。常に神聖な空間として整えておきます。

部屋に入る時には身体を清浄にして、花を飾ることが推奨されます。ヨガの実践のためのエネルギーを整えるのには花がとても適しています。

朝と夕方にお香を焚くことも良いです。

そしてその部屋には、自分と同じような感覚を持った人以外は入れない方がいいでしょう。

これらは、お寺や教会のコンセプトととても似ています。神聖な波動を保つ空間を保つことで、私たちの内側のプラーナも浄化されます。

もちろん、ヨガ専用の部屋を用意することは難しいかもしれません。

その場合も、毎日決まった場所で練習すると良いでしょう。部屋の片隅にヨガマットを引いたスペースで、この場所は自分と向き合う空間だと認識することによって、練習は深まります。

プラーナーヤーマに適した季節

プラーナーヤーマの練習を始めるのには、春か秋の穏やかな気候が適していると言われています。

これは住んでいる地域の気候にもよるので、寒い地方であれば夏が最適なこともあるでしょう。

暑すぎる時期も寒すぎる時期も適しません。また、湿度が高すぎる環境もよくありません。

プラーナーヤーマの実践によって心の働きが弱まる

ソファの上で穏やかな表情で呼吸法を行う女性
プラーナーヤーマは日常よりももっと深く呼吸を行う、つまり、たっぷり息を吸っていると考えている人が多いのですが、実は練習で徐々に息の量を減らしています。

日常の呼吸では、身体の動きや感情に合わせて短く粗い呼吸をしていますが、プラーナーヤーマでは長い穏やかな呼吸をします。

練習の最初の段階では、肺の活動を整えることによって、日常の呼吸の質も上がります。

しかし、練習が深まって呼吸の長さが長くなると、徐々に吸う息の量は減ります。

たとえ1度の呼吸で取り入れる息の量が倍になったとしても、3倍の長さで息を吸えるようになれば、1分間当たりの息の量は減ります。

体内に入ってくる呼吸の流れはミニマムでとても穏やかであり、そのエネルギーの振動は身体の状態や心の状態に反映されます。

静かな呼吸は静かな心の働きとなります。

呼吸を深くするは間違い?伝統的なプラーナーヤーマとは

無意識のケーヴァラ・クンバカで深い瞑想へ

体内のプラーナの動きが穏やかになることによって、心の働きも自然と抑制されます。

プラーナーヤーマでは通常、故意に息を止めるクンバカを行いますが、練習が深まると無意識に呼吸が止まる体験をします。

この状態を古典的なハタヨガではケーヴァラ・クンバカと呼びます。そして、意識は深い瞑想状態に没入していきます。

(ケーヴァラ・クンバカに達すると)ラージャ・ヨガの段階に到達する。それは疑いのないことである。(ハタヨガ・プラディーピカ2章75節)

ハタヨガでは、サマーディ(三昧)状態をラージャ・ヨガと表現します。つまり、プラーナーヤーマの練習を深めることは、瞑想へのダイレクトな道です。

マインドが止まった瞑想状態では、もっと微細なエネルギーの流れも知ることができます。

その結果エネルギーを自在に操るすべも知り、ヨガ・スートラに書かれているような超自然能力を発揮することもできます。

しかし、プラーナーヤーマの目的は超人的な能力の開発ではありません。自分自身の身体と心、本質を正しく知ることがヨガの目的です。

意識を変えるだけでプラーナーヤーマの練習が深まる

呼吸によってエネルギーをコントロールするプラーナーヤーマは、ヨガの代表的な実践方法です。

しかし、効果は意識の向け方で変わってしまいます。

健康的な効果や、呼吸の長さなど、目に見える効果に意識を向けすぎていると、本質を見逃してしまいます。

練習を通して自分を知ることを志して、自分の身体の中のプラーナの流れを知ることができれば、ヨガの深い叡智に触れることができるでしょう。