矢印のような丘の上で望遠鏡を手に遠くを眺める女性のイラスト

向上心って必要?ヨガのサントーシャ(知足)で考える

資本主義の社会では、常に上を目指す向上心が良いものだと考えられがちです。

一方で、ヨガをしていると「ありのままの自分で大丈夫」だと聞くこともあります。

結局どちらが正解なのでしょうか? 

ヨガ哲学のサントーシャ(知足)という概念をもとに考えてみましょう。

与えられたものに満足するサントーシャ(知足)とは?

隙間から何かを除き思考を混乱させる女性のイラスト
サントーシャとは「足るを知ること」もしくは「満足すること」です。

『ヨガ・スートラ』という教典の中に説かれたニヤマ(内制)の1つとして知られています。

ヨガ哲学では、全ての苦しみは心が生み出す幻想だと考えます。

本当は存在しない問題を生み出して、勝手に苦しむことをクレーシャ(煩悩)だと考え、その苦しみに対して、本当は苦しみなど存在しないこと、幸せはすでに与えられていることを学ぶのがヨガのアプローチです。

つまり、サントーシャは心の中の不純性を弱めることで達成できます。

例えば親子関係の問題。人は自分と近い人に対しては過剰に執着や期待をして悩みを作り出します。家族のような執着の強い人間関係の中では、相手が自分と違う意見を持っていたり、自分の思い通りにしてくれなかったりすると、それが認められなくて怒りという感情を生み出しがちです。

本当は、「相手に自分を理解して欲しい。愛して欲しい。」と思っているだけなのに、自分が望んだとおりの行動をしてくれないだけで「私のことを理解して愛してくれていない」と思い込んで、その悲しみが怒りに変換されます。

毎日親子喧嘩ばかりしていて「お母さんは私のことを愛してくれない!」と思っていても、自分が親の立場になった時に初めて「自分のお母さんが私に対して怒っていたのは、私を愛しているからだ」と理解できたりします。

しかし、それに気が付いた時にはすでに母親が歳をとりすぎていて、親孝行ができないかもしれません。そうなると悲しいですね。

だからこそ、今与えられている幸運には、今この瞬間に気が付けた方が幸せになれます。

ラーガ(快楽)が生み出す苦悩の罠

ラーガ(快楽)が原因となって苦しみを生むこともあります。

ラーガとはヨガ・スートラが説く5つのクレーシャ(煩悩)の1つです。

私たちを苦しめる5つのクレーシャ(煩悩)の弱め方

物質的な快楽には依存性があります。

例えば、ヨガ・スタジオに初めて来たときには適当なTシャツを着て、ただクラスを受けられるだけでもワクワクしていたのに、何か月も通い続けたら自然とヨガブランドのウエアを着ていないと満足できなくなり、ヨガマットも良いものを買って、周りの人よりも綺麗にポーズができないと不安になるようになることがあります。

1番最初のクラスでは純粋にヨガを楽しめていたのに、いつの間にか「お洒落なウエアじゃないと楽しめない」と、余計な条件が増えてしまうこともあるでしょう。すると幸せは遠ざかってしまいますね。

こうやって「これが無いと幸福じゃない」という条件を勝手に増やすことは不幸の原因となります。

見た目はかっこよくなくても、自分が快適だと思える服装で、シンプルにヨガを楽しめている人の方がずっと幸せなのではないでしょうか?

ラーガ(快楽)は、1度味わうと「もっと欲しい」という欲を生みます。また「これが無いと幸せじゃない」という勘違いの原因となります。

だからサントーシャでは、条件付きの快楽に惑わされずに、自分にすでに与えられた幸せに気が付く鍛錬を行います。

向上心のメリットと危険なデメリット

右肩上がりの棒グラフを駆け上がる女性のイラスト
さて、資本主義社会で生活をしていると、向上心を持ち続けることが当たり前のように良いと考えがちです。向上心についても、冷静に俯瞰してみましょう。

多くの人は、他者よりも優位に立つことで幸福を感じます。

例えば、大学受験。目標の大学が難関大学であるほど、合格した時の達成感は大きいです。難関大学ということは、自分以外の多くの人は不合格です。誰でも入れる大学に入学してもそれほど嬉しくなく、沢山の人が不合格になった大学に入れた方が嬉しいのではないでしょうか。

つまり、私の喜びは他の人の不幸によって成り立っています。

これは社会に出ても同じです。多くの売り上げをあげたいということは、同業のライバル企業を蹴落とすことに繋がります。それであれば日本全体の景気が良くなればいいのか?というのも間違いです。

現代社会で、先進国の繁栄の裏には、必ず発展途上国で奴隷のように働かされている低賃金の労働者の犠牲があります。

では、人間全体が発展すると?これも間違い。これ以上人間が生産を続けようとすると、地球は人間の搾取に耐えられなくなりますね。

「もっと成功したい」「今より裕福になりたい」「もっと著名になりたい」という向上心は、その裏で他者の不幸を生み出す可能性があることを知りましょう。

それではどうしたらいいのでしょう。

物質的な成功は他者を不幸にする。だから、もっと本質的な幸せについて個々が考えないといけません。

「ありのまま」「今のまま」で本当に幸せ?

強欲が苦しみの原因となるなら、現状に満足するのが1番正しいよね!と、単純に変化を避けることも疑わしいです。

ヨガを求めてやってきた人は、きっと何かを得たくてヨガを始めたのではないでしょうか?何も変われなくて本当に幸せですか?

ヨガは自分の本質を知り、自分のことを愛して満足するためのメソッドです。だから「何も足さなくてもあなたは幸せである」と教えます。

しかし、その幸福感を感じられていないのであれば、やはり自分の心を磨く努力が必要です。

もしもあなたの眼鏡が汚れていれば、どれだけ美しい景色があっても見ることができません。もしも耳にゴミが溜まっていれば、美しい音楽を聴くことができません。

つまり、何かを足す必要はなくても、本質的な幸福を感じるためには、あなたの視界がクリアになるように、心の掃除をすることが必要です。

心の目を曇らせているのは、今までの人生で築き上げてきた思考の癖や、過去のネガティブな記憶です。

「ありのままの自分でいい」というのを、「何もしなくていい」に変換すると落とし穴にはまります。

今の自分に何かが足りないからとヨガに出会ったのに、結局何も変わらないのは本末転倒。

ヨガに出会ったのであれば、既に抱えてしまった不純性を取り除く努力をしましょう。本当の意味での「ありのままの自分」を知ることができます。

サントーシャの練習に効くマインドフルネス

蓮の花を背景に瞑想する女性のイラスト
すでに与えられているものに気が付いて満足することがサントーシャ(知足)です。

そして、サントーシャの心を育むために効果的なのがマインドフルネス瞑想です。

マインドフルネス瞑想では、呼吸などの1点に集中して観察し、味わいます。

普段の私たちは、心ここにあらずの状態。過去の出来事を思い出していたり、未来の計画を練っていたり、今目の前にいない人のことを考えていたり。

だから、故意に「今この瞬間」に意識を向けないと、自分の本質や与えられてものに気が付くことができません。

マインドフルネスを瞑想として行う時には、呼吸に意識を向ける方法がポピュラーです。瞑想で練習した後は、ヨガマットの外の世界でもマインドフルネスに生きましょう。

例えば、食事を食べているときにはテレビなどを見ないで食事に集中して味わう。歩いているときには、その時の足の感覚や聞こえてくる鳥のさえずりに意識を向けましょう。

1時間後には仕事をしなくてはいけないかもしれませんが、それは未来の事柄なので今は関係ありません。

その時々の瞬間に意識を向けることができると、自然と幸福を感じやすくなります。

今飲んでいるコーヒーの香り、シャワーを浴びているときの爽快感、シーツを交換したばかりのベッドの気持ちよさ。

日常の時間にも沢山の幸福があふれています。

物質的には何も変わらないかもしれませんが、今を楽しめる権利を自分に与えてあげるだけで人生は大きく変わります。

そのためには、ヨガや瞑想です。今の生活を楽しめるようになれば、自然と人生は好転して、未来はもっと大きな幸福が訪れます。

しかし、最初から目的が未来の成果になると不思議と上手くいきません。

今目の前にある幸福に気が付けるサントーシャを実践しながら、その時々の瞬間を楽しみましょう。

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