魔女の宅急便 ~もちつもたれつ、助け合い~

こんにちは!丘紫真璃です。

今回はアニメ映画でもおなじみの「魔女の宅急便」を取り上げたいと思います。角野栄子さんの児童書として出版されたこちらの作品は、ジブリ映画の原作になったことで非常に有名ですね。映画は観たことはあるけれど、本はまだ読んだことがないという方も多いかもしれません。

空飛ぶホウキを乗りこなして、宅急便の仕事をこなす魔女の少女キキの物語は多くの人の心をとらえ、英語、イタリア語、中国語、スウェーデン語版も出版されるなど、日本だけでなく、世界中の人に愛される名作となりました。

そんな、誰にも愛される元気な魔女の少女キキの物語とヨガは、どのように結びついているのでしょう。これからみなさんと、キキの世界まで飛んでいって考えてみたいと思います!

魔女の宅急便とは


作者の角野栄子さんは、日本を代表する児童文学の名作家で、非常に多くの児童書を数々生み出されています。角野さんの本を読んで大きくなったという方も多いのではないでしょうか。

そんな日本の母ともいうべき角野栄子さんは、サンケイ児童出版文化賞や、路傍の石文学賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞など数多くの賞を受賞されており、2018年には国際アンデルセン賞も受賞されました。

世界的に活躍される角野さんが「魔女の宅急便」を書いたのは1985年。当時中学生だった娘さんが描いた絵がきっかけで思いついた物語だったそうです。

娘さんが描いた絵というのが、魔女の女の子がラジオをホウキの先にひっかけ、後ろに黒猫を乗せて、空を飛んでいる絵だったそうですよ。まさしく、魔女の宅急便のキキそのものですよね!1989年に宮崎駿監督によってアニメ化され、広く知られるようになります。映画は、特に後半部分が原作と違うので、比べてみるのも楽しいですね。


13歳の少女による魔女の宅急便


主人公は、魔女の女の子キキ。13歳の元気な女の子です。魔女の女の子は、13歳になると1人立ちをしなければなりません。1人立ちというのは、生まれた家を離れ、魔女が1人もいない町や村で、たった1人で暮らすということです。

13歳のキキは満月の夜、空飛ぶホウキに乗って、黒猫のジジと共にこれから自分が新しく住む町を探しに行きます。そして、海のそばの大きな時計台のあるコリコの町を、自分の住む町にしようと決めます。

このコリコの町で、親切なパン屋のおかみさんに居候させてもらったキキは、みなさんご存じの「魔女の宅急便」の仕事を開始します。空飛ぶホウキで空を飛び、様々なお届けものをしようというのです。料金は取らず、ちょっとしたお礼でいいというのですから、なかなか便利そうですが、初めのうちは、なかなか利用客が現れません。

パン屋のおかみさんが一生懸命、宣伝をしてくれるのですが、どうやら、町の人達は魔女を悪いものだと思い、恐れているらしいのです。

「あたし、悲しいわ。どうして魔女は悪いことをするって決めちゃうの?」
「知らないからだよ。しょうがないよ」
 ジジがおとなぶっていいました。
「ほんとうなの、知らないのよね。もともと魔女は悪いことなんてしていないのよ。変わったことはしたかもしれないけど……人間って自分で理解できないことは、かんたんに悪いことにしちゃったのよね」
(魔女の宅急便)

それでも1人、また1人と利用客は少しずつ増えていき、キキの「魔女の宅急便」は、少しずつ軌道に乗っていきます。

役に立ちたい

キキの「魔女の宅急便」は、なぜ軌道に乗ってきたのでしょうか。カギは、キキが一生懸命だったことにあると思うのです。

例えば、初めての仕事の依頼は、5つになる甥っ子にぬいぐるみの誕生日プレゼントを届けたいという女の人からのものでした。キキに仕事を依頼してくれた女の人は、仕事のため、甥っ子にプレゼントを届けることができないのです。キキは、5つになる男の子に誕生日プレゼントを届けて喜ばせてあげたいと、懸命に空を飛んで、プレゼントを届けます。

困っている人を助けたい、力になりたい、役に立ちたい。

キキはいつも誰かを喜ばせたいという気持ちから動きます。ですから、お届け物以外の仕事もやってしまったりするのです。

例えば、遠くに住む姉にビスケットを届けたいという女の人から依頼を受けた時。ビスケットを届ける仕事をするだけでいいはずなのに、その女の人が、たくさんの洗濯物が乾かなくて困っているのを見ると、洗濯物のロープを持って空を飛び、空で洗濯物を乾かしてあげたりします。別にそんなことはしなくてもいい仕事なのに、目の前で困っている人がいると、キキは助けずにいられません。

目の前の人を助けようと、時にはムチャクチャなお願いも聞いちゃうお人よしのキキ。そんなキキの姿に、初めは魔女を怖がっていたコリコの町の人達も、少しずつキキに親しんでいきます。

ある女の人は、キキにこんなことを言います。

「だけど、あんた、かわいいのねえ。あたし、魔女だっていうから、口から牙はやして、頭に角でもついているのかと思ったわよ」
(魔女の宅急便)

こうして、キキを頼りにする人達の輪は暖かく広がっていきます。そして、その人達もまた、キキの店に看板の絵を描いてくれたり、キキに編み物をプレゼントしてくれたり、ビスケットを分けてくれたりと、暖かいお礼をしてくれるようになるのです。

もちつもたれつ


魔女の宅急便をはじめる時、キキは、パン屋のおかみさんにこんなことを言っています。

「お、す、そ、わ、け、です。あたしたち魔女は、このごろではそうやって(おすそわけで)
暮らしているんです。あたしたちができることでお役にたっていただいて、そのかわり、みなさんのものをすこしわけていただいて、こういうの『もちつもたれつ』ともいうんです」
(魔女の宅急便)

キキは『もちつもたれつ』を実践していくわけですね。

キキは、ちょっとしたお届け物をしてあげ、かわりにちょっとしたお礼をもらう。コリコの町の人達が困っていたら、キキは何でもしてあげるし、町の人達もそんなキキを、あれこれと助けてくれる。

そんなふうに、助け合いながら暮らしていくキキの生き方こそは、ヨガそのものといえるのではないでしょうか。ヒンドゥーの言葉に「心にラーマ(神)、手に仕事」というものがあるそうです。

これは、相手の中にいる神様を思って働きなさいという意味で、ヨガの教えそのものでもありますよね。自己中心になるのではなく相手のためを思って働いていると、不思議に自分が嬉しくなり、心がとても穏やかになる。だから、相手のために働きなさいというのがヨガの教えです。

キキもまた、相手のために一生懸命届けものをして喜んでもらえると、嬉しい気持ちでいっぱいになります。

キキが無事におしゃぶりをとどけると、赤ちゃんのおかあさんは「たすかったわ」と何度もお礼をいってくれました。大声で泣いていた赤ちゃんもおしゃぶりが口に入ると、にっこり笑ってくれました。
 キキはパン屋さんにむかって、また空を飛びながら、とてもいい気持でした。「たすかったわ」といわれて、さっきからしょげていた心がふうっとあたたかくなってきたのでした。
(魔女の宅急便)

コリコの町の人達と温かい助け合いを積み重ねていくうちに、コリコの町の人達にとって、キキは本当に大切な存在になっていきます。またキキにとっても、コリコの町は自分の大事な居場所に変わっていったのです。

「魔女の宅急便」を読むと、キキの様々なハプニングや冒険に笑ったり興奮したりでき、読み終わった後には、ふうっと温かい気持ちになります。

映画もすばらしいですが、まだ本を読んだことはないという方はぜひ1度、本を手に取ってみて下さい。きっと、キキと楽しい魔法の冒険を楽しむことができるでしょう!

参考資料

  1. 『魔女の宅急便』(2002年:角野栄子著/福音館文庫)