白い花瓶と観葉植物が置かれた白い部屋

自身の純粋さを磨く-プラーナ(気)の流れを意識して行うヤマ・ニヤマ-

ヨガ派の経典である『ヨガ・スートラ』の中でヨガの実践方法として説かれる八支則の基礎として、1番目と2番目に紹介されるのが「ヤマ・ニヤマ」です。

これには道徳的な教えが多く、社会的に理想的な人になるための知恵のように考えられていますが、「自分自身の内側に向き合うのがヨガなのに、社会に対する行いが必要なの?」と、不思議に思ったことはありませんか。

ヨガのヤマ・ニヤマで日常生活の行いを整える理由を、エネルギーの流れをもとに考えてみましょう。エネルギーについて考えるとヨガの見方も変わってきます。

そして、一見全く別物に見えるカルマ・ヨガ(行為のヨガ)もハタ・ヨガ(身体を使ったヨガ)も同じであることが分かってきます。

ヨガではプラーナの流れが大切

プラーナの流れをイメージした座位の人のイラスト
プラーナとは「気」もしくは「生命エネルギー」のことであり、私たち生物が生きるのに必要なエネルギーです。身体を動かすことも、思考を働かせることもプラーナによって行われています。

様々な種類があるヨガの中でも、特にハタ・ヨガではこのプラーナの状態をとても重要視しています。アーサナ(坐法)やプラーナヤーマ(調気法)は特に分かりやすく体内のエネルギーを整えるアプローチをしていますね。

私たちが身体的に、または精神的に健康に生きるためにはプラーナの流れがスムーズであることが大切です。

体内にはプラーナの流れが通る気道があり、それをヨガの言葉ではナーディと呼びます。

ナーディは血管に例えるととても分かりやすいです。

血管の状態が良ければ、必要な酸素や栄養素が体内の隅々まで届けられます。しかし、生活習慣が悪くてコレステロールなどが血管に詰まってしまうと脳梗塞や心筋梗塞などの危険な症状の原因になってしまうことがあります。

同じように、ナーディも心や体に不純物が溜まっていると詰まってしまいます。ナーディの中を通るプラーナの流れが悪くなると、身体的にも精神的にも障害が現れてしまいます。だから、快適に健康に良きるためにはナーディの状態を整えることがとても大切です。

ハタヨガでナーディー(気道)を清浄してエネルギーを整える方法

ナーディを詰まらせる心の不純性

不純な思考があると、そのドロドロとした粘液質の思考のエネルギーがナーディを詰まらせてしまいます。不純性のせいでプラーナヤーマの流れが阻害されてしまうと、心の働きはますます鈍くなり、同時に身体にも不調が現れます。

例えば緊張している時には筋肉が強張って硬くなるように、ナーディも収縮して上手くプラーナが流れなくなってしまいます。その結果身体が思うように動かせなくなり、不要な圧がかかることで余分なエネルギーを消費して汗をかく、思考も上手く働かなくなりますます失敗をしてしまうことがあります。

そのような緊張状態が長めに続くと消化の力が落ちて未消化物(毒素)が溜まり、便秘や下痢を招くこともあります。

これらの不調を科学的に証明することも可能でしょうが、ヨガではプラーナの流れで解き明かすことができます。ヨガの練習の時に自分の内側のプラーナ(気)の流れに意識を向けていると、日常でも思考がプラーナに及ぼす影響を感じやすくなります

ナーディの不調を招く精神状態は緊張だけではありません。悲しい時、ストレスがある時、やましい思い、妬みや恨みなど、あらゆるネガティブな思考の働きが原因となってしまいます。

極論を言えば、心の中に不純な思考が生まれなければ、道徳的に悪い行いをしても自身の内側は汚れません。

クリシュナ神はバガヴァッド・ギーターの中で説きました。

たとい極悪人であっても、ひたすら私を信愛するならば、彼はまさしく善人であるとみなされるべきである。彼は正しく決意した人であるから。(バガヴァッド・ギーター9章30節)

極悪人というのは、その社会の常識で悪だと思われている行為をする人です。しかし、その行為の原因が自分自身の私欲のためでなく、純粋な心で信じて行ったのであれば、その罪をかぶることはありません。

自身の行動の動機が正しいものであれば、それはエネルギーを高めてくれる行為となります。だからヨガでは、外の声ではなくて自分自身の内側の声を1番大切にします。

ヤマ・ニヤマによってプラーナを高める

安楽座で両手を胸に当てる女性のイラスト
身体的な健康について考えてみましょう。エネルギーが高い状態というのは、沢山のカロリーを摂取した状態とは違います。

エネルギーになるカロリーの高い食品を食べて健康になれるのであれば簡単です。しかし、実際は食事によって取り入れた栄養を正しく消化して使うことができないと意味がありません。

本来は活動の源となる糖質も、間違った量を摂取して使わなければ不純物となり、かえって不健康を招いてしまいます。

同じようにプラーナも、沢山のエネルギーを取り込めばいいわけではありません。体内で正しくプラーナが働くためにはナーディの状態が重要です。

また、プラーナの質も大切です。バランスが取れて穏やかなプラーナの動きは心に平穏をもたらします。しかし、激しすぎるプラーナの状態は怒りや欲望の感情を覚えたり、痛みといった不快感を与えます。

だからヨガでは、あらゆる方法でプラーナを純粋な状態に整えます。

アヒムサによってプラーナを清める

ヤマ・ニヤマにはそれぞれ5つずつ、合計10の教えがありますが、全ての教えは心の中の不純性を取り除いて深い瞑想を行うための準備です。

ヨガによって取り除く心の不純物には様々なものがあります。

  • 暴力性、殺意
  • 妬み、恨み
  • 自分や他者に対する嫌悪
  • 過去への後悔
  • 未来への不安
  • 恐怖心、緊張
  • 悲しさ、失望

これら全ての感情はナーディを詰まらせる不純物であり、プラーナの流れを阻害します。

アーサナやプラーナヤーマの練習も不純性を取り除くことに役立ちます。しかし、どれだけヨガマットの上で自身を清浄に整えても、1日の他の時間にずっと不純性を生み出し続けていてはヨガの効果を得難くなってしまいます。

ヤマ・ニヤマはヨガマットの外でも自分を整えるために重要な実践です。

ヤマの1番目のアヒムサ(非暴力)を例に考えてみましょう。

アヒムサとは「暴力を振るわないこと」であり、とても有名な教えです。「自分は人を叩いたりしないからこの実践は簡単にできる。」と思ってしまう方もいるかもしれません。しかし、実際に殴るなどの暴力を行わなくても、心の中に暴力性を抱いただけでアヒムサに反してしまうと考えられています。

会社の上司に怒られてすごく傷つけられたと思った時に、「上司が部下の私をいじめたことが偉い人にバレて怒られればいいのに!」と、自分が傷ついたのと同等かそれ以上に上司も傷ついて欲しいと願ったら、それは立派な暴力性の感情です。

そのようなイライラが心の中にある状態でどれだけアーサナの練習をしても、心の中の激しい感情が邪魔をしてなかなか穏やかな心に到達することは難しいですね。

ヨガをしている人の多くが「ヨガの練習をしている時には平和を感じるのに、家に帰って子供の前にいるとすぐに怒ってしまいます」と悩んでいます。

まずは社会の中の自分もヨガの1部だと考えることができないと、ヨガの本当の効果を得ることが難しいのかもしれません。

アヒムサを、より深く考えてみましょう

様々なアプローチでプラーナを整える

アヒムサが大切と理解してもなかなか怒りを抑えられない人に、「怒りの感情を抑えてください」といっても簡単にはできません。そういう時は、他のヨガの実践と組み合わせながら少しずつ自身の心の不純性を取り除いていきます。

もちろんアーサナ(坐法)やプラーナヤーマ(調気法)の練習はとても有効な手段です。少なくともヨガマットの上では平和を感じる人が多いでしょう。毎日練習して、少しずつ心をコントロールすれば次第にマットの外でも心を客観的に整える術が身についてきます。

または他のヤマ・ニヤマの実践を行うのも良いです。心がスッキリとしない時に、シャウチャ(清浄)の実践で、身の回りの環境をとことん掃除をしたり、断捨離を行ってみます。自分の周りの空間が純粋になったことで、心もそのエネルギーで満たされやすくなります。

全てのヨガの練習は、自身の純粋さを磨くためのものです。ヨガの練習中も、日常生活でも、自分が良いプラーナに満たされることを意識してみましょう。

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