愛と色の祭典“ホーリー”で春の訪れを祝う

愛と色の祭典“ホーリー”で春の訪れを祝う

ヨガ発祥の地インドはお祭り大国としても知られています。インドでは毎週のように様々な祭日がありますが、その中でも特に有名なものが色の祭典「ホーリー」です。

ホーリーは春の訪れを祝うお祭りですが、バガヴァッド・ギーターでお馴染みのクリシュナに所縁があるお祭りとしても知られています。

人々がどのように春を祝うのか、またホーリーで使われる色の意味や、ホーリーの食事をご紹介します。

インドのホーリーとはどんなお祭り?

ホーリーの初日に行われるガンジス川沿いでの焚火
ホーリーの初日に行われるガンジス川沿いでの焚火

ホーリーは、春の訪れと冬の終わり、愛や豊作への祈りを捧げるお祭りです。特に、春に芽吹く自然の緑に対しての歓びを表現します。

ホーリーの祝い方

ホーリーは、満月(プールニマ)の夜に始まります。インド暦は月に合わせるため毎年日付けが変わりますが、通常3月中旬から末になることが多いです。

一般的に1日目をホーリーと呼び、満月の夜に集落ごとに大きな焚火を行います。これは、炎によって悪魔を退治するためだと考えられています。また内なる悪を破壊する意味もあります。

最初は、マントラを唱えるといった儀式が行われますが、次第ににぎやかになり、音楽を流して焚火を囲んでみんなで踊ります。

2日目はドゥルヘンディと呼ばれ、有名な色かけはドゥルヘンディの午前中に行われます。人々は前日までに屋台などで色粉や水鉄砲、水風船などを買っておきます。

ヨガ哲学の師でもあるスニール先生のご家族
ヨガ哲学の師でもあるスニール先生のご家族

最初は親しい人、とくに家族同士でお互いの頬や額にうやうやしく色を塗ります。しかし、だんだんと顔中がカラフルになってくると、少しずつ激しさが増して髪の毛や身体全体に乱暴に色の粉をかけ合うようになります。

そして、様々な色が混ざりあってどろどろの黒色になるころには、みんなが「ハッピーホーリー」と言いながら抱き合います。

後半は、広場や路上など野外で、色だけでなく水をかけ合います。お金持ちも貧しい人も、大人も子供も、同じ空間にいる人は知らない人同士でも色をかけ合いながら抱き合う、とても幸せなお祭りです。

ホーリーの発祥はクリシュナのイタズラ

先生とのホーリーの祝い
先生とのホーリーの祝い

ホーリーの歴史的な、背景には様々な説があります。しかし、通説としてクリシュナ神にちなんだストーリーが最も有名です。

クリシュナ神は、バガヴァッド・ギーターの中で世界の理(ことわり)やヨガについて説いているので知識の神様のようなイメージを持つ方もいるかもしれません。

しかし、実際のクリシュナ神は容姿端麗な愛の神様としてアイドルのように愛されてます。クリシュナ神の性格も人間味に溢れています。とても女性が大好きで、特に若い時にはたくさんのイタズラをしたエピソードが残っています。

では、ホーリーにまつわるストーリーをご紹介します。

クリシュナ神が若い時、自分の肌の色が黒いので大好きな女の子ラーダと両想いになれないのではと深刻に悩んでいました。ラーダはとても色白の美しい牛飼いの娘です。

それを見たクリシュナ神の母親は「肌の色を気にするのなら彼女の肌も好きな色に塗ればいいじゃない」とアドバイスしました。クリシュナ神はその通りにラーダの元に行って彼女の顔を顔料で塗りました。そして、めでたく2人はカップルになりました。

それ以来、愛する人の顔に色を塗るウィットに富んだ遊びは「ホーリー」として長い間伝わってきたといわれます。

そのため今でも、インドやネパールの人たちはホーリーの日に自身の愛する人や家族、友人たちと色を塗りながら愛を深めていきます。

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ホーリーに使う色の意味

ホーリーで使われる色粉
ホーリーで使われる色粉

ホーリーに使われるそれぞれの色には、意味があると考えられています。インドで考えられる色ごとの特徴をご紹介します。

赤色

インドで赤色は至高の結婚の象徴です。豊穣、愛、美しさといった意味があります。特に北インドでは、花嫁は真っ赤な花嫁衣裳を着て、既婚者になると額の頂上に赤い粉を塗ります。

赤色にはパラッシュ(ハナモツヤクノキ)などが使われます。

黄色

黄色はスピリチュアルな場面で使われる神聖な色とされています。ヨガのアシュラムなどでも黄色の布を巻いた聖職者が多くみられます。

黄色はターメリック(ウコン)です。ターメリックはアーユルヴェーダなどで古代から薬用として使われていますし、インドの日常の食事でも代表的な香辛料です。消化の火を強めるほか、殺菌作用があります。

また、インドの3大神の一人であるビシュヌ神は、太陽の光を自身の衣に織り込みました。そのため、ビシュヌ神は黄色い衣装を着ています。

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青色

空や海の色である青色ですが、インドではクリシュナ神の象徴でもあります。クリシュナ神の肖像は青い肌で描かれるため、ホーリーで使われる青はクリシュナ神をイメージさせます。

緑色

緑色はヴィシュヌ神の化神であるラーマを象徴します。ラーマは、長い亡命期間にインドの緑豊かなジャングルで過ごしました。緑は新しい生命の始まり、収穫、豊穣を表す色で、自然への愛を表します。

インドで緑色を作るためには、インディゴとターメリックなどを組み合わせ、二重染めしなくてはいけません。

紫色

紫はとても神秘的・スピリチュアルな色として知られています。ビートルートなどが使われます。

伝統的な色の粉は、様々な植物を乾燥させたものを調合して美しい色が作られます。現代では、健康に良くない安価な科学染料の粉が主流になってしまいましたが、自然由来の色粉は、洗い落としやすく健康被害もないため、伝統的な色を好む人もいます。

美味しいホーリーの食卓

午前中に色かけ遊びに興じたら、夕方には正装に着替えて親族の家を回ります。

ホーリーの味覚で最もポピュラーなものは、グジヤーと呼ばれるスイーツです。一見揚げ餃子のように見えますが、中に入った具はジャグリー(キビ砂糖)、ミルク、ナッツ、ドライフルーツなどを煮詰めて作られていて、とっても甘いです。油で揚げたあとにシロップに漬けることも多いです。

タンダイと呼ばれる甘い飲み物もホーリーには欠かせません。一見バターミルクのように見えますが、ピスタチオ、アーモンド、サフラン、バラの花びら、フィンネルなどの香辛料、ローズウォーター、ミルクなどで作られたとてもエスニックな甘い飲み物です。

また、午前中の色かけの時間には、各種アルコール飲料やバーングと呼ばれる薬草の飲み物を飲む人も多いです。ホーリーの日だけは公共の場でも泥酔状態になっている人がとても多いので、地域によっては女性の外出が危険な場合もあります。

食事には決まったルールはありませんが、祭りの日に好まれるプーリー(揚げパン)などを作る家庭が多いです。ホーリーは、宗教儀式というよりは、みんなで楽しむ日という印象が強いです。

祭りは季節や自然への愛を深めてくれる日

初対面の人とも一緒に春の歓びを共有する
初対面の人とも一緒に春の歓びを共有する

インドの人は伝統的な祭日を真剣に楽しむ印象があります。普段は宗教と無縁な気取った都会の現代っ子も、この日ばかりは子供のようにはしゃぎます。

歩き始めたばかりの小さな子供も、その親、祖父母世代の人まで、みんなが一緒に楽しく思い思いに踊りながら春を祝う光景は、変わらないインドの陽気さを感じさせてくれます。

特に都会生活では季節の流れを感じることが少なくなりがちです。こうやって季節ごとに祝う祭日があることで、自然の偉大さと変化の美しさを忘れずに感じることができます。

クリシュナ神は、ギーターの中で人間も世界も一体だと説いています。いつでも自分が自然の一部である意識があれば、生き方や心のあり方も豊かなものになるのではないでしょうか。

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