ヨガをしていると優しくなれるワケ2

ヨガをすると優しくなれるワケ

自分と他人の境界線を取る八支足のステップ

ヨガを始めてから、困っている人を助けたいという意識が強くなったり、感情が穏やかになったりと、心の変化を感じている人も多いのではないだろうか。今回はヨガによって生まれる、心の変化について、八支足をベースに考えてみよう。

まず八支足の最初の二つ、ヤマ、ニヤマは、日常生活や心の在り方を説きながら、自分の心を他人に開いていく準備。そして、アーサナは肉体を鍛えることで自分の体へ意識を向け、プラーナーヤーマで呼吸のコントロール、プラティーヤーハーラで心をより繊細にコントロールする。そして次に、より高次段階である集中のダーラナ、集中をさらに高めるディヤーナ、最後にサマーディーがある。

この最後のダーラナー、ディヤーナ、サマーディーの三つは、「集中状態の強さ」を表す。そして、このダーラナーからディヤーナ、サマーディーの流れで集中状態を高めると、目の前の対象の波長を読み取ることができるようになっていく。

つまり、ヨガの実践を通じ、八支足のステップを上がると、あらゆる対象と波長を合わせることができるようになっていくのだ。

相手と波長が合うということは、自分の持つエネルギーと相手の持つエネルギーが一体となること。相手も自分の一部だと思えば大事にするし、優しくなれるというわけだ。

チャクラが表す人生のステップ

ヨガのチャクラの概念も、相手に波長を合わせる力(=チューニング力)の高まりを表わしている。チャクラは人生のステップとも相関関係にあり、自ら持つエネルギーが高まっていく過程で、人はより多くの対象と波長を合わせることができる。

ムーラーダーラーチャクラ(第一チャクラ)の時期は、食べる、寝るなど自分のことで精一杯な段階。スワディスターナチャクラ(第二チャクラ)では異性に関心が向き、パートナーを求め、マニプーラチャクラ(第三チャクラ)は、子どもを育てるために富と権力を手に入れる段階。

十分な富が得られるとアナーハタチャクラ(第四チャクラ)へ進みます。アナーハタチャクラでは、他者へ優しさを与えられるように。さらにヴィシュッダ(第五チャクラ)、アージュニャー(第六チャクラ)、サハスラーラ(第七チャクラ)へ進むと、見ず知らずの他人にまで優しさを広げることができるようになる。

誰かと波長が合わない時、人は自分の心身を他人と分けて考える。これは、『私とあなたは違う』と言ってしまっているようなもの。波長を合わせるとは、人とつながることであり、自分のエネルギーが対象と一体となる。この原理が理解できた時、人は優しくなれる。

行為の結果が表れるカルマヨガ

人に優しくできると、その日は自分自身も穏やかな気持ちになる。これは、「行為そのものが結果を残す」と考えるカルマヨガと同じことだと考えることができる。

カルマヨガを実践する時、無欲にならなくてはと思いがちだが、見返りを求めることは決して悪いことではない。

例えば、席を高齢者に譲る。これに対して相手が幸せになったと自分が喜べることが、一つ目の見返り。タイムラグはあるが、歳を重ねた自分が、誰かから席を譲ってもらえるのが二つ目の見返りだ。

何か行動をする時は、『この状況だったら自分は何をしてほしいだろう?』と考えて行動したい。世界はひとつながりのエネルギー。だから、自分が他人にしたことは巡り巡って、自分に返ってくる。

自分が相手に優しくしていれば、相手も同じ行動を返す。行為とは、自分自身の〝写し鏡〞。人から冷たくされる時、自分も誰かに冷たくしている可能性があるということだ。

「あんなことを言われた」「あの人は私に冷たい」と感じた時、「では自分は相手に何をしてあげられているか」を考えてみよう。

自分も同じ思いを抱き、同じ行動を取っていたことに気づくはずだ。ヨガの最終的なゴールは、『自分よければすべてよし』というエゴを消滅させることだ。苦手な相手でも、地道に波長を合わせる練習を続ければ、やがてエゴが消えてつき合えるようになるだろう。

教えてくれた人=乳井真介
にゅういしんすけ。『リラヨガ・インスティテュート』代表。ヨガのエッセンスを複合したスタイルが特徴で、メディア監修も多数。

出典=Yoginiアーカイブ『ヨガを深く学びたい』p068-069
文=Yogini編集部