呼吸を意識すると脳内で起こるアレコレ

呼吸が脳にイイ理由

リラックスする方法はさまざまなものがあるが、呼吸を深く行うゆったりとしたヨガが、他と比較して得られる効果として、特徴的なのは「GABA(ギャバ)」の量が増えること。

「GABA」とは、アミノ酸の一つ。これまでの常識では、一度破壊された脳の神経細胞や海馬などの脳細胞は回復しないとされてきたが、ここ最近、シニアの認知症で萎縮した海馬が増えたり、壊れた脳細胞が回復するというエビデンスが出始め、それにひと役かっているのが「GABA」だ。

海馬は、前頭前野からの情報を受け取り、記憶をもとに情動的判断を行い、次にその情報は自律神経中枢である「CAN(キャン)」に送られる。「CAN」とは「中枢性自律神経繊維網不快ネットワーク」の略称で、自律神経を動かすネットワークのことを指す。

例えば目の前に熊が現れて、心臓がバクバク! そんな時はCANが興奮し、交感神経が高まる。すると、「GABA」が前頭前野へ働きかけることで、前頭前野がCANの興奮を抑えるというポジティブフィードバックが働くのだ。

しかし、「GABA」の量が少ないと、常にCANが興奮しっぱなし。前頭前野が興奮をなだめても追いつかず、その機能が低下する。それに伴い、海馬の機能も落ち、ひいては神経細胞や海馬が破壊され、常に交感神経が高ぶった状態になってしまう。

ヨガの呼吸で「GABA」を増やす

「GABA」は脳内で作るしか増やす方法がない。それには呼吸を意識しながら体を動かすことがいいとされ、その最たる方法がヨガというわけだ。呼吸を感じながらポーズを取ることは「GABA」の活性を助けるが、「GABA」の分泌を促すには呼吸法だけでもOK。

ゆったりした自然な呼吸でも「GABA」を増やす効果は期待できるが、クンバカ=息の保持は特に、「GABA」の分泌を高めるのに効果的。

息を止めると酸素交換ができなくなるため、血中の二酸化炭素濃度が上がる。すると血管内で一酸化炭素増え、血管平滑筋が緩められることで血管が拡張。すると血行がよくなり副交感神経が活性化されることで「GABA」の量が増えるのだ。

クンバカのやり方は簡単で、吸気:息の保持:呼気を1:1:2のカウントで行う。最初は短く、慣れてきたら少しずつ時間を伸ばしていこう。この呼吸法に慣れていけばだんだんと副交感神経優位を長く保てるようになる。

脳波に見る、呼吸の効果

脳の中は、常にさまざまな電気ネットワークが張り巡らされ、電気信号をやりとりしている。医学用語で電気信号が生じることを発火、うまくつながって発火が起こることを同期と呼ぶ。その同期の電気量が大きいほど、脳波が大きく描かれる。

電気量が大きいと、他のネットワークの発火とタイミングが合いやすく、大きい反応となり波が大きくゆったりとした曲線になる。

一方で、小さくあちこちで発火している場合は、それぞれの発火が早く忙しく、他のネットワークとのタイミングが合いづらい。そのため、一つひとつの同期の電気量は小さいものばかりで、脳波の振幅が小さく、細かくなる。

リラックスというイメージが強い脳波の一つ、α波は1秒間に10〜10数回発火する比較的ゆっくりで大きい脳波で、周囲のネットワークと同期する確率が高い。つまり電気量が多く、脳波の振幅も大きく、波の数は少なく描かれることになる。これは、意識が集中していて、かつリラックスしている状態を示す。

ヨガにおける瞑想状態というのは、雑念なく一つのことに集中している状態で、前頭前野にはα波が現れることが多い。この、リラックスと集中が両立した、車のアイドリングのような状態をデフォルトモードネットワークと呼び、眠っている時も含め24時間働き続けている。

雑念といった刺激がなければ、前頭前野は判断、思考、指令を出す必要がなく、休まる。しかし、いつも頭の中が雑念でいっぱいだと、前頭前野が酷使され、機能が落ちていく。

雑念の大きな原因であるストレスは、交感神経を高ぶらせる。交感神経を興奮させるストレスホルモンは通常10分で消える。しかし、頭を休めることができない現代人の脳内では、ストレスホルモンが消えてはまた出て、ひどい時は出続ける。

それによって疲労困憊する前に、ストレスに反応するスイッチをオフにする必要がある。ガの呼吸では、雑念に向いていた意識を呼吸に向けることで今の自分に集中でき、それが雑念に飛んでいた異常なネットワークを断ち切る。結果として、緊張していた頭も体もリラックスできるのだ。

脳の機能を活性化するのに呼吸が果たす役割は大きい。呼吸を意識的に丁寧に行うことで、ヨガを通して体だけではなく、脳まで健康な状態に導こう。

出典:Yogini Vol.39 p26-27「呼吸を意識すると脳内でおこるアレコレ」

教えてくれた人=林良樹
はやしよしき。中外製薬製薬本部(現職)。薬学博士を授与された後、シアトルのワシントン大学で生物工学を学び、製薬会社で医薬品の研究開発を続けている。イシュタヨガに’08年に出会う。以来プラクティスを続け、広尾be yoga で’10年より生理学の講義を担当
教えてくれた人=石井正則
いしいまさのり。医師。JCHO東京新宿メディカルセンター・耳鼻 咽喉科部長。ヨガインストラクター。ヨガと現代医学の架け橋として東西を奔走。近著に『やってはいけないヨガ』青春出版社刊。

文=Yogini編集部