ヨガの解剖学

ポーズがワンランクアップする「ヨガの解剖学」

「省エネ」が、ヨガ本来の目的達成に導く

簡単なポーズでも、キープが長いとキツイ…。そうした経験は誰しもあるのではないだろうか。多くのヨガの本は、一生懸命、筋肉を使うことにフォーカスしたものが多いが、本来ヨガは最低限の筋肉を使ってスマートにポーズを取ることを目指す。この“省エネ”な体の使い方が内観へと導き、本来のヨガのポーズと言えるだろう。

では、体を楽に使えるようになるにはどうしたらいいだろうか? ポイントは自分の体のどの位置に、どの骨や関節があるのかという、具体的な体の位置関係を理解し、それらを意識しながら行えるかどうかということ。

その意識だけで、体の使い方も、ポーズもまったく変わってくる。特にヨガを行う上で、きちんと意識を向けたいのは、(1)骨格(アライメント)、(2)筋肉、(3)筋膜。

初めは、(1)→(3)の順に意識を向ける練習をし、それぞれを意識化ができるようになったら、最終的に自然にすべてを同時に意識できるようになりたい。

この3つを意識することで、アウターマッスルだけではなく、インナーマッスルを使えるようになり、エネルギーの消費も少なくなる。結果的に「省エネ」となり、ポーズを持続してもツラくなくなる。まずは三つの要素について基礎知識を確認していこう。

“省エネ”なヨガのために意識したい3つの要素

骨格(アライメント)

「アライメント」とは、「アライン(align-)」=「一直線にする」、「メント(-ment)」=「結果」や「状態」を意味する。つまり、骨と骨が一直線に整列している状態を指す。

ただし、ヨガの場合、体が一直線になるポーズばかりではないため、関節の接触面積が最も大きい状態を適当としている。ポーズを取っている中でも、接触面積を増やすことで、無駄な筋肉を使わずに安定性を高めることができるのだ。

筋肉

骨と骨をまたぐように存在する筋肉は、収縮することで作用する。収縮することで、モノを引き寄せたり、下ろしたりすることが可能になる。

ヨガを行う上では、作用させることに意識を向けるのではなく、最終的に、筋肉を使いながらも伸びている状態にしていくのがベスト。また、ポーズの中で、これを効果的に行うためには、筋肉の起始・停止を把握し、意識化することがとても重要だ。

筋膜

筋膜とは、筋肉の周囲を包んでいる膜を指す。筋膜はつながっていて、そのつながりを「筋膜ライン」と呼ぶ。

筋膜が硬くなるとポーズの制限をしてしまうので、筋膜の凝りを解消することで、筋肉の正常な働きを促せる。ただし、ポーズで筋膜の凝りを解消しようとする場合は、その筋膜ラインの連続性を意識しながら、ポーズを90秒ほどキープする必要がある。

そうすることで、本来伸び縮みしない硬い繊維までもが伸び、効果が持続する。ここでは注目したい主な筋膜ラインを紹介する。

【バックライン】
体の背面を縦に通っている筋膜のラインを「バックライン」と呼ぶ。足の裏から額まで背部全体につながっている。スマホやPCの利用によって、首から腰にかけての筋膜は伸ばされ、常に緊張しやすいため、特にかたまりやすい。このバックラインを伸ばして凝りを解消することで、姿勢の改善になる。

【フロントライン】
体の前面を縦に通っている「フロントライン」は、浅い層と深い層の二層あり、足裏から頭蓋まで、体の前面を覆うようにつながっている。背骨と頭蓋骨の中心部の近くを通っているため、ホルモンの働きと、情動(心の作用)との関係が深い。また、座り姿勢が多いと、腸腰筋の筋膜がかたくなる原因にもなる。

ポーズで見る、ワンランクアップする生かし方

基礎知識を押さえたところで実際にポーズの中でどう応用していくか、代表的な二つのポーズを例に取ってみていこう。

ダウンドッグ

アライメント

  • 中指を前方に向けて置く。上腕は外旋させ、両手の親指のつけ根に重心を置くようにしながら、ヒジから先は内旋すると安定し、体が軽くなる。

  • 肩甲骨
  • 肩甲骨を下げると気道が確保され、呼吸が楽になる。また、肩甲骨周囲の筋肉を使うことで、疲れやすい腕の筋肉に頼らずに行える。

  • 両足をまっすぐ置く。カカトを少し外側に向ける意識をすると、骨盤が前傾しやすく、坐骨を引き上げやすくなる。

筋肉

  • ハムストリングス・ヒラメ筋腓骨筋
  • 両足を平行に置くと、ハムストリングスとヒラメ筋、腓腹筋がしっかりと伸びる。さらに、カカトの外側でマットを押すと、腓骨筋もしっかりと伸ばしながら使うことができる。

筋膜

  • バックライン
  • バックラインの中継地点であり、ポーズの頂点に位置する坐骨を斜め後ろのほうに引き上げる。テントをピンと張るようなイメージを持つと、筋膜全体を伸ばしやすくなる。

アップドッグ

アライメント

  • 両手は肩に対して垂直に置く。あくまでもマットを押す程度とし、手や腕の力で一生懸命に体を支えようとしないこと。

  • 背骨
  • 背骨を反らすのではなく、上に伸ばす。胸椎は前のほうに押し出す。力むことなく、しっかり体の前面を伸ばすことができる。お腹を凹ませ、腰椎の前を伸ばすことを意識することで、腰を痛めない。

  • 両足が内側に向きやすくなるため、両足のつま先は、後ろに向かってまっすぐ伸びるように置く。

筋肉

  • 腸腰筋(大腰筋)
  • 腰椎の肋骨突起から大腿骨の小転子まで走る筋肉。このポーズでは体が硬い人でも無理なく腸腰筋を伸ばすことができる。伸びを感じにくい人は、太モモを浮かしてもOK。

  • 胸棘筋
  • 胸椎の際に存在する深層部の筋肉。胸椎を前に出そうと意識することで、胸棘筋が作用する。広背筋を意識すると腰を反らしてしまい腰痛の原因になるため、胸椎に意識を向けて状態を起こそう。

筋膜

  • フロントライン
  • 骨格(アライメント)の位置を正しく取れたら、足のつま先からノドの奥あたりまで、まっすぐに伸びている意識を持ってみよう。足の甲でマットを押すと筋膜の伸びを感じやすくなる。

丁寧に行うことがワンランクアップへの近道

今回は、ヨガのポーズの中でも最も代表的なポーズの二つ、ダウンドッグとアップドッグを例に取って、3つの要素への意識の向け方を紹介した。

三段階に分けて、一段階ずつポイントを着実にクリアしていけば、最終的には今までのポーズよりも全身に効く、ワンランクアップしたポーズを手に入れられるはず!

最初は欲張らずに、明確に意識化できるまで丁寧に自分の体を観察してみよう。

教えてくれた人=高村マサ
たかむらまさ。『ヨガの解剖学.com』代表。鍼灸マッサージ師。骨盤ヨガ、経絡ヨガ、筋膜リリースヨガ考案者。ヨガ解剖学や東洋医学の講座は“わかりやすい”と大人気。著作に『からだ巡りヨガ大全』他。https://yogakaibougaku.com

文=Yogini編集部