みなさん、こんにちは! 丘紫真璃です。今回は、文学の世界を抜け出して、映画の世界をのぞいてみたいと思います。
ウォルト・ディズニーのミュージカル映画『メリーポピンズ』は、多くの方が知っていらっしゃることでしょう。2019年に『メリー・ポピンズ リターンズ』という映画も公開されましたし、浅田真央さんがエキシビションでメリーポピンズに扮したことでも有名ですよね。
『メリー・ポピンズ』は、第37回アカデミー賞で13部門ノミネートされ、そのうちの5部門を受賞したという名作中の名作です。この時、主演女優賞に輝いたジュリー・アンドリュースは、この作品で一躍、映画スターの仲間入りを果たしました。
そんな名作のミュージカル映画と、ヨガがいったいどんな関係があるというのでしょう?
華麗なミュージカルとヨガの結びつきを探しに、さっそく、メリーポピンズの世界にいきましょう!レッツゴー!
20年近くかかって実現した『メリー・ポピンズ』の映画化

『メリー・ポピンズ』は、ウォルト・ディズニー・カンパニーのミュージカル映画で、1964年に制作されました。原作は、パメラ・L・トラヴァースの『公園のメアリー・ポピンズ』なのですが、原作者のトラヴァーズは、メリー・ポピンズの映画化に大反対していました。
けれども、ウォルト・ディズニーは20年近くかかって、トラヴァーズを説得して映画化を実現させたということですから、その情熱には驚かされますね。
確かに、原作と映画のメリー・ポピンズの世界観はけっこう違います。原作のメアリー・ポピンズの方がうぬぼれ屋で、自信家。キビキビとしていて厳しいというイメージがあるのですが、映画のメリー・ポピンズは、優しく楽しいイメージが強いです。
私はどちらも大好きで、それぞれ、このコラムで取り上げたいくらいなのですが、今回は、映画の世界のメリー・ポピンズの方をみなさんと見ていきたいと思います。
不思議な魔法使いメリー・ポピンズ
映画の舞台は、1910年のロンドン。桜並木通りのバンクスさんの家ではじまります。バンクス氏は仕事第一の銀行勤めの紳士。バンクス夫人は、女性参政権の運動に没頭しているため、子ども達が凧あげをいっしょにしてくれるように頼んでも、二人ともそんな暇はありません。
子ども達の世話は全て乳母に任せきりになっているのですが、バンクス家にやってきた乳母は、みんなすぐにやめてしまいます。二人の子ども達…ジェインとマイケルのいたずらに困り果ててやめてしまうらしいのです。
新しい乳母をどうしようと両親が相談しているところに、ジェインとマイケルがやってきます。二人は、新しい乳母の広告文を書いてきたというのです。
子ども達の広告文は、ゲームをいっぱい知っていて、歌が上手で、お菓子をくれて、明るくて優しくて、私達をかわいがってくれる人……と夢のような素敵な文句を並べたてたものだったのですが、父親のバンクス氏は問題外だと相手にしません。
今度の乳母は、厳格で厳しく、伝統や秩序を重んじる人でなければならないと、子ども達の広告文を破り捨て、暖炉に放り込んでしまいます。
ところが、破り捨てられた二人の広告文は煙突から空高くに飛んでいき、雲の上を飛んでいたメリー・ポピンズの手に届きます。そして、メリー・ポピンズは、かさを広げ、風に乗って空を飛んで、バンクス家にやってくるのです。
メリー・ポピンズと面談したバンクス氏は、破り捨てたはずの子ども達の広告文を彼女が持っていることに驚愕してしまいます。バンクス氏が混乱している間に、メリーポピンズは、一人でサッサと話を決めて、さっそく、子ども部屋に上がって働きはじめます。
ところが、このメリー・ポピンズは、はじめから何と風変りなやり方をすることでしょう! 階段だってただ普通に上がりません。階段の手すりに座り、手すりをすべり上がってくるのです。
彼女はじゅうたん製のボストンバックを持っているのですが、そのボストンバックから、背の高いぼうしかけや、とても大きな鏡など、普通なら入るはずもないものが次々に飛びだします。
ジェインとマイケルは、もう、この不思議な魔法使いのようなメリー・ポピンズから、目が離せなくなってしまいます。子ども部屋の片付けだって、メリー・ポピンズの手にかかったら普通ではすみません。片付けゲームをしましょうと、メリー・ポピンズは明るく言います。
ジェイン:(疑わしそうに)それ、本当にゲームなの?
メリー:考え方によるわ。楽しくやる方法があるのよ。そのコツを見つければ、仕事はゲームになるー映画『メリー・ポピンズ』より
そのとき、メリーが歌うのが「ひとさじの砂糖」なのですが、皆さんはご存知でしょうか?
誰にだって 楽しみながらできる
スプーン1杯のお砂糖があれば
どんな薬もへっちゃら
苦い薬もおいしく飲める♪

メリー・ポピンズはワクワクするような明るいメロディーに乗せて歌いながら、指をパチンと鳴らしていきます。そうすると、散らかったおもちゃはたんすの中に飛びこみ、くちゃくちゃの毛布はまっすぐになり、たちまち、部屋は魔法のように片付いていくのです。
これには、ジェインとマイケルも夢中になり、自分達も指を鳴らしながら、部屋じゅうを駆け回ります。
メリー・ポピンズと一緒なら散歩だって、ただの散歩では終わりません。ジェインとマイケルは、メリー・ポピンズと共に歩道に描かれた絵の中に飛びこんでいったり、笑ったら天井までフワフワ浮かび上がってしまうおじさんに出会ったりと、目をみはるような不思議で面白い体験を次々にしていきます。
子ども達が楽しげに明るくなると、家全体が楽しげになっていきます。以前は、仕事をぶつくさと文句を言いながらこなしていた小間使いやコックも、子どもたちにつられて歌いながら、仕事をするようになり、家が明るくなっていくのです。
バンクス氏の失業
ところが、この変化を気に入らない人がいました。ジェインとマイケルの父親、バンクス氏です。厳格なバンクス氏は、絵の中に入っただの、笑いながら天井に浮かぶおじさんだの、実にくだらんと怒ります。
そして、もっと現実的なことを教えようと子ども達に預金をさせるため、自分がつとめている銀行に連れていきます。
子ども達は、ちょうど2ペンス持っていました。バンクス氏はその2ペンスを預金させようと思ったのですが、子ども達は嫌がり、抵抗します。
それが、銀行の重役や名誉社長までも巻き込む大騒ぎに発展しまうのですが、くわしいいきさつは、映画を実際に見ていただくことにして、とにかく、子ども達が起こした騒ぎがきっかけで、取り付け騒ぎが起こってしまいます。
大混乱に陥った銀行から真っ青になって逃げだしたジェインとマイケルを助けてくれたのは、メリー・ポピンズの友達で、煙突掃除の仕事をしていたバードでした。
お父さんがものすごく怖い顔をしていたこと、自分達のことを嫌っているだろうということを、子ども達はバードに話します。バードはその言葉に驚き、そんなはずはないよと言います。そして、お父さんが怖い顔をしていたわけをバードなりに考え、こう子ども達に話します。
「考えてごらん。お父さんは気の毒な人だ。毎日ぞっとするほど冷たい銀行で、冷たいお金に囲まれている。檻の中にいるんだ。銀行の形をしたじゅうたん敷きの檻だよ」
ー映画『メリー・ポピンズ』より
その後、子ども達はバードやメリー・ポピンズと一緒に、煙突からロンドンの屋根へと上がり、バードの煙突掃除仲間の男達の、胸も躍るようなダンスを見たりして楽しみますが、気の毒なのはバンクス氏です。取り付け騒ぎの責任で銀行を辞めさせられてしまったのです。
凧をあげよう
電話で名誉社長からクビ宣告を受けたバンクス氏は、ガックリ落ち込んでしまいます。そして、バンクス家の煙突掃除の片付けをしていたバードに、思わず胸のうちをこぼします。立派な人物になりたくて頑張ってきたのに、自分の野心は一瞬にして泡と消えてしまったと、バンクス氏は苦々しく嘆くのです。
すると、バードは、煙突ブラシを片付けながら、メリー・ポピンズは、いつもこんな歌を歌っていると言って、口ずさみます。
毎日なめると気分が軽くなる♪
メリー・ポピンズの名前を聞いただけで、バンクス氏は嫌な顔をするのですが、バードはかまわず歌い続けます。
子どもたちがあんたを見上げて笑いかけても
忙しすぎてつれなくそっぽを向いてしまう
あんたはいつでも仕事しか頭にない
子ども時代はあっという間にすぎ
幼い二人はたちまち大人になって 親元を飛び去っていく
そうなってからでは愛を与えられない♪
バードがそう歌って去って言った後、子ども達がバンクス氏の前に現れます。「私達のせいで、こんなことになってごめんなさい」と謝って、バンクス氏の手に2ペンスを渡します。お父さんの好きに使っていいというのです。
バンクス氏は驚き、2ペンスをまじまじと見つめてバードに言われたことを考え込んでしまいます。
その後、バンクス氏は名誉社長のところに出向き、ふっきれたように、今までなら委縮して言えなかったようなことを言います。そして、翌朝、凧を手に持ち、凧あげをしようと子ども達を誘います。
両親と楽しげに凧あげに出かけていくジェインとマイケルの姿を窓からこっそり見てから、メリー・ポピンズは、かさを広げ、空に飛び立っていきました。また別の子どもを幸せにするために…。
ひとさじのお砂糖で世界が変わる
さて、今までご紹介してきた「メリー・ポピンズ」の映画は、どこがヨガとつながりがあったのでしょうか? 私は、「ひとさじの砂糖」が、ヨガポイントになるような気がして仕方がありません。
ひとさじの砂糖は、つらい仕事を楽しく変えてくれるんだとメリー・ポピンズは歌います。バードは、ひとさじの砂糖は何でも効いて、気分を軽くしてくれるんだと歌います。
その「ひとさじの砂糖」とはきっと、子どものような無邪気な目で世界を見ることなんじゃないかなと、私はそう思うのです。それはヨガでいうサットヴァな目で世界を見るということでしょうか。

煙突掃除の仕事をしていたバードは、子ども達にこう歌っています。
狭くて暗い穴に入るから、つらい仕事だと思うだろう
でも、灰とすすにまみれるのが 僕はすごく好きなのさ♪
そして、煙突の上から見たロンドンの眺めのすばらしさを語り、あんな景色は、鳥と星と煙突掃除人だけが見られるんだ…と、真っ黒なすすだらけの顔で幸せそうに語ります。
つらい仕事を楽しくしてくれる「ひとさじの砂糖」は、きっと、煙突掃除をしながら、ロンドンの眺めのすばらしさに気がつくことだと思うのです。鳥と星と煙突掃除人だけが見られるとびきりの景色の美しさは、ほんのひとさじの遊び心で気づく事ができるのでしょう。
バンクス夫妻のように、自分の用事で忙しくて、子どもにかまってやれない親は、今の世の中にもたくさんいることでしょう。コロナで大変な時代の今、かつてより増えているかもしれません。
けれども、ほんの少しの遊び心で、世界は魔法のように楽しく変わることができるのだと、「メリー・ポピンズ」は教えてくれます。
遠くまで旅行に出かけたり、レストランに行ったり、遊園地に遊びにいったりできなくても、ほんの少しのお金で、紙と糸を買って凧を作り、近所の公園で凧あげをするだけで幸せになれるということに気がつかせてくれるんです。
ラスト、幸せいっぱいのバンクス一家は、みんなでそろって凧あげをしながら歌います。
足は大地に 心は空高く舞い
手に糸を握って 凧をあやつろう♪
青空いっぱいに凧がひるがえるラストを見て、かさを広げて空を飛んでいくメリー・ポピンズが消えていった後、思わず、手に糸をにぎりしめて、歌いながら凧あげにいきたくなってしまいます。
メリー・ポピンズを彩る名曲の数々こそ、聞いているだけで、子どもの遊び心を呼びさましてくれる楽しい魔法です。
メリー・ポピンズの映画を観れば、誰だって、その魔法にかかることができるんです。気がふさぎがちな今こそ、DVDをつけて、メリーポピンズの魔法にかかってみませんか。
そしてまた、原作も開いて、メアリー・ポピンズの魅力にどっぷりはまってみて下さいね。