ヨガ的心の観察〜ネガティブにも、ポジティブにもとらわれない心を育む〜

ヨガ的心の観察〜ネガティブにも、ポジティブにもとらわれない心を育む〜

日常生活の中で抱いている悩み事について考えてみましょう。実は、私たちの抱いている悩みごとのほとんどは、私たちの心の中の思い込みによるものかもしれません。

私たちは、物事を「良い・悪い」や、「ポジティブ・ネガティブ」という二極の概念で見ています。そうやって世の中を見ることが、私たちの苦しむを生む原因かもしれません。

自分を束縛するポジティブ思考の罠

ヨガの勉強をしたり、ヨガを教えている先生たちと話をしていると、とてもポジティブな言葉にあふれています。

例えば、サントーシャ(知足)について、「あなたはすでに満たされた状態ですよ。今すでに与えられたものに意識を向けることで、幸せや感謝の気持ちがあふれてきます。」と習います。

そのようなポジティブなヨガ思想について学んだ人の中には、「確かに私の子どもが毎日元気にいてくれるだけで幸せだな。もっと一緒にいられる時間を楽しもう。」と素直に思える人もいるだろうし、「先生の言っている意味は分かるけれど、私はなかなか前を向けない。」と思う人も必ずいます。

とくに真面目な人ほど、「みんなキラキラしているのに、ずっと後ろ向きな私はできそこないなのかも。」と悩んでしまうかもしれません。常に前向きでポジティブな人は輝いて見えるでしょう。しかし、それだけが正解ではありません。巷にあふれるポジティブな言葉に翻弄されないように気を付けましょう。

常に前向きを心がけているのに、疲弊するカラクリ

ポジティブ思考を身に着けるためには、沢山のコツがあります。

  • 自己肯定感を高めるために、毎日自分のやった良い行いを書き出してみよう。
  • 周りの人にもっと感謝しよう。
  • 苦手なことは、克服することで成長できるチャンス。

確かに、このように常に前向きに考えることができれば、人生はとても楽しいものになるかもしれません。しかし、それは心から思った時に限ります。ポジティブ思考で疲れてしまう人の原因は、本当は悲しかったり苦しかったりするのに、それを覆い隠すためにポジティブ思考を自分に強要してしまうからです。

常に前向きを心がけているのに、疲弊するカラクリ
前向きを心がけていても疲弊するカラクリ

例えば、仕事を失って悲しんでいる時に、なんとかその悩みから立ち直りたくて、自分にポジティブなアドバイスを投げかけます。

「これは、もっと最良の天職を見つけるチャンスだ。」
「今こそ、自分自身の良い部分をしっかりピックアップして、転職活動を頑張ろう。」
「今まで会社の中の常識に捕らわれていたから、沢山の企業をみて視野を広げよう。」

だけど、本当の心の声を聴いてください。

「仕事がなくなって将来が不安。」
「ショックで疲弊して転職活動したくない。」

心の中にはネガティブな思考があふれているはずです。

心の中のネガティブ思考を隠すためにポジティブ思考で蓋をし続けることは、ごみ箱の中のごみを捨てないで、上から芳香剤やフタをして隠している状態です。中に押し込められたごみは、腐ってしまい、いつか爆発します。

心の中の不安が爆発する前に、自分の中のネガティブを取り出してあげましょう。

良い・悪いを決めるのは誰?

ポジティブ・ネガティブの違いを生むのは何なのか?それは、私たちが信じている善悪という判断基準です。


ポジティブ=良いこと
ネガティブ=良くないこと

と、無意識のうちに決めつけているので、私たちは「良い」と考えられているものを求めます。では、誰が良し悪しを決めているのか?それは、自分自身です。
『バガヴァッド・ギーター』においてクリシュナは、良い悪いに捕らわれない平等の心の境地こそヨガであると説いています。

執着を捨て、成功と不成功を平等のものとみて、ヨーガに立脚して諸々の行為をせよ。ヨーガは平等の境地であると言われる。(『バガヴァッド・ギーター』2章48節)

一生懸命ポジティブに考えようとしている時は、「明るい自分」という目標に執着している状態です。執着がある時、人は自由になれません。ポジティブであれば幸せになれると考えると、ネガティブな自分は不幸になるという思い込みもセットで付いてきます。

クリシュナは、この世のすべてを受け入れることを勧めています。それは、社会常識で一般的に悪いとされていることもです。

たとえ極悪人であっても、ひたすら私を親愛するならば、彼はまさしく善人であるとみなされるべきである。彼は正しく決意した人であるから。(『バガヴァッド・ギーター』9章30節)

まずは現状を受け入れることから始めましょう。世の中のすべてのものには良い側面と悪い側面の両方があります。だから、ジャッジすることなく、執着せず、冷静な心でいることが大切です。

ネガティブな自分の個性も受け入れる

内向的な人、ポジティブになれない人は、それが自分の心の個性だと認めて、受け入れてあげるといいです。

自己との類比により幸福にせよ不幸にせよ、それを一切において等しいものと見る人、彼は最高のヨーギンであると考えられる。(『バガヴァッド・ギーター』6章32節)

ネガティブな自分の個性も受け入れる
自分の心の個性だと受け入れる

物ごとに対して、幸福と見るか、不幸と見るか、どちらも正しいのですが、偏ってしまうと危険です。ポジティブとネガティブの良い部分と悪い部分について考えてみましょう。

ポジティブで外交的

勇気があって前に進んでいく姿が輝いて見える。その一方で、繊細さに欠け、リスクを考えずに即実行に移す特徴がある。

ネガティブで内向的

アクションを起こすまでには時間がかかる傾向があるが、緻密に計画を立てることや、あらゆるリスクについて熟考することが得意。また、コツコツと積み上げることが得意。

組織や社会の中では、両者のバランスがとても大切です。自分はネガティブな考え方をしやすい、他の人のような活躍ができないと思っていても、それは悪いことではないことを認めてあげましょう。

本来自然界であればネガティブな思考は命を守るために重要なものでした。常に恐怖心を持っていないと天敵から身を守ることができません。もしかしたら、向うの木陰に天敵が潜んでいるかもしれない。と、恐怖心を持って、リスクを避けることによって命を守ることができます。現代においても、慎重さは決して悪いものではありません。

大切なのは、感情に囚われないこと

大切なのは、感情に囚われないこと
大切なのは、感情に囚われないこと

ネガティブな思考が悪くないと言っても実際に心がネガティブな状態にあると幸せを感じにくいですよね。

ヨガでは、ネガティブを受け入れながらも、そこに思考が捕らわれないようにすることで、心を自由な状態にしていきます。

動揺し不安定な意がいかなる原因でさまよい出ても、各々の原因からそれを制して、自己の支配下に導くのである。(『バガヴァッド・ギーター』6章26節)

それには、自分自身を客観的に観察することが大切です。もし頻繁に人に会うことで疲れてしまうのであれば、友達付き合いは最小限にして、自分の一人の時間の楽しみ方を見つければ大丈夫。新しいことをするのにストレスを感じてしまうのならば、今の生活をコツコツと積み上げるのも正解です。

友達が海外旅行のキラキラした写真をSNSに投稿していても、自分と比べる必要はありません。それよりも、家で自分の好きな映画を見たり、休みの日は贅沢に寝て過ごすのが幸せと感じるのであれば、自分にとっての快適さを見つけた方が幸せに生きることができます。

不安でも、受け入れると心が楽になる

時には、不安や悲しみの感情も起こります。しかし、それは人間として生まれたのであれば、当たり前に直面する真実。心が不安定であっても、その不安定な心を客観的に観察して、受け入れてあげることによって、自然に不安は収まっていきます。

心を制御することはとても難しいですが、常修(繰り返し行うこと)と離欲によって必ず叶います。

ネガティブに考えがちな自分に直面しても、それを受け入れることで、不思議と不安は楽になっていきます。その結果、安心して少しづつ前を向きやすくなります。ヨガ的な心の観察をして、まずは今の自分自身を受け入れましょう。

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