呼吸を知って 体を整える

呼吸を知って体を整えよう〜意外と知らない呼吸の種類と呼吸筋〜

無意識に浅くなっていない?現代人が行っている五つの呼吸

呼吸の種類、と言うと胸式呼吸と腹式呼吸を思い浮かべる人が多いのでは?しかし、特殊な呼吸を除いても、普段私達が無意識に行っている呼吸は5種類ある。

ストレス社会に生きる現代人は呼吸の状態が崩れている人が多い。特に「浅い呼吸」は、自ら疲労や凝りを作っているようなもの。呼吸の種類と特徴を理解して、「深い呼吸」で自律神経を安定させ、心身の好循環を生み出そう。

腹式呼吸

理想的な「基本の呼吸」。使う筋肉が一番少ないためリラックス度が高い。胸式呼吸に比べ呼吸の容量が多い。

吸う時に横隔膜が下がり、お腹が膨らむ。吐く時には横隔膜が弛緩し元の位置に戻り、腹部が軽く引き込まれる。

ゆっくり吐くことで副交感神経が活性化する。

使う筋肉

呼気:横隔膜の弛緩

吸気:横隔膜の収縮
   腹筋群の弛緩

胸式呼吸

有酸素運動時は自然と胸式呼吸に切り替わる。腹式呼吸に比べ呼吸が速くなり、筋肉が活性化する。

吸う時には外肋間筋と横隔膜が収縮し、胸郭が広がり胸部が膨らむ。吐く時には内肋間筋が収縮し、横隔膜は弛緩し、胸は元の位置に戻る。

交感神経が活性化されるため、心拍数や血圧が上昇。

使う筋肉

呼気:内肋間筋
吸気:外肋間筋、横隔膜

腹胸式呼吸

胸式呼吸と腹式呼吸を半分ずつ使う。女性に多い呼吸と言われている。女性は腹部の骨盤内に子宮や卵巣といった重要な臓器がある。そのため半分胸式呼吸を使うことで、腹部を動かしすぎないようにし、それらの臓器の安定を保つことができる。自然防御の反応だ。

使う筋肉

呼気:横隔膜の弛緩、内肋間筋

吸気;外肋間筋、横隔膜、腹筋群の弛緩

浅い胸式呼吸

いわゆる「浅い呼吸」。現代人に多い。主に首まわりにある前、中、後の三つの斜角筋、胸鎖乳突筋といった呼吸補助筋を使うため、腹圧の増減幅が少なく、呼吸は浅くなる。

多くの筋肉を使うため、交感神経が興奮し続ける。疲れやすく、首・肩コリの原因。肩が浅く上下する。

使う筋肉

呼気:内肋間筋

吸気;外肋間筋、横隔膜、斜角筋群、胸鎖乳突筋、僧帽筋

努力呼吸(完全呼吸)

四つの安静時の呼吸に対して、激しい運動の後、不足した呼吸量を補うため、否が応でも出てくる呼吸。

すべての呼吸筋を目一杯使うため、一番興奮度が高い。胸郭や腹部は大きく広がり、肩も大きく上下する。

ヨガの練習で意識的に同じ状態を作り出すのが「完全呼吸」と言われる呼吸法。

使う筋肉

呼気:横隔膜の弛緩、内肋間筋

吸気:外肋間筋、横隔膜、腹筋群の弛緩、斜角筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋

日常的に呼吸を観察する習慣を

偏頭痛、首、肩のコリ、不眠、疲労などさまざまな不調の原因は、自律神経のバランスの乱れ。特に、現代人は交感神経の過緊張が原因の場合が多い。

ヨガの呼吸で自律神経を整えるのももちろんいいが、やはり意識したいのは日常での呼吸。

仕事中、家事をしている最中、考えごとをしている時など、日常的に呼吸を観察する意識を持ちたい。呼吸に使われる筋肉、その動きを知っておくと、呼吸を客観的に観察できたり、使う筋肉をイメージすることで、より深い呼吸ができる。

一日2〜3万回していると言われている呼吸。その呼吸によって、私達は全身の約60兆個という膨大な数の細胞に酸素を届け、エネルギーを生み出している。

いつも無意識している呼吸に、一日10分だけでも意識を向けて呼吸するだけで私達の体は変わってくるだろう。

季節の変わり目、なんとなく不調が続いたら、まずは自分の呼吸を見直してみるのも効果的かもしれない。

教えてくれた人=石井正則
いしいまさのり。医師。JCHO東京新宿メディカルセンター・耳鼻咽喉科部長。ヨガインストラクター。ヨガと現代医学の架け橋として東西を奔走。

イラスト=macco
文=Yogini編集部